【第二部-弐】誰かを想い続けた村雨と時雨、そして白露 #見つめる時雨

村雨×時雨 村雨×白露 ※R-15
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村雨視点

とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「んー…」 秘書艦の仕事が一段落ついた。腕を天井の方に上げ、背筋を伸ばす。うーん…疲れたぁ。 「村雨、ごめんなさい、ちょっと取ってきて欲しいファイルがあるのだけれど」 書類の山の向こうから提督の声がする。…あの山も整理しておいた方が良さげねぇ…。

2014-03-09 21:00:53
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「はいはーい。村雨にお任せ!」 提督からメモを貰い、書庫へ向かう。メモを眺めると、結構な量だった。あの机に置くスペースあるのかしら…。そう思いながら指定されたファイルを探し、集めていく。 「ふぅ…これで全部かしらね…」 数冊のファイルを探し出し、再び提督室へ向かった。

2014-03-09 21:05:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

弾薬に比べればこの程度の重さは大したことなんだけど、よりにもよって指定されたファイルの大きさがバラバラで、今にも滑り落ちそうだった。紐でもあれば縛ってしまえたんだけど…。そして、提督室の前にたどり着いた。あ…両手が塞がってドアノブ回せないじゃない…。足で蹴っていいかしら…。

2014-03-09 21:10:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

…はしたないわよね。えっと、一瞬だけでも片手で持てれば…。 「…えいっ…って、きゃあ!?」 ファイルの山が崩れ落ち、盛大に床に落としてしまった。つられて私もバランスを崩し、尻もちをついてしまう。 「いたた…やっちゃった…はぁ…」 …最近、なんだか踏んだり蹴ったりね、私…。

2014-03-09 21:15:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

…どうしよう、泣きたくなってきちゃった…。ホント、今の私って惨め…。…でも、ここでこうしてても、誰かが助けてくれるわけじゃない。ねぇ、峯雲…。 「……」 …ファイル集めないと…。私は手近なファイルに手を伸ばした。 「村雨?」 誰かがこちらへ走ってくる音が聞こえてきた。

2014-03-09 21:20:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「…時雨?」 「大丈夫?村雨。これ、集めればいいの?」 時雨はそう言って、散らばったファイルを集め始めた。 「あ…だ、大丈夫だって…いっ!?」 立ち上がろうとしたら、足首に鈍い痛みが走った。転んだ時に捻っちゃったのかな…。 「これで全部かな。これ、提督に?」

2014-03-09 21:25:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「村雨?」 座り込んだままの私を変に思ったらしく、時雨が不思議そうな目で私を見る。 「時雨…その、ごめんなさい…それ、そのまま提督のところに持って行ってくれないかしら…」 「うん、いいよ。あ…ごめん、村雨。ちょっとドアを開けて欲しいんだけど…」 あ…そうよね。

2014-03-09 21:30:23
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

壁に手をつき、何とか立ち上がる。そして提督室の扉を開けた。時雨が中に入って行く。 「ありがとう…って、あれ、時雨?村雨は?」 「入り口のところにいるよ。ドアを開けてもらったんだ。あと…」 時雨が代わりに提督の元へ持って行ってくれた。はぁ…私って役立たず…。

2014-03-09 21:35:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

…そうだ、まだ秘書艦の仕事が…。そう思っていると、時雨がこちらへ歩いてくるのが見えた。 「村雨、行くよ」 「え?」 時雨が私の手を引き、部屋の外へ出る。 「あ、待って…っ!?」 痛みでバランスを崩し、また転びそうになる。でも今度は…時雨に受け止められた。

2014-03-09 21:40:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「やっぱり、足、痛めてるでしょ。提督には言ってあるから、これから療養室に行くよ」 「え…だ、大丈夫だってば…」 いつの間にか肩を抱かれていた。時雨の顔が近い。 「悪化したら大変だよ。…よいしょ」 両足が宙に浮く。…え!?ちょ、待…!私は、お姫様抱っこされていた…

2014-03-09 21:45:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

時雨がそのまま何食わぬ顔で歩き出す。 「え…嘘…ちょっと、何して…」 「療養室まで結構距離あるから。歩くの辛いでしょ?」 「でも、こんな…すっごい恥ずかしいんですけど…」 時雨が笑いながら「我慢してよ」なんて言う。私はもう縮こまることしかできなかった…

2014-03-09 21:50:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「いたっ…」 療養室の椅子に座り、足元で時雨が私の足首の様子を見ている。 「捻挫かな。シップで冷やして、その後テーピングしておこう」 時雨が棚からシップを取り出し、私の足首に貼る。 「…ごめんなさい、時雨…」 「村雨はここで休んでて。秘書艦の仕事は僕が引き継ぐから」

2014-03-09 21:55:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「また後で来るから。その時にテーピングするね」 そう言って時雨は出ていこうとした。…私の中で、あの時の夕立が時雨と重なる。私は思わず… 「待って…。あ…」 咄嗟に口を抑えた。でも時既に遅し…。時雨が不思議そうな目で私を見ていた。 「村雨、どうかした?」

2014-03-09 22:00:52
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

何で私、こんなこと…。しかも時雨に…。 「…ちょっと待ってて」 時雨は何処かへ行ってしまった。…途端に寂しさが増す。…私、時雨でもいいから、傍に居て欲しかったんだわ…。 「あー…もう…」 孤独感が…私を支配していた。

2014-03-09 22:05:22
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

…ブラケット水道。そこで私は沈んだ。今はビラ・スタンモーア夜戦なんて呼ばれてるけど、それは向こう側の呼称で、あまりに一方的だった為に、こちら側では海戦の名前すらない。一緒にいた峯雲は一瞬で水柱と煙に包まれて、浮いているのかもわからなかった。私の周りには、誰もいなかった…

2014-03-09 22:10:23
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

…私は、孤独がこわい。ひとりはもう嫌…。夕立は結局、時雨にフラれちゃったみたいだけど…でも、本人はまだチャンスあるから、なんて意気込んでるし、私も前向きになった夕立を嬉しく思ったけれど…でも、それは同時に、私と付き合ってはくれないんだって、そういうことで…。私は、ひとり…。

2014-03-09 22:15:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「はい」 …目の前にミルクティーの缶があった。 「温まるよ」 …私はそれを両手で受け取った。温かい…。…時雨が別の椅子を近くに移動させ、そこに座った。そして自分の分の缶を開ける。 「村雨も、それ、飲みなよ」 私は、貰った缶をじっと見た…。

2014-03-09 22:20:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

…はぁ…どうして時雨はこんなに優しいのよ…。どうしてこんなに優しくしてくれるのよ…。貴女がそんな人じゃなきゃ…もっと嫌なやつだったら…遠慮無く夕立を奪ってしまえたのに…。…この優しさに、あの娘は惹かれたのかな…。…私は、缶のフタを開けた。そして一口飲む。…甘い。温かい…。

2014-03-09 22:25:22
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「じゃあテーピングするね」 いつの間にか時雨が私の足元にいた。シップを取り、手際よくテープで足首を固定していく。 「キツすぎたりしない?」 時雨が私を足元から見上げた。私は足を軽く動かし、確認する。 「大丈夫…」 その時、時雨が「あっ」と声を漏らし、目を逸らした。え…?

2014-03-09 22:30:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

時雨の顔が変に赤い。一体何を見て…見て?あっ! …私はスカートを抑えた。…妙に気まずい空気が流れる。 「…見たの?」 「…見てないよ」 「色は?」 「白…あっ」 …正直過ぎる時雨に、私は思わず吹き出してしまった。バッチリ見てるじゃない…。 「いや、その…ゴメン…」

2014-03-09 22:35:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

…色んな感情でぐちゃぐちゃだった私の思考がクリアになる。何だか、一気に毒気を抜かれた気分…。 「えいっ」 無傷の方の足で時雨を軽く蹴飛ばす。足は時雨の膝を小突き、時雨は後ろに倒れた。 「わっ!ちょっと、何するんだ…ああ、もう…」 何?また見えたの?…時雨のむっつりめ。

2014-03-09 22:40:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

ま、私も拝ませて貰ったわ。時雨の「黒」。随分背伸びしちゃって。でも、これでおあいこにしてあげる。 「もう…。あ、僕はそろそろ行かなきゃ。村雨は一人で戻れそう?」 私は時雨に手を伸ばした。 「部屋まで連れて行って」 軽くため息をつかれた。ちょっと、時雨ってば失礼じゃない?

2014-03-09 22:45:22
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

流石に私ももう一度お姫様抱っことか恥ずかしすぎるので、肩を貸してもらい、部屋へと連れて行ってもらう。時雨と別れ、畳んだままの布団に寝転んだ。 「はぁ…」 時雨にテーピングされた足を眺める。私はそれに向かって、話しかけた。 「少しは気分晴れたわ…。ありがと、時雨――」

2014-03-09 22:50:21

深夜…