カシマレイコは赦さない【第一章(一)】

コクドー(黒道P)@mpblacklordの小説用アカウント@mpb_karateで連載している小説、「カシマレイコは赦さない」のまとめ。 感想はハッシュタグ#mpbkrt、もしくは@mpb_karateへ。 前「【カシマレイコは赦さない】序」http://togetter.com/li/660683 次「カシマレイコは赦さない【第一章(二)】」http://togetter.com/li/663036 最新「カシマレイコは赦さない【第一章(三)】」http://togetter.com/li/668290 続きを読む
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テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

「赤牟田から出ればよ、もうタカコにガミガミ言われずに済むだろ?」タイゾー君は希望に満ちた笑顔を見せているが、僕は苦笑いで返した。引っ越しなんてしないならしない方がいいけどなぁ。僕は、顔も名前も思い出せない小学校の頃の友人を想った。「あ、でもそしたら委員長に会えなくなるなァ」 25

2014-04-27 22:07:39
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

タイゾー君は突如思い出したようにその場でクネクネし始めた。多分直接見たら精神に異常をきたすタイプの動きだと思う。「まだ委員長に何もしてねぇのに去るのは忍びねぇなぁ。タカコはうるせぇばっかの女だけどよぉ、委員長を引き入れたのは人生最大の功労だと思うぜぇ。いいよなぁ、委員長」 26

2014-04-27 22:10:10
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

「うーん、僕は委員長をそういう目で見たこと無いし」「ハァ?お前普段クラスで委員長のこと見てて何も思わねぇのかよ!クラス委員長として、独特の雰囲気でクラスの和を保つゆるいカリスマ!あどけなさと気品を同時に感じさせる容貌!あとおっぱい!全部タカコには無ぇだろ」多分主に最後だ。 27

2014-04-27 22:12:46
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

「まあ、可愛いとは思うよ、委員長」こういう話は苦手だ。僕は適当に返事をしておく。「なんだよその鶏肉が歯に挟まったみたいな物言いは。あっ、そうか!お前のターゲットは別か。リノちゃんだな?確かに乳は委員長と同程度……いやしかしなぁ」やっぱり何より先に胸の話があった。 28

2014-04-27 22:17:27
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

「いや、和泉さんも可愛いかもしれないけど」「オイオイ、まさかタカコ狙いか?そりゃ絶対お勧めしないぜ。部員全員一年生なのに部長呼び強要してふんぞり返ってるアホ女だぞ。乳も無いし」「結局そこじゃん。そうじゃなくて、女の子を恋愛対象として見たことがないってことで」 29

2014-04-27 22:21:21
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

僕がそう言った瞬間、タイゾー君はにわかに僕と同じ目の高さまでしゃがみ込むと、両肩にポンと手を置き、僕の瞳を直視した。「正直に言え。友達やめたりしねぇから。ムッツリか、ホモか、EDか、実は女であるか」「どれでもないよ」「俺が信じられねぇか?」「そういう問題じゃなくて」 30

2014-04-27 22:23:52
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

肩に置かれたタイゾー君の手に、にわかに力が入った。僕がぎょっとしていると、マンガで言うと見開き一ページ使うのではないかというほどの真剣な表情と声色で、タイゾー君は語りかけてきた。「俺達は生きてきた環境が違う。性格も趣味も嗜好も当然異なるだろう。だがよ。おっぱいは好きだろ」 31

2014-04-27 22:26:51
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

「タイゾー君、ここ閑静な住宅街なんだけど」「たとえ地球の裏のブラジル人だっておっぱいは揉むだろ。国は違えどそこは同一だろ」「僕外国人じゃないけど」「その心にどんな傷を負ってるんだ?何がお前に人を愛せなくさせたんだ?」「タイゾー君が愛してるのって人というか胸だよね?」 32

2014-04-27 22:30:04
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

タイゾー君が漫画の主人公並みに熱い愛の説教を続けている間、あまりにも真っ直ぐな瞳を直視できなくなった僕は、できるだけ彼の背後の空間を見ているよう心がけた。「花に水を遣るように、罪には罰が要るように、俺達には乳が必要なはずだ。そうだろ?」「何言ってるかさっぱりだよ、大体――」 33

2014-04-27 22:32:44
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

その時だ。僕が『それ』を見つけたのは。 34

2014-04-27 22:34:41
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

はじめは、そこに何かあることにすら気付かなかった。タイゾー君に意識が向きすぎていたんだと思う。気味の悪いほど人通りの無いこの道に立っているのは、街路樹だの、電信柱だの、少なくとも能動的に動けるようなものじゃなかった。僕達を除けば、だけど。でも、『それ』はそうじゃなかった。 35

2014-04-27 22:38:03
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

僕と『それ』には、十数メートル距離があった。僕達が当たり前に帰宅していれば、恐らく確認もしなかったであろう方向。背後だ。そこに立っている電柱の陰。夕焼けの赤と影の黒に紛れて、ひとつのシルエット。それには、手がある。腕がある。胴体がある。顔もある。髪の長い、女性の姿。 36

2014-04-27 22:41:10
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

その場で首を四十五度ほどかしげてみせた『それ』は、僕の目を見た。 目が、合ってしまった。  37

2014-04-27 22:44:54
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

顔も表情もよく分からない『それ』に目が在ることだけが、どうしてだろう、分かりすぎる程に伝わってくる。黒い瞳。光さえも届かない宇宙の果てのように、吸い込まれてしまえば上も下も分からなくなるような、あまりにも不安で無慈悲な色の、暗黒そのもの―― 38

2014-04-27 22:48:31
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

「おーい、ちびかわトシぴー」「うわっ」突如視界に入ってきたタイゾー君の顔によって、僕は無理矢理現実に引き戻された。「……た、タイゾー君?」驚くほど馬鹿な台詞がはじめに出た。そりゃ、タイゾー君はタイゾー君に決まってる。 39

2014-04-27 22:54:57
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

「おう、俺だけど。どうしたよ、ちびかわトシぴーって呼ぶまでぴくりとも反応しやがらねぇで。そんなにこの呼び方が気に入ったか?それとも俺の後ろに巨乳美女でもいたか?」タイゾー君は呆れた顔をしながら、僕の前で手をひらひらと振っている。そうだ、そこに。僕は改めてさっきの場所を見た。 40

2014-04-27 22:57:20
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

だけどそこには、電信柱だけが黙って立っている。じゃあ、さっきのは?どこかに行ったのだろうか、それともそんなもの初めからいなくて、僕が幻覚でも見たのだろうか?体の機能すら働くことを今思い出したかのように、全身から汗がどっと噴き出すのを感じた。 41

2014-04-27 23:05:01
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

僕が遠くばかり見ているのに気付いたのか、タイゾー君は振り向いて後方を確認した後、あからさまにがっかりした顔でこっちを見た。「んだよ、期待させやがって。やっぱりいねぇじゃねぇか巨乳美女」「……い、いるとか言ってないけど」ようやくツッコミを入れるくらいの落ち着きが戻ってきた。 42

2014-04-27 23:10:05
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

「あんまり怖い顔してるからよぉ、マジで爆乳美女がいるかと思ったぜ。というか汗までかいてるじゃねぇか。超乳美女の幻覚でも見たか?」「……ううん、何でもなかった……」僕はようやくそれだけ返事をした。何でもいいけど、なんでタイゾー君は僕が巨乳美女を見たと信じて疑わないんだろう。 43

2014-04-27 23:12:31
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

「まぁ、何でもないならいいか。あ、そうだ、今日は帰ったら『冥界鬼兵隊ヴァルキュリアン』見るんだよ」「な、何だっけそれ、アニメだっけ」「おうよ、今期のロボット枠兼おっぱい枠。女の子がぴっちり戦闘スーツ着てロボット乗って戦うヤツ。あ、あと返却期限明日のホラーDVDも溜まってら」 44

2014-04-27 23:26:32
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

タイゾー君は今日見るべき映像作品の数を確認している。僕が見る限り七本ほど指が折れていた。「そんなに観るの?」「タカコに勧められたヤツだからな、明日絶対感想訊かれるだろうなぁ。早く帰ろうぜ」「う、うん」まだ何となくぼんやりしたまま、僕はタイゾー君の後を雛鳥めいてついて行った。 45

2014-04-27 23:35:18
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

先程から幾度も頭の中に現れては僕の心をざわつかせる、あの影、あの目については、何も考えないようにしながら。 46

2014-04-27 23:36:37
テキストカラテ・ドージョー @mpb_karate

【『カシマレイコは赦さない』 一(一) 終わり 一(二)へ続く】

2014-04-27 23:40:35