古鷹青葉を見守る衣笠さんbot #21

更新二十一回目のまとめです。 オリョール海に出撃した第六戦隊。異常に周囲を警戒する青葉の懸念とは。
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古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

オリョールの青い海を、青葉を旗艦とする第六戦隊の艦隊が行く。先頭から青葉、加古、私、古鷹ねーさん、吹雪、叢雲の順。オリョール海の敵艦はそれほど強くなく、私たち重巡は水上偵察機や水上観測機も積んでいたため索敵にも問題はなし。しかし、私たちの艦隊の進撃は遅々として進まなかった。

2014-04-30 21:26:57
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

その理由は明白だ。敵に潜水艦のいない海域だと言うのに旗艦の青葉が艦隊に不定期に進路を変える之字運動を取らせているためだ。之字運動をしていれば敵の潜水艦は魚雷の狙いを定めにくく、また敵の偵察機にこちらの艦隊の進路を覚られにくいというメリットもあるが、青葉のそれはいかにも過剰だった。

2014-04-30 21:33:13
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

そんなことを思いながら艦隊の先頭を走る青葉を見ると、ちょうど青葉の右手が高く上がり、左へ向かって大きく半円を描いた。取舵の指示だ。青葉が転舵した位置に達した加古が続いて同じ方向に転舵する。私と古鷹ねーさん、吹雪と叢雲もそれに続く。その間も青葉は何度も後ろを振り返っていた。

2014-04-30 21:39:48
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

青葉の前方の空には青葉が放った零式水上偵察機が飛び、前途の哨戒に当たっている。それでもまだ不安なのか、青葉はしょっちゅう周囲に頭を巡らせ、警戒の手を緩めようとはしない。「そんなに警戒しなくても大丈夫じゃない?」と青葉に言っても、青葉は頑として聞き入れなかった。

2014-04-30 21:45:13
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

その話をした時、青葉の目が一瞬だけ加古の方を見たのを私は見逃さなかった。「まだ早い」と言われていたのに之字運動をやめ、結果潜水艦の魚雷を食らって加古が轟沈した第一次ソロモン海戦の帰り道。あの苦い過去を青葉は忘れていないようだった。加古はそれにも気づかずあくびをしていたけれど。

2014-04-30 21:51:36
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その上、青葉は艦隊の前方で警戒に当たらせるべき駆逐艦である吹雪と叢雲を艦隊の最後尾に置いている。これはサボ島沖夜戦の記憶がちらつくためだろう。あの時敵艦隊に最も近い位置にいた吹雪はなすすべなく轟沈している。その時、索敵に出していた三機の水上偵察機の機影が戻ってきた。

2014-04-30 22:00:18
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

青葉が指示を出し、艦隊が輪になってその場でぐるぐると回りはじめる。こうすることによって輪の内側では海面の波が打ち消され、水上機が着水できるようになるのだ。青葉も周囲に敵艦がいないことを入念に確かめた後水上機を着水させた。私は海面にしゃがみ、自分の水上機をそっと手に取った。

2014-04-30 22:07:08
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水上機をカタパルトにセットし、乗っていた妖精さんを両手のひらに乗せる。彼(彼女?)らの報告によると、私たちから見て10時の方向に敵の巡洋艦隊がいるらしく、このまま進めば接敵するだろうとのこと。青葉にその旨を報告すると、青葉は無言で頷いた。そのまま押し黙って何か考えている。

2014-04-30 22:12:06
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

このあたりの海域から敵艦隊の遊弋する数が増えるため、どこかで戦闘は避けられない。幸い水上機が報告してきた敵艦隊には重巡がおらず楽な相手だ。このまま進んで敵艦隊を撃破し、一気に海域の最深部に迫って任務の目的である敵の主力打撃群の撃滅を狙うべきだ。それなのに青葉はまだ考え込んでいた。

2014-04-30 22:17:53
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「青葉?」 「は、はい!」 よほど集中して考え込んでいたのか、私が声をかけると青葉が飛び上がった。 「このまま進むんでしょ?何を考え込んでるのよ」 「えっと……」 青葉が口ごもる。さすがに私たちが前方の敵艦隊と戦って負けるかもしれないとか思ってるわけじゃないはずなのに。

2014-04-30 22:23:29
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

腑に落ちない心持ちで青葉を見つめていると、青葉が意を決したように顔を上げた。 「進撃しましょう。戦闘になりますから、水上機は燃料を補給して発艦させてください。可燃物を投棄、砲戦に備えてください」 「了解」 「了解」 青葉の指示に応えその通りにしながらもその違和感はぬぐえなかった。

2014-04-30 22:30:02
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

深海棲艦に奪われた海域を攻略し続け、ついには南方海域にまで進出している熟練の艦である私たちにとって青葉の指示は言わでものことだった。艦隊運動だって青葉の指示がなくとも旗艦の動きを見ているだけで追従していける自信がある。旗艦の青葉の指示は、なにかがちぐはぐだった。

2014-04-30 22:34:58
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

と、青葉が左に舵を切って進み始めた。敵艦隊がいる方向だ。このまま接敵すれば、反航戦になって砲戦に十分な時間が取れないかもしれない。そのことを青葉に指摘しようとしたが、加速しながら私の目の前を通った加古が意味ありげな視線を送ってきた。また「黙って見守ること」と言われた気がした。

2014-04-30 22:40:23
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

オリョールの海を進むと、敵巡洋艦隊全容が見えてきた。雷巡チ級elite、軽巡ト級、軽巡ホ級二隻、駆逐イ級二隻の複縦陣。敵艦隊もこちらに気付いたらしく次々に砲身をこちらに向けてくるのが見える。私は頭を振って意識を砲戦に切り替える。 「砲雷撃戦開始してくださいッ!」 青葉が号令した。

2014-04-30 22:52:27
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

ドドウ!ドウ!ドウ! 第六戦隊の主砲20.3㎝連装砲が一斉に火を噴き、天地を震わす。たちまち敵艦隊の周囲に水柱が上がり、怯んだ敵艦が陣形を乱す。弾着やや近し。それを見てとった加古や古鷹ねーさんが早速主砲の仰角をやや上げ、再び斉射する。私もそれに倣った。今度は挟叉した。続けて撃つ。

2014-04-30 23:02:26
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

砲戦が始まって間もないのに、あっという間に敵艦隊は壊滅に追い込まれた。うちの鎮守府の重巡で最も練度の高い古鷹ねーさんは言うに及ばず、加古や私も次々に砲弾を命中させたからだ。他の重巡が数%の命中率だったのに対し、15%前後を誇る古鷹青葉型の主砲の命中率は伊達じゃないのよ!

2014-04-30 23:10:08
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

かろうじて一隻残った旗艦の雷巡チ級が、大破状態で逃れようとする。すでに私たちの主砲の射角の範囲外。けれど、私たちの後ろには強力無比な93式酸素魚雷を抱えた吹雪と叢雲が控えている! 「いっけぇ!」 「沈みなさい!」 前に出た二人の放った酸素魚雷は過たず雷巡チ級に命中し、撃沈した。

2014-04-30 23:16:33
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

上空に逃れて周辺を警戒していた水上機に残敵がいないことを確かめ、私たちは損害の確認を行った。相手にほとんど反撃の機会を与えない猛攻だったため、加古が至近弾で小破にも満たないダメージを負った以外は全くの無傷。 「やったね!」 「ま、当然の結果よね」 口々に快勝を喜び合う、けれど。

2014-04-30 23:24:49
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

青葉だけが、ぎこちない笑顔を浮かべていた。今の海戦で、青葉の砲弾はほとんど敵艦に命中していなかったからだ。それどころか照準や次弾の装填にも手間取っていたようだった。今まで演習や哨戒任務が主で実戦経験がほとんどなかったから?いや、青葉の表情を見るにそういう訳でもないのかもしれない。

2014-04-30 23:32:52
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

青葉の砲弾がほとんど当たっていなかったのは、おそらく戦闘中ですら私たち後続艦のことを気にして戦闘に集中していなかったせいだろう。青葉としては、敵艦を沈めるより私たちの無事がはるかに気にかかっていたらしい。どう考えても気にし過ぎなのだけど、青葉もそのことはわかっているようだった。

2014-04-30 23:39:53
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

私の視線を感じてか、青葉がさっと表情を変えて鎮守府に連絡を取り始めた。 「提督ですか?海戦終わりました。はい、加古さんが至近弾でちょっと損傷しただけです。はい、はい、進みます」 青葉の声は明るく、笑顔で雷ちゃんと通信している。けれど、私はその青葉の笑顔に既視感を感じ取った。

2014-04-30 23:48:24
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

それは罪悪感で自分を押しつぶそうとしていた頃の青葉の笑顔。笑顔以外を忘れたかのような笑顔。自分と他者を隔てるための仮面の笑顔。古鷹ねーさんとのわだかまりをある程度解消できたのに、今この笑顔が顔を出すなんて。私は何かうすら寒い思いに襲われた。青葉、もしかして相当無理してるんじゃ。

2014-04-30 23:57:57
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

青葉のあの笑顔は、苦しんでいる自分をひた隠すためのものだった。苦しんでいることを他人に知られたくなくて、知られる資格すらないと思い込んで。つまり、今の青葉も再び仲も目の前で失う恐怖にとらわれているのだ。だから病的なまでに警戒を怠らなかったのだ。こんなんじゃ無理よ、続かない。

2014-05-01 00:04:35
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

今からでも遅くない、止めるべきだと思った私は口を開こうとした。けれど、機先を制するように青葉が言った。 「さあ、進撃しましょう!敵の主力打撃群はすぐそこですよ!」 言うが早いか艦隊の先頭に立った青葉が航走し始める。待ってと口の中で言いかけた私の肩を、加古がつかんだ。

2014-05-01 00:08:40