古鷹青葉を見守る衣笠さんbot #12

更新十二回目のまとめです。 建造で鎮守府にやってきた青葉。 そして青葉の過去を全て知った衣笠に、自分の意思を告げる古鷹、そして青葉。
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古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「いやー恐縮です!今回はですね、他ならぬ望月さんに取材させていただきたいんですよ!」 「だからいやだっつってんでしょ!?あたしなんかより他の子取材しなよ!」 食堂の一角に睦月型駆逐艦娘が集まっている。その中の一人、望月が今日の青葉のお目当てのようだ。

2014-03-29 02:28:17
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

全身で不快感を表明して嫌がり、青葉を追い払おうとする望月に、青葉がしつこく食い下がる。 「だって望月さん、先日終わったキス島攻略作戦の影の功労者だってもっぱらの噂じゃないですか!なのにちっともそれを鼻にかけない謙虚な姿勢!これは青葉、取材せずにはいられませんよ!」

2014-03-29 02:32:50
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「そんなんじゃないっての!ああもうマジめんどくせえー!」 「えーでも、出撃の時いっつも望月が号令かけてたわよね?」 「そうだよ!射線だって適当でいっかとか言いながらちゃんと当ててたのボク見たよ!」 望月の抗議は青葉を抑えるどころか、他の睦月型艦娘を触発して逆効果だったようだ。

2014-03-29 02:38:57
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

つられて如月や皐月以外の睦月型まできゃいきゃい騒ぎだし、口々に「望月の実は良いところ」エピソードを披露し始めた。青葉はそれを熱心に手帳に書き留めている。望月はテーブルに突っ伏して頭を抱えている。照れているようだ。見るからに微笑ましい光景だったけれど、私の心はズキズキと痛んでいた。

2014-03-29 02:45:34
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

青葉の笑顔を見るのが辛かった。あの仮面の下に、どれだけの孤独と絶望を押し隠してきたのだろう。どうして私はそれに気づいてあげられなかったのだろう。私が何度目か知れない無力感を噛みしめていると、私の視線に気付いた青葉が振り向いた。顔に笑顔を貼りつけたままこちらを見ている。

2014-03-29 02:51:11
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

青葉が望月に、今度絶対取材させてくださいねと約束を取り付けている。望月の「お断りだ!」という叫びを背に、青葉がこちらに歩み寄ってきた。私が何を言えばいいか戸惑っているうちに、青葉が私の手をつかんだ。そのまま驚くほど強い力でぐいぐいと引っ張られ、食堂から引きずり出される。

2014-03-29 03:00:02
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「ちょっと、青葉っ、痛いわよ……!」 私の声が聞こえているのかいないのか、青葉は振り向きもせずに私を工廠の裏手にまで連れてきた。ようやく手を離してくれたかと思うと、くるりと振り返って私に向き直った。工廠の窓から洩れる光が青葉の口元から下だけを照らし、その表情はうかがい知れない。

2014-03-29 03:05:16
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「衣笠」 名前を呼ばれただけなのに、思わずびくりと身体が跳ねる。顔が見えないただそれだけで、普段と全く雰囲気の違う青葉が何だか得体が知れなく感じた。まるで目の前の青葉が青葉ではない別の何かになってしまったかのようだった。 「昔青葉と一緒だった皆に、話を聞いて回っているそうですね」

2014-03-29 03:11:37
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

青葉の問いにおずおずと頷く。青葉が重ねて問う。 「古鷹さんのために、ですか?」 「青葉のためでも、あるわ……」 精一杯の力を振り絞って答えたつもりだった。けれど、口から出た言葉は弱々しかった。 「それ、もういいです。もう古鷹さんのことで、青葉に構わないでください」

2014-03-29 03:16:45
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

私は愕然とした。どうして。どうして古鷹ねーさんも青葉も二人して、そんなことを言うの。どうして私に何もさせてくれないの。 「言ったでしょう。青葉はこれでいいんです。青葉には、古鷹さんのそばにいる資格なんてないんです」 青葉がまるで他人事であるかのように淡々と言った。

2014-03-29 03:20:50
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

そんなことない、そんな資格誰が決めるのと言い返したかった。けれど私の喉はひりついたように動かない。 「古鷹さんだって、青葉のことはもういいって言ってたそうじゃないですか。もう、いいんですよ。衣笠が無理して頑張らなくったって」 青葉が、次々に私に言葉を突き付ける。

2014-03-29 03:27:17
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「……古鷹ねーさんがもういいって言ったって、なんでそれ知ってるの?」 何か、何か言わなきゃという思いに駆られて、私は青葉の言葉尻を捕まえた。薄笑いを浮かべるような形をしていた青葉の口元が、かすかに歪んだように見えた。 「……そんなこと、どうだっていいじゃないですか」

2014-03-29 03:32:25
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「でも、でも、このままでいいはずないじゃない……!古鷹ねーさんだって、本当はあんたのこと……」 両拳を握りしめ、どうにか言葉を絞り出す。けれど、青葉には届かない。青葉がふい、と横を向き、呟いた。 「……『古鷹』に救われた人たちは、どんな人たちだったんでしょうね?」

2014-03-29 03:36:52
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

一瞬のち、何のことか判った。古鷹ねーさんの名前の由来になった古鷹山の伝説。その昔、嵐に見舞われた一葉の小舟の前に大鷹が現れ、静かな入り江まで小舟を導いた後この山に消えていったことから、古鷹山と名がついたという。 「大鷹に救われた人たちは救われるに値する人たちだったのでしょうか?」

2014-03-29 03:44:41
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

青葉が、古鷹ねーさんに救われた自分のことを指して言っていることは、すぐに判った。 「だって青葉、何度大破しても頑張って、最後には日本に帰ってきたじゃない。それは……」 「仲間を何隻も見捨ててね」 突き放すように青葉が言う。私だけどころか自分自身をすら突き放すような、冷たい響きで。

2014-03-29 03:50:24
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

青葉の顔が私の方を向く。 「ビハール号事件のことも、知ってるんですよね?」 言葉に詰まる。だって、それは。でも。何か言おうとするけれど、何を言ったところで何の慰めにもならないことは明白だった。追い撃ちをかけるように、青葉が言う。 「川内さんは、あのことは言わなかったんですか?」

2014-03-29 03:55:40
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

川内。そう言えば最初に話を聞いた時、何か隠しているような口ぶりだった。 「メウエパセージ港に停泊している時、青葉は折角まだ発見されてなかったのに、近づいてきた敵機にうっかり機銃を撃っちゃったせいで発見されて被弾して、擱座してあやうく沈没を免れた……そんな風に聞いたんでしょう?」

2014-03-29 04:03:15
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

私は頷いた。正確には私がそう確かめて、川内が認めた形だったけれど。 「川内さんも優しいですねえ……本当のことを言っても構わなかったのに」 本当のことって、まさか。青葉が自嘲するように唇を歪める。 「機銃を撃ったの、うっかりじゃないんですよ。わざとです。敵機に発見されるように」

2014-03-29 04:08:00
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

全身が、心が、さあっと冷たくなった。思わず両手で自分を抱きしめるような格好をとる。 「隠れるのには自信がありましたからね……息をひそめて、上空を飛び回って爆撃目標を探す敵機をぼんやり見ていたんです。そうしたら、ふと『今ここで機銃を撃ったらどうなるかな』なんて考えが浮かんだんです」

2014-03-29 04:13:08
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

青葉の口調にはどんな感情も込められていなかった。 「高い崖から下を覗き込んだ時に、そんな気もないのに何故か『ここから飛び降りたらどうなるかな』なんて考えること、ありません?それと同じような感じで、ちょうど青葉を爆撃できるコースを飛んでいる敵機を見た時、気付いたら撃ってたんです」

2014-03-29 04:18:04
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

私は、絶句していた。 「で、敵機に気付かれて爆弾を落とされて、魚雷に誘爆してやっと正気づいて、浅瀬に擱座してなんとか沈没だけは免れた、という始末でした」 青葉がメウエパセージで爆撃されたのは、サボ島沖海戦での損傷の修理を終えてから約二か月後。私が沈んでから半年も経っていなかった。

2014-03-29 04:29:41
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

つまり、青葉が私たち全員に置いていかれた直後のこと。 「……ふざけて『無意識に皆の後を追おうとしたんですかねえ。あるいは、死神に誘われたとか?』って川内さんに言ったら、思いっきり引っぱたかれましたよ」 けらけらと感情のこもらない笑みを青葉がまき散らす。

2014-03-29 04:37:07
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

死の淵に瀕した自分の過去をこともなげに語る青葉は、確かに私の目の前にいるのに、そこで命が息づいている存在感が感じられなかった。まるで、この世の理から外れて違う世界から私に語りかけてきているかのようだった。 「川内さんには『古鷹にもらった命、古鷹の分まで生きなさい』と言われました」

2014-03-29 04:43:02
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

鬼怒の語ってくれた、青葉が『川内さんのおかげで立ち直れました』と言っていた時期というのはこの事だろう。けれど、それもビハール号事件が起こるまでだった。青葉が自嘲する。 「まあ、その古鷹さんにもらった命で青葉が何をしたかと言えば、衣笠がこれまで調べてきた通りだったんですけどね」

2014-03-29 04:49:32
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

青葉にかける言葉が見つからない。私には、何もできない。青葉が少し上を見上げるような仕草をした。 「……呉で沈んで、やっと何分の一かでも青葉の罪の罪滅ぼしが出来たと思っていたんですけどね……」 陰になってよく見えない青葉の目のあたりで、きらりと光るものが見えた気がした。

2014-03-29 04:54:02