筍提督と僻地の泊地 (3) 2014春

筍提督と僻地の泊地＠新時代鎮守府 @storyoflingga

4月25日。大本営からの新海域への進出作戦、それに伴う情報戦の3日目です。 サメワニ沖海戦は、出撃させてもらえないストレスが溜まっていた一航戦を投入して、23日付で殲滅しました。本土から送られてきた報酬「烈風改」は、そのまま加賀にプレゼントしました。 #僻地の泊地日記

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この新作戦を機に、新品の通信機材が並ぶようになった執務室で、私は鳳翔さんと二人きりで最前線の艦隊からの連絡を待ち続けています。 金剛型を基幹とし、翔鶴型を含む第1艦隊は今、前海戦の残存部隊を追ってズンダ海峡まで足を伸ばしているのですが……。 #僻地の泊地日記

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通信機の向こう側で旗艦・金剛が叫びます。 ［Shit！　第3夜戦、三隈が大破しまシタ！　帰投シマス！］ 『……分かった』 夜戦。その二文字のために頭が痛みます。まだ私が艦雄になる前、沙号作戦で見た悪夢が思い出されてしまいます。 #僻地の泊地日記

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サメワニの残存部隊の護衛に回る増援主力艦隊の旗艦ル級改は、何度も撃沈したはずでした。が、それはあくまで行動不能な状態にすぎず、入渠を重ねて再び現れてきます。だから、我々は何度も出撃することを強いられ、大半は第3夜戦での被害のおかげで帰投を余儀なくされています。 #僻地の泊地日記

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<ふぶき>が傍受した敵陣営の通信によれば、ル級改はあと2回叩けば本当の意味で「撃沈」するとのこと。ル級改自体は夜戦に持ち込みさえすれば余裕なので、主力艦隊がいる海域に2回行けば勝てます。もちろん、「行けるなら」という条件付きです。 #僻地の泊地日記

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『あぁ＾～鋼材溶ける＾～』 「提督。その鋼材が、現時点でどれだけあると思います？」 『うーん……分からん。どれだけある？』 「228543です」 『えっ……そんなにあるのか……』 「普段から貯蓄しておいてよかったですね」 『これは貧乏性っていうの』 #僻地の泊地日記

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資材はともかく、帰投する艦隊を迎えるため港に来ました。港に着くと、最上が三隈を背負って――もとい、曳航してこちらに来るのが見えました。三隈は瞼すら開いていません。 『大丈夫か！？』 「僕はね……でも、三隈が……」 最上は半ベソです。 #僻地の泊地日記

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『早くドックへ！』――。言ってから気付いたけど、他の連中はどうした？ 「え、金剛たち？　鈴谷と熊野を連れてまた出撃したよ」 何やってんだアイツら(驚愕) #僻地の泊地日記

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彼女たちは絶対に疲れているはずです。そんな体で間も置かずに出撃すれば、それこそ鋼材が溶ける事態に陥ります。これは止めなきゃ。 『ちょっと行ってくる！』 「行くって何処に？」 『アイツらのとこ！』 そう言って海面にジャンプした私は、そのまま飛沫を上げて沈みました。 #僻地の泊地日記

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「提督、歩海ブーツ履いてないよ！」 『それ先に教えて！　先に！』 『って、俺のことはいいから！　早よドックに連れてってやれよ！』 「あ、うん！」 #僻地の泊地日記

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びしょ濡れで陸に上がったところに鳳翔さんが来ました。 「……何をしているのですか？」 『どうか訊かないで。それで、何かあった？』 「ええ、それが、間宮の方から報告が」 『間宮さん？』 #僻地の泊地日記

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「なんでも、帰投した子たちがほとんど疲れた様子を見せず、平素よりも短い休憩で再出撃してしまうらしいのですが……」 これか？ これが原因か？ #僻地の泊地日記

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私は鳳翔さんを具して情報部に行き、<ふぶき>に頼んで例の無人偵察機を稼働してもらいました。 「第1艦隊を追えばいいんですね？」 『ああ。間宮さんがアイツらを心配してるんだ、この目で様子が見たい』 分かりました、と返事をした<ふぶき>は私を情報処理室へ案内します。 #僻地の泊地日記

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大きなモニターに蒼い海面が写りました。RQ-1は上昇中らしく、海面はどんどん離れていきます。 2、3分ほど何もない海を眺めていると、米粒ほどの大きさですが、確かに彼女と分かる影が見えました。 『金剛だ！』 #僻地の泊地日記

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<ふぶき>によってズームされた映像の中で、金剛は何か大きなものを掴んでいました。大きさ的には彼女と大差ありません。揺さぶっているようにも、殴っているようにも見えます。 ……殴ってゐる？ 『もうちょっとズームできるか？』 #僻地の泊地日記

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更にズーム。中央に金剛の後頭部、荒ぶる右腕。左腕はル級改の胸倉をしっかり掴み、右の拳が十回と言わず二十回と言わずその顔を強打しています。これやらかしてるわ。 『鳳翔さん、帰投命令出してくれる？』 「あっ、はい、畏まりました」 #僻地の泊地日記

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鳳翔さんが情報処理室を出てからも、私はモニターを見つめ続けました。金剛はクスリ(隠語)でも飲んで狂ったかのようにル級改を殴っています。アレは、間宮さんも心配するわけです。 『<ふぶき>。第1艦隊の帰投を確認し次第、偵察機を回収。その際は敵機に警戒』 #僻地の泊地日記

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『あと、電話借りるぞ』 「電話ですか？　いいですけど」 これといって特別なことを言うわけでもなく、私は内線で入渠ドックの電に、第1艦隊の連中が「また」世話になる旨を伝えました。 #僻地の泊地日記

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さて、日が昇ってから帰ってきた第1艦隊。旗艦の金剛は、ル級改を背負ってきました。同じ構図の最上と三隈を見た時とは違う衝撃が<たいせつ>を襲う。 『なんでやねん』 「ピクリとも動かないからさらって来まシタ！」 『理由になってへん』 #僻地の泊地日記

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『てか、今まで4回叩いたろ。その時も動かなかったのは同じじゃないのか？』 「No, no, no！　様子が今までと違ったんデース！！」 すっかりハイになっている金剛ですが、その発言は気になります。 『どういうことだ？』 #僻地の泊地日記

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「前の4回の撃破デハまだ自我を保ってるヨーに見えマシタけど、今回はすっかり気絶してるネー」 『そら、あんだけ殴ったらな……』 「Oh、私のセイじゃないヨ！　ネ、榛名！？」 金剛は榛名に話題を振ります。榛名は控えめに、でも確かに肯きました。 #僻地の泊地日記

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榛名は静かに口を開きます。 「そのル級は、お姉様が殴打するのをやめた時、急に体中から力が抜けて、目の光も消えたんです」 『目の光もか……』 「おそらく軍艦としての“我”を失っているんではないかと」 『なるほど』 #僻地の泊地日記

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自我を失くした敵戦艦ですか……意識が戻るまで、頑丈な改修ドックに拘禁しましょう。目が覚めたら暴れるでしょうが、上手く利用できるかもしれません。 『じゃ、今すぐ改修部に回して』 「OK, mister！」 『お前はさっさと入渠しろ！！』 #僻地の泊地日記