花の誘い　-桜×風間千景-

🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

「花の誘い　-桜×風間千景-」 2014.4.4 綺羅

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山々が薄紅梅に色付き始め、 心軽やかに春を迎えようとしている屯所の広い廊下を歩く二組の足音。 午後の温かい陽だまりの中、視線を移せば近所の猫も居眠りしている姿が見える。

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同い年に見られることのない対照的な二人の会話は、 一方的ではあるが、一方を退屈させることはない。

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「でさあ、その時の新八っつぁんの顔と言ったら……」

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思い出し笑いを我慢できなくなった藤堂は、 腹を押さえ、目尻には僅かに涙を浮かべて、斎藤に話し続けている。

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「平助、あんたは他人のことばかりに気をとられ、自分を疎かにしているのではないか」 「んなことねえって」

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斎藤は少し呆れながらも、 内心は仲間からの語りかけに嬉しく耳を傾けていた。 その証拠に、僅かだが口角が上がっている。

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藤堂は、永倉と非番が重なったために、一緒に町に繰り出した時の話を斎藤に聞かせている。

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二人が向かっているのは、副長の執務室だ。 幹部が集められているらしく、執務室に近づくたびに、二人とも徐々に緊張感が高まっていく。

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「失礼します」 斎藤が執務室の障子に手をかけた。

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中にいる土方には、障子に映った二人分の影がはっきりと見えているだろう。 いつもなら、凛とした声で返事があるのだが、今日はそれが聞こえない。

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斎藤は藤堂と顔を見合わせた。 中に人の気配はあるので、斎藤は障子を開けた。

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「副長、どうかさないました、か……」

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それきりぴたりと動かなくなってしまった斎藤を不審に思った藤堂が、 斎藤の背中ごしに部屋の中を覗く。

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「どうしたんだよ、一くん。もうみんな集まってんだろ？」 そう言った藤堂もまた、招かれざる客に目を奪われた。

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見る間に二人が殺気立つのを、 眉間をいつもより狭くした土方の渋りきった声が制する。 「二人とも、落ち着け。とりあえず座ってくれ」

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いつでも抜刀できる姿勢を保ったまま、二人は定位置に移動したものの、 目線はその者から一瞬も逸らさない。

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「これで全員揃ったな。 説明を始める」

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「待ってくれよ土方さん、左之さんがいねえじゃん。 千鶴も。あいつはいいのか？」 藤堂が声を上げた。

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土方はちらりと藤堂を見遣り、 話の続きはそこに含まれている、と目で語った。

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藤堂は察して浮いた腰を戻す。 土方は改まって幹部に＿＿こころから信頼する仲間に言った。

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「千鶴は、……風間と出かけた。 その監視役に原田と山崎が出ている。 そいつは人質ってことだ」

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原田を除く試衛館からの仲間たちの視線が一点に集中する。

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部屋の真ん中、取り囲まれるような格好で、きちんと座しているのは、 天霧九寿だった。