daisinmonkanさんの『虐殺器官』初読時感想
【『虐殺器官』読書メモ】もしかしたら、人々の幸福のために、善のために、虐殺を行い、民衆を服従させようとする人々がいるのではないか? 凄まじく倒錯した議論だが、これが天性の「内ゲバ(ポリフォニー)作家」ドストエフスキーが自らの内なるキリストに対して突き付けた難題だった。
2011-06-13 01:58:17【『虐殺器官』読書メモ】二十世紀の作家や詩人が直面せざるを得なかったこの難題に対して、伊藤計劃はどう応答するのか。続きを読もう。
2011-06-13 02:01:54【『虐殺器官』読書メモ】読了。面白かったー。もうこんな時間なので、詳しい感想は明日書くけど、そうか、こういうラストを選んだか。あの語り手だとこうなるよな……。
2011-06-13 02:45:13【『虐殺器官』読書メモ】個人的には「おまえは……自分が『悪』だと気づいていない……最もドス黒い『悪』だ」と指摘できるキャラがもっといればな。エンポリオ成分&アリョーシャ成分が足りなかったなぁと。それは次の『ハーモニー』で描かれるのかな? とにかく、素晴らしく高密度な小説だった。
2011-06-13 02:48:48自分の文章を読み返してみると恐ろしい勢いで文学部ジャーゴンに塗れていて良くないなあと思うのだが直す気はさらさらない。ゲハハハハハハハハ!
2011-06-14 12:15:22@vitamine_tikuwa かなり抽象的になる可能性が……。ラストまで読んで思ったのは「これは日本浪漫派だ」ということなんですが、果たして「日本浪漫派」を知ってる人が文学部生以外でどれだけいるのか、ということが悩み所です。
2011-06-14 12:25:27【『虐殺器官』読書感想文(以下「虐殺読文」)】まだ自分の中でまとまっておらず取りとめもなく抽象的に書くことになると思う。さて、テーマ論的にまとめてみると「『大審問官になること』を拒絶した少年の物語」だったかなと。俺の脳内ではだが。
2011-06-14 23:17:51【虐殺読文】ラストを読んでそれまでの感想が一変したわけです。「大審問官の子孫たちの物語」だと思ってたのが覆され、この作品ははっきり言ってしまうと「日本浪漫派」だったんじゃないかと。
2011-06-14 23:21:15【虐殺読文】最初に嫌な予感(?)がしたのはやっぱり語り手の一人称とその語り口。「ぼく」という一人称にはびっくりした。俺の貧相なデータベースから抽出すると翻訳小説で「ぼく」は結構あるような気がするけど、日本だと庄司薫、田中小実昌、そして大塚英志(笑)くらいしか知らない。
2011-06-14 23:25:27【虐殺読文】評論の大塚とナイーヴな演出のために「ぼく」を使用した庄司薫は置いておくとして、最初は田中小実昌の作品を真似たのかと思った。事実、地の文を頻繁にひらがなに開く技法(小さな→ちいさな、今度→こんど、開いた→ひらいた)は語り手の幼さを想起させる。
2011-06-14 23:29:20【虐殺読文】作家自身も「主人公は成熟していない、成熟が不可能なテクノロジーがあるから」とインタビューで語っており、これは狙ったことだったようだ。この目論見は相応に成功しており、(わざとやったと思われる)文章の未熟な繋ぎ方などもむしろ巧い。
2011-06-14 23:36:37【虐殺読文】ただ、ほとんど白痴的なまでに幼い主人公が唐突に、ポロッと哲学的な言葉を吐き出す田中小実昌の『ポロポロ』と違い、こちらはSFとして書かれた。頻繁に紙面を賑わす「漢字にカタカナでルビをふった」SF的ジャーゴンとこの語り口の軋轢をどう考えるか。
2011-06-14 23:41:08【虐殺読文】俺としてはかなりグロテスクで主題にもマッチしていて良かったと思うんだけど、ここでかなり違うものを呼び込んでしまったかなと。つまり保田與重郎、三島由紀夫、島尾敏雄などの「日本浪漫派」を。だからこの文体をナイーヴだとか繊細だとか言っちゃいけないんだ。
2011-06-14 23:54:18【虐殺読文】それはつまり日本人がバラードをやろうとするとどうしても日本浪漫派になってしまうという難題が出現した瞬間だったと思う。バラードの持ってる、全否定としての終焉を延々と待ち続けるあのデカダンで倫理的な無為の感覚。これが日本人には分からないのではないか。
2011-06-15 00:03:28【虐殺読文】バラードのあれっていうのはやっぱりゴージャスで極彩色な血と肉と性器の滴りから来てるものだから、お茶漬け大好き日本人がやるとどうしても浪漫派に、つまり三島や島尾になってしまう。この主人公、どうしても俺には「アメリカ人」に思えなかった。
2011-06-15 00:10:32【虐殺読文】この語り口から抽出されてくる主人公像は文弱な日本人の少年で、この作品に対して「ゲームっぽい」という感想を持つ人は「メタルギアに似てるから」だけが理由じゃないと思う。
2011-06-15 00:20:06【虐殺読文】「語られる私」は米軍大尉クラヴィス・シェパード30歳で、「語る私」は日本人の少年。巧く言えないけど、ちょうどゲームのキャラを日本人の少年が操ってる感覚に近い。「語る私」、つまり語り手がかなり前面に出てきてる。語り手のキャラ化? ううむ……。
2011-06-15 00:29:35何で読んだかは忘れたが、昔、大江健三郎が若き学生作家としてデビューしたとき、彼の作品を読んだ同年代の作家志望の文学青年はみんな「小説家になること」「小説を書くこと」を断念したらしい。こんな奴が出てきたら到底敵わないと思ったからだとか。古き良き時代のいい話……かな?
2011-06-15 23:27:09「内向の世代」も大江のおかげで一時は作家デビューを諦め、普通の勤め人生活を送っていたのが大半だったとか(柄谷談)。今だと、他の才能を潰すくらいの天才が出てくる可能性なんてまず有り得ないから、時代を感じさせる話だ。逆に「この程度なら俺もできる!」という例は枚挙に遑がないけど。
2011-06-15 23:36:15三島や吉本も遠慮なく他の作家や詩人や批評家を叩いて(批評して)、「どうも君にはこっちの道の才能がないみたいだから、普通に就職した方が幸せになれるよ(^_^;)」とかやってたみたいだし。この二人に叩かれたら、普通の奴だったらそりゃ逃げるよなw
2011-06-15 23:56:16眠い、寝るか……『虐殺器官』の読書感想文、早めにまとめたいな。長くなってきた。ジェノサイドとか大審問官とかロマン主義とかは俺の興味どんぴしゃなので仕方のないことではあるが……でも、一つのテクストでこれだけ遊べるのは幸運だな。
2011-06-16 02:20:23