座礁艦隊 2 リンガ泊地第1661支部

艦隊これくしょん二次創作「座礁艦隊」のタグだけまとめた方その2。自分用なので読みづらいのは仕様です。小分けされてるhirさんのまとめもよろしくね。→ http://togetter.com/li/641525 ときどきR-18と+G注意。 前:http://togetter.com/li/642238 次:http://togetter.com/li/676023
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RyoRi (VRVape屋さん) @ryorinovels

水平線の上に、何処かの鎮守府の艦隊が航行している。そのうちの誰かが、ボォー、と汽笛を鳴らした。鎮守府の港湾施設に建つ灯台が、三度点滅して応ずる。 木曾はその風景を、煙草をふかしながらぼーっと眺めていた。ふと港湾施設の一つ、工廠へ目を向ける。倉庫のような無骨な建物だ。 #座礁艦隊

2014-05-10 08:00:42
RyoRi (VRVape屋さん) @ryorinovels

あそこで今建造されている軽巡が、海を知らないまま陸へと赴き、陸の上で戦うのだ。羨ましくないといえば嘘になる。自ら望んで鎮守府へ繋ぎ直されたというのに、手前勝手な話だ。頭をぼりぼり掻く。ならばせめて、陸へ征くその娘に、自分の教えられる全てを、可能な限り託して送り出そう。 #座礁艦隊

2014-05-10 08:05:44
RyoRi (VRVape屋さん) @ryorinovels

生まれてくる軽巡が何であろうと、自分の代わりに陸を駆け巡らす。ああ、でも、自分を含めた同じ球磨型だったら、少しばつが悪いなァ。 三年半の陸戦経験は、やはり自分を不可逆なまでに変えてしまったのかもしれないと、木曾は思った。あのめまぐるしく、砂臭い、重力を感じる高揚感。 #座礁艦隊

2014-05-10 08:11:34
RyoRi (VRVape屋さん) @ryorinovels

あれから海戦がとても退屈になったのは否めない。短くても分単位の冗長な展開、決まり切った順序。ガチガチの戦闘規則。魚雷を放ち、自分よりもはるかに強大な戦艦に大打撃を与えるカタルシスが何処かへ行き、雷巡になった今でもなお、鈍くどろりとしたままこびりついて残りがちになった。 #座礁艦隊

2014-05-11 20:27:24
RyoRi (VRVape屋さん) @ryorinovels

今日の昼に遭遇した、規則違反の敵艦隊。あれと戦った時、木曾は心が躍った。規則を無視して、自分の好きなように戦えるからだ。不謹慎極まるな、と、木曾は煙を思い切り吸い込む。煙草の薬理効果など、こうしてフィルターを通さなくても艦娘にはあって無いようなものだが。 #座礁艦隊

2014-05-11 20:37:13
RyoRi (VRVape屋さん) @ryorinovels

機関へ入る空気が煙草の煙によって少なくなり、機関の燃焼が滞る。そして、意識がほんの少しくらくらする。これを木曾は寝起きのまどろみのように感じ、楽しんだ。艦娘の呼吸とは機関への吸排気だ。ボイラーに似ているが、実際のそれとは大きく異なる。妖精さんのオーバーテクノロジー。 #座礁艦隊

2014-05-11 20:41:21
RyoRi (VRVape屋さん) @ryorinovels

それだけの技術なら空気を必要としなくても動くように思えるが、そのようにした理由は木曾自身にも分からない。反逆(何に?)に対するリミッターなのか、ただの気まぐれか。そういえば、潜水艦連中は長く潜っていられるよう、もう一つ作動方式の違う機関を体内に持っている。 #座礁艦隊

2014-05-11 20:46:44
RyoRi (VRVape屋さん) @ryorinovels

主機の駆動で充電する電動機だ。こちらは人間のバッテリー、モーターとかなり似ている。違うのはその効率が桁違いに良いことだけだ。だから潜水艦娘だけは、水上艦のように常時呼吸する必要は無い。煙草を楽しめないわけだ。それが残念かどうかは知らんが。 #座礁艦隊

2014-05-11 20:53:51
RyoRi (VRVape屋さん) @ryorinovels

陸から吹く乾いた夜風が煙を揺らす。水陸機動団の試験小隊は、あの少年のように髪を短く切った叢雲はいま、何をしているだろうか。まるで陸軍のような装備を与えられ、歩兵のように地面を蹴って走り、戦い続けているに違いない。もしかしたら今まさに夜戦に駆り出されているかもしれない。 #座礁艦隊

2014-05-11 20:58:34
RyoRi (VRVape屋さん) @ryorinovels

ひどく羨ましかった。いっそ鎮守府を出奔して同胞団に戻ろうかとも考えた。あの髭面の勇ましい男たちは自分を暖かく迎えてくれるだろう。だが、かつてのように不可抗力でなってしまったならともかく、自ら脱走したとなれば無条件で本解体の対象となるに違いない。 #座礁艦隊

2014-05-11 21:08:02
RyoRi (VRVape屋さん) @ryorinovels

それに、あの時は妖精さんの協力を得られたが、自らの意志で管理法に背いたとなれば話は別だ。結局、どうあがいても自分からは何もできないのだ。提督か、さらに上の指示が無い限りは。だからせめて、あそこで作られている軽巡には自分のすべてを教えたかった。同胞団の戦乙女の戦い方を。 #座礁艦隊

2014-05-11 21:14:01
RyoRi (VRVape屋さん) @ryorinovels

「木曾」 呼ばれて、振り向く。古鷹だった。着衣装甲を脱ぎ、袖の無いワンピースに着替えている。 「ああ、あんたも一服しに来たのかい」 「私は煙草吸わないよ、知ってるでしょ? ちょっとね。……木曾とお話がしたくて」 「俺と?」 体も古鷹の方へ向け、手すりに寄りかかる。 #座礁艦隊

2014-05-11 23:48:01
RyoRi (VRVape屋さん) @ryorinovels

「めずらしいなァ。どうした? 久しぶりの出撃がコタえたかい」 「それもあるけど」 古鷹は苦笑し、木曾の隣に来る。広い海と、鎮守府の港湾施設群を見渡し、ため息をついた。 「いつ来ても、ここは良い景色だね」 「ああ。何だかんだで、海が見えると安心するもんだ。俺たち艦娘は」 #座礁艦隊

2014-05-12 00:06:38
RyoRi (VRVape屋さん) @ryorinovels

「木曾は、まだ安心できるんだね」 いきなり核心を突かれて、木曾は耳の後ろが引き攣った。 「……まったく、古鷹ばあちゃんには敵わないなァ」 すっかり灰になった煙草を携帯灰皿にポンと落として、木曾は眼帯を外し、古鷹を見た。まるで鏡映しのように、互いの義眼が金色を帯びる。 #座礁艦隊

2014-05-12 20:34:58
RyoRi (VRVape屋さん) @ryorinovels

まるでテレパシーの媒体のように、二隻の義眼は灯台や星の明かりを反射して、煌めいた。事実互いに話さなくても分かることは多かった。木曾が建造されたときからずっと一緒に戦ってきたからだ。木曾がこのアラビア半島の地で生きていると知ったとき、古鷹はあっさりと鎮守府を移って来た。 #座礁艦隊

2014-05-12 20:43:02
RyoRi (VRVape屋さん) @ryorinovels

たった一年ちょっとの古巣の生活で、古鷹は木曾の面倒を他の誰よりもよく見た。それこそ付きっきりと表現しても過言ではないくらいに。木曾も、古鷹の話をよく聞いた。希少で経験豊富な第一世代だからという理由はもちろんあったが、二隻が連んだのは、単にウマが合ったからに過ぎない。 #座礁艦隊

2014-05-12 20:47:20
RyoRi (VRVape屋さん) @ryorinovels

心の友というのは、そんな他愛も無い、単純なきっかけから生まれるのだ。木曾は古鷹に再会できたことを、奇跡のように感じている。古鷹もまた同様に。普段何も言わなくても分かる間柄だから、あえて話そうとどちらかが思い立った時は大切にするのだ。 #座礁艦隊

2014-05-12 20:50:53
RyoRi (VRVape屋さん) @ryorinovels

第一世代と、生まれて五年を経て間もない最新世代の二人が、仕様とはいえ同じ色の義眼を持った艦種で出会い、共に過ごす。木曾はどこかこそばゆい感触を覚えた。古鷹もまたそうに違いない。 「海を見て、安心しているつもりだったのかもしれない」 だから木曾は、正直に、告白した。 #座礁艦隊

2014-05-12 20:56:14
RyoRi (VRVape屋さん) @ryorinovels

「俺はまだ海で戦う艦娘なのだと、自分に言い聞かせていただけだったのかもしれない。煙草でも呑んでないと、正直やってられない。俺は、やはり、おかしくなっちまったんだ。おかしくなっちまったまま、戻れないのさ」 海に背を向けて、木曾は煙草の火を再び点けた。 #座礁艦隊

2014-05-12 20:59:31
RyoRi (VRVape屋さん) @ryorinovels

風の気まぐれか、紫煙が上へと昇らず、木曾と古鷹の周囲にへまとわりついた。古鷹は木曾へ少し体を近づけ、海を見たまま、口を開く。 「おかしくなったのは、私もだよ」 「おいおい、そんな慰めは……」 木曾は古鷹を見て、その表情から、言葉を詰まらせた。 #座礁艦隊

2014-05-12 21:04:55
RyoRi (VRVape屋さん) @ryorinovels

古鷹は微笑して、木曾を見つめていた。いつもの、何物をも浄化するような笑みだ。ただそこに一握のしこりが残っているのを、木曾は感づいていた。 「古鷹、あんた……」 「ねえ、私がお昼に長波に言われたこと、覚えてる?」 「……100歳まで生きようぜ、ってやつか」 #座礁艦隊

2014-05-12 21:08:50
RyoRi (VRVape屋さん) @ryorinovels

「あれ、私、けっこう本気なんだよ」 艦娘が100歳まで、生きる。古鷹の81歳でさえ長寿記録を更新中なのに、100歳まで。いつ衰えてもおかしくないのに。 #座礁艦隊

2014-05-12 21:13:52
RyoRi (VRVape屋さん) @ryorinovels

「古鷹、それはつまり、戦えなくなっても、役に立たなくなっても、100歳まで生きたい。そういうことか」 「うん」 木曾は、煙管を吸うのも忘れて、古鷹を見つめていた。目を離すことができなかった。まさか古鷹の口からそういう言葉が出るとは思っていなかった。 #座礁艦隊

2014-05-12 21:23:54
RyoRi (VRVape屋さん) @ryorinovels

「戦えなくなって、予備役でも何もできなくなって、それでもあんたは生きるつもりなのか。人間みたいに。おめおめと」 「そうだよ、木曾。おかしいでしょ。艦娘なのに。でも、私は生きたい。死にたくない。たとえ自分で動けなくなって、介護されるんだとしても、それでも生きていたい」 #座礁艦隊

2014-05-12 21:28:02
RyoRi (VRVape屋さん) @ryorinovels

「近代化改修の素材にもなりたくないし、本解体も望まない」 「うん。そんなの名誉とも何とも思わない。81年も生きてるからかな。執着するようになっちゃったんだね。他のまだ現役やってる第一世代も同じこと言ってたよ。きっと、私たち特有の、精神的な病気なのかもしれないね」 #座礁艦隊

2014-05-12 21:31:27
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