「修復的司法」について なぜ修復的司法の対象として、死亡事件や性犯罪事件は除外されるべきか

ノンフィクションライターの藤井誠二さんとの対話をきっかけとして、修復的司法の「限界」について考えてみました。
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倉沢 繭樹 @mayuqix

藤岡淳子編著『被害者と加害者の対話による回復を求めて――修復的司法におけるVOMを考える』から、なぜ死亡事件や性暴力事件などの重大事件が、修復的司法の実践形態とも言うべきVOMから除外されることが適当かを考えてみたい。

2012-09-16 17:30:34
倉沢 繭樹 @mayuqix

まずVOMとは「Victim Offender Mediation 被害者加害者対話」の略語。「VOMは修復的司法の実行形態であり、修復的司法はその背後にある哲学だということができるであろう」(前野育三)。修復的司法の実行形態に関するモデルに純粋モデルと最大化モデルがあり、

2012-09-16 17:31:55
倉沢 繭樹 @mayuqix

純粋モデルは「VOMによって行われるものだけを修復的司法と捉える」のに対して、最大化モデルは「修復的司法の考え方をどのような形態にせよ取り入れて改革しようとするのが修復的司法であると範囲を広げて捉える」。

2012-09-16 17:32:56
倉沢 繭樹 @mayuqix

「被害者加害者対話(VOM)は、ひらたく言ってしまえば、第三者が間に立って、犯罪の被害者と加害者とが事件について話し合うことである」(藤岡淳子)。その目的は、(1)被害者が、加害者から知りたいことを知り、伝えたいことを伝えること、

2012-09-16 17:35:32
倉沢 繭樹 @mayuqix

(2)加害者が謝罪を表明し、加害の責任を負う機会を得ることの二点。その結果、(1)被害者と加害者がともに犯罪体験に一区切りをつけ、そこから解放されて新たな第一歩を踏み出す、(2)被害者が加害者から現実的な償いを受ける、という二つの望ましい成果が得られる可能性が高くなると

2012-09-16 17:37:40
倉沢 繭樹 @mayuqix

期待される。本題に入る前に、DVと児童虐待事件がVOMから除外される理由について、藤岡氏は次のように説明している。「DVや子どもの虐待など、被害者と加害者の間に密接な関係があるところで暴力が行使された場合、(中略)多くは、強い者の弱い者に対する暴力であろう。

2012-09-16 17:40:27
倉沢 繭樹 @mayuqix

そのパワーの不均衡や、支配-被支配という関係性に無頓着に『関係の修復』を図ることは、実際には支配-被支配関係を温存強化し、さらなる被害を生むという結果になりかねないのである」。さて、被害当事者や被害者遺族は「対話による回復」などという言葉を聞いて、どう感じるだろうか。

2012-09-16 17:42:47
倉沢 繭樹 @mayuqix

「『対話による回復』という言葉を聞いただけで、強い拒否的な反応が返ってくるだろう。その多くは、VOMプログラムは加害者の更生のために被害者が利用されている印象が強い、という意見であろう」(白井明美)。

2012-09-16 17:43:34
倉沢 繭樹 @mayuqix

被害者加害者対話の考え得る危険性と利益について、ミネソタ大学「正義の回復と調停のためのセンター」メディエーター研修マニュアルには、その危険性が被害者加害者双方について、次のようにまとめられている。被害者については、(1)被害にまつわる不快な感情を思い出す、

2012-09-16 17:45:31
倉沢 繭樹 @mayuqix

(2)最初の不安、関係する症状のトラウマを再体験する、(3)犯罪の詳細に関する新たな苦痛に満ちた情報を知る、(4)加害者に期待したほどの良心の呵責が見られない、(5)加害者の改善更生に関して非現実的な期待を持つ。

2012-09-16 17:46:22
倉沢 繭樹 @mayuqix

加害者については、(1)犯罪に関係する怒り、欲求不満、コントロールの喪失感を再体験する、(2)犯罪が被害者に及ぼした影響を知り、恥と絶望を強化する、(3)被害者の反応に関する非現実的期待、(4)自分がやったことや生活状況について恥ずかしい気持ちを話したことによる脆弱感。

2012-09-16 17:47:15
倉沢 繭樹 @mayuqix

平成10年から平成12年において各都道府県警察が対応した被害者およびその遺族のうち、殺人、傷害致死等で亡くなった被害者の遺族(被害者遺族)、殺人未遂、傷害、強盗傷害等の被害者(身体犯被害者)、強制わいせつ、強姦等の被害者(性犯罪被害者)、詐欺、窃盗等の被害者(財産犯被害者)を

2012-09-16 17:48:46
倉沢 繭樹 @mayuqix

調査対象者とした犯罪被害実態調査(2002年)において、被害から2~4年経過した時点での心的外傷後ストレス障害(PTSD)が計測された。その結果、PTSDハイリスク者と判定された者は35.6%(有効回答数685)、その割合は、被害者遺族(76.2%)や

2012-09-16 17:50:44
倉沢 繭樹 @mayuqix

性犯罪被害者(65.7%)で高く、身体犯被害者では37.8%、財産犯被害者で16.2%となっていた。遺族と性犯罪被害者でPTSDハイリスク者が多い結果となった。

2012-09-16 17:51:31
倉沢 繭樹 @mayuqix

アメリカで実践されているヴィクティム・インパクト・パネル(Victim Impact Panel)の方法を取り入れて、2001年、東京家庭裁判所で「被害を考える教室」(以下、「教室」)というプログラムが試行された。ヴィクティム・インパクト・パネルとは、犯罪被害に遭った人が、

2012-09-16 17:52:47
倉沢 繭樹 @mayuqix

犯罪を犯した人たちなどに自分の被害体験を語るというものである。ここでの被害者は、聴衆である犯罪者から直接に被害を受けた当事者ではないが、被害者の体験を聞くことで、犯罪による被害者への影響の大きさを実感することになる。東京家裁で行われた「教室」は少年が対象で、

2012-09-16 17:54:19
倉沢 繭樹 @mayuqix

対象非行は万引き、バイク盗、恐喝といった軽微な財産犯だった。被害者の体験談を聞いた後、少年たちは3~4人程度のグループに分かれ、家裁調査官がファシリテーターとして各グループに入って討議し、最後に感想文を書いてもらい、司会が全体を振り返りながらまとめる作業をする。

2012-09-16 17:55:25
倉沢 繭樹 @mayuqix

「教室」は2002年度から東京家裁で本格的に実施されているということだが、対象非行はバイク盗と万引きである。犯罪被害者の心理的ケアにかかわってきた小西聖子氏は、ある犯罪被害者支援の会に参加したときのエピソードを語っている。

2012-09-16 17:56:51
倉沢 繭樹 @mayuqix

そこで出会ったひとりの犯罪被害者は、傷害事件の被害者だったのだが、壇上で自分の被害体験を落ち着いて冷静に話していた。小西氏はその人と話してみて、その人が大学院の自分の講義の聴講生だったことを知る。その人は、途中で授業に来ることができなくなってしまったという。

2012-09-16 17:57:56
倉沢 繭樹 @mayuqix

「授業で和解(VOM)のビデオが上映されて、それをとても見ていることができなくて」とその人は言った。小西氏は、教材として被害者加害者の和解や加害者の再教育についてのビデオを使っていたのだ。「回復を果たしたように見え、誰かに助けてもらっているのではなく、

2012-09-16 18:05:49
倉沢 繭樹 @mayuqix

自分がほかの人や一般の人を力づけ、支援する側に回っていると思えるような被害者や遺族でも、やはり加害者との接触には非常に神経質だし、許すとか和解するとかいった言葉には強烈な否定的な反応があることが多いのである。被害者の気持ちを実際にいつも聞いていて、

2012-09-16 18:06:55
倉沢 繭樹 @mayuqix

そのことについて考えているつもりでいてさえ、ときに被害者の苦痛や怒りを過小評価してしまうことを思い知らされる」(小西聖子)。小西氏は、自身の臨床実践からこう述べる。「私が臨床実践の対象としているのは外傷体験、被害体験一般であるが、そのなかで最も接する頻度が多く、

2012-09-16 18:08:44
倉沢 繭樹 @mayuqix

また状態が悪い人が多いと思うのは、事件・事故の遺族と、性暴力、性的虐待の被害者である。これらの人のもつ恐怖や不安、怒り、自責感は、聞く者を圧倒してしまう。医学や臨床心理の専門家における二次被害が多いのは、このような被害者の話があまりに衝撃的だったり、

2012-09-16 18:09:59
倉沢 繭樹 @mayuqix

激しい感情が共感の範囲を超えていてうまく受け止められないことにも一つの原因がある」。殺人事件、傷害致死事件、強姦事件などを対象とするVOMについて、小西氏は二つの危惧を表明している。「一つは、『和解』という日本語の甘いニュアンスからくる社会のVOMに対する誤解である。

2012-09-16 18:11:49
倉沢 繭樹 @mayuqix

Victim Offender Mediation という言葉を『被害者加害者の和解』と翻訳した人は、被害者加害者の実情が分かっていない人だったのだろう。被害者加害者の間で mediation が成り立つとしたら、それは『伝える』ことに主眼を置いているからこそであって、

2012-09-16 18:13:21