レイズ・ザ・フラッグ・オブ・ヘイトレッド #5
装甲車には暴徒鎮圧用ショットガン、火炎放射銃、グレネード、医療キット。武器に一部認証有り。だがハッキングで解除が可能かも知れぬ。「まだ不足」ニスイは息つく暇も無く、隊長のICキーで駐屯施設の正面ドアを開けた。「「「ワドルナッケングラー市民!」」」中では追加のマトが臨戦態勢。 20
2014-04-04 01:05:25「なあ、ゼン・ストーム、あの子どうなっちまったんだい。13階から飛び降りちまったよ。13階だ」チェリーは唖然とした顔で言った。「ブッダ!夢を見てるみたいだ。まさか、学校に入ってからも、あの子、秘密でアサシン訓練を積んでたのかい?」「そんな訳、あるかよ」タニグチは頭を振った。 22
2014-04-04 22:42:43「そうだよね」彼女とはKMC開局前からの付き合いだ。「アタシはさっき、目を見たんだ。確かに、あの子はニスイだったよ。澄んだ目さ。……危なッかしい位にね。まるで、昔に戻っちまったみたいに…」「解ッてる!」タニグチが言った。意図していたよりも厳しい声で。彼はゼンの呼吸を試みた。 23
2014-04-04 22:50:27「でもさ、クールじゃん。あいつ、俺なんかよりずっと強い」オヨビサンがセル眼鏡を押し上げて笑った。「ああ、頼もしい」ホタルダも笑った。一般市民にとって、ニンジャはフィクションの産物だ。彼らは未だ、先程の光景を論理的に咀嚼し切れていない。理性がニンジャの実在を拒絶しているのだ。 24
2014-04-04 23:04:06「やりすぎなきゃあ、な」タニグチが言った。「……あのファッキン馬鹿野郎!ダートみてえに飛んで行きやがった!戻ってきたらすぐ、俺はアイツともう一回喧嘩するぜ。長い話になる。ブン殴らにゃいかんかも」「ハ!おい、運が良かったな!右腕の予備、繋げたぜ!左は、諦めな!」ドクが言った。 25
2014-04-04 23:12:04「ありがとうよ、ドク。…ワオ、生き返った気分だぜ!よし、クサってても仕方ねえ!とっとと作戦を立てるぞ」タニグチは心のヘイキンテキを取り戻し、気持ちを切り替えた。「俺たちゃ最高にヤバい状況に追い込まれている。ドヒョウ・リングのエッジに片足で踏み留まるリキシだ。ここが大一番だ」 26
2014-04-04 23:33:54腕を取り戻したタニグチは、それを振るいながら、とにかく喋り続けた。場に力を生み出すために。彼のバイタリティがKMCの心臓なのだ。「まず現状把握だ。暗い都市部は無事か?」「繁華街に逃がしたよ」「いいぞ。ゲストに何かあったら締まらねえ。メガヘルツ解放戦線に連絡は?」「通信不能」 27
2014-04-04 23:40:39「通信不能?秘密IRCもか?」タニグチがマンタに煙草を催促しながら問う。ニチレンが返す。「反応が無い。もしかすると、向こうもアジトも叩かれた」「気になるな。とりあえずPING続けろ」タニグチが煙を吹かす。「まさかあいつら、俺たちを裏切った?」ランドリーが不安げに言う。 28
2014-04-04 23:49:49「ファック、ノー。あいつら、そんなヤワじゃねえ。カルトだぞ。死んでも誓いを曲げねえ連中だ」タニグチが笑った。「そうだよな、悪い」ランドリーが謝罪し、疑念を振り払う。疑いだすとキリが無い……平安時代の兵法家ミヤモト・マサシのコトワザだ。敵味方の判断はリーダーに任せねばならぬ。 29
2014-04-04 23:57:21「レディオ電波は飛ばせるのか?」「飛ばせる。危ないから、やってないけど」オヨビサンが解説した。「メガヘルツ解放戦線の無人中継基地には、まだPINGが通る。連中のアジトとは別の物理地点にあるからだ。つまり、ここからレディオ用電波を飛ばして、増幅して、放送する事は、まだ可能」 30
2014-04-05 00:08:56「放送したら、こっちの居所、バレるな?」「バレるね。間違いなく。アイテテテ…」ソクトウが答える。「何か放送を?」とマンタ。「いや、俺たちの手元にある武器を確認してるだけだ」タニグチが言った。一本残った右腕を情熱的に振るい、クルーを鼓舞しながら。「放送は俺たちの最強の武器だ」 31
2014-04-05 00:17:32「結局、敵の親玉は何なんだ。NSTV?ハイデッカー?確かに、俺たちがやってるのは違法電波行為だ。でもさ、かわいいモンだろ?思想統制でしょっ引くなら、他にいくらでも危険な大組織がある。何で俺たちだ?見せしめか?」ランドリーが顎の古いナイフ痕を掻きながら問う。もっともな疑問だ。 32
2014-04-05 00:28:21「俺も最初は、どこかのヤクザか暗黒メガコーポの重役のクソに睨まれたかと思った。メンツとかそういう問題でな。だが、どうも違う」タニグチは率直に言った。「俺も朦朧としてたからな、ハッキリと覚えちゃいねえんだが……俺たちの選んだ帯域に、奴ら何かサブリミナル電波を流してやがる」 33
2014-04-05 00:37:16「サブリミナル電波って、洗脳とか、そういう奴?」チェリーがランチャーを担ぎながら問う。「実際常時発射されてるのかどうかも解らん。仮に掴めても、解析してみにゃ解らんだろう。サイバーサングラスに関係してる。誰かできるか?」「ノー」「専門外」「メガヘルツ解放戦線に頼むしかないよ」 34
2014-04-05 00:42:04……KMCクルーは備蓄していた真空パックド・スシや、ドラム缶で焼いたイカケバブなどで栄養補給を行いつつ、作戦会議を続けた。現状取りうる最善策は、やはり、レディオ放送をこらえ、地下に潜伏する事だった。それがどれだけの期間になるかは不明だが、長期的に見て最も現実的な答えだった。 35
2014-04-05 00:52:33尻尾を巻いて逃げる事に、タニグチは即座にノーと言いかけた。21歳の怒れる彼ならば、実際そうしていただろう。……大学弁論大会での優勝。学内で結成したBSCVATMにデビューの兆し。ライブハウスの熱狂。彼と最強の仲間たちは無敵の力を手にし、恐れる物無しだった。……だが今は違う。 36
2014-04-05 01:05:04「ヘイ、俺は腹が立ってしょうがねえ。だが、今はKMCの存続が最優先だ」タニグチが言った。クルーの顔を見渡しながら。「リスナーは安全だ。メガヘルツ解放戦線とオヨビサン、ソクトウの考えたトリックは無敵だ。監禁された時にファック野郎から聞き出した。奴らはリスナーを割り出せてねえ」 37
2014-04-05 01:17:51現在、KMCの第一次リスナー数百人は、全員が違法改造サイバーサングラスを持つ。監視と法規制が過酷さを増し、さらには複数のカルトの汚染電波が飛び交うネオサイタマでは、それ以外に方法が無いからだ。彼らが暗号化電波を受信し、そのデータを周囲の第二次リスナーに物理伝搬している。 38
2014-04-05 01:29:15メガヘルツ解放戦線と同盟を組むにあたり、KMCは有事に備え、第一次リスナーの匿名性を守ることを主張した。そこには、多数の若者も含まれているからだ。その防御措置は完璧だった。「あとはリスナーが、早まった行動を取らん事を祈るだけだ。注意喚起は続けてきた。そこは彼らを信じて……」 39
2014-04-05 01:38:19灰色のパーカを目深にかぶった細身の無精髭の男、スペードが、立ち上がってタニグチの言葉を遮った。「おい、ヤバいぞ」彼は頭を掻きながら、チャブの上の小型TVを指差した。そこには、支配的視聴率を持つNSTV社の緊急ニュースが流れていた。「反政府団体KMCレディオのDJ、指名手配」 40
2014-04-05 01:47:26「痛ましい事件ドスエ」あの豊満なオイランキャスターがニュースを読み上げる!「反政府団体KMCのDJゼン・ストームことヒナヤ・イケル・タニグチ=サンが、電波ジャックを行い暴動煽動を行うべくNSTV社屋に侵入。器物破損、爆破、殺人などの身勝手の末に逃走…」ナムアミダブツ!欺瞞! 41
2014-04-05 01:54:25「放送の正義を守るべく、このテロリストの前に立ち塞がった第三制作部長が、痛々しい死体として発見されていますドスエ。こちらが緊急指名手配犯、ヒナヤ・イケル・タニグチ=サンと、彼の義理の息子であり共謀者、ニスイ・タニグチ=サンの写真ドスエ」残忍な面構えの写真2枚がTVに映った。 42
2014-04-05 01:58:45