y_tambe さんが語る、抗生物質と抗菌薬と薬剤耐性

ただで読むのは、気が引けるほどの、抗生物質(antibiotic)、抗菌薬(anitimicrobial)の由来や歴史の読み物になっていると思います。
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Y Tambe @y_tambe

だから「抗生物質」という言葉は、本来は、その最初の定義から「微生物が作り出すもの」のみを指す。先述のサルバルサンやサルファ剤は、抗菌薬であっても「抗生物質」ではない。ただペニシリンの大成功から、さまざまな微生物から「抗生物質」が探索され、多くの有用な抗菌薬が実用化されたため(続

2014-05-01 21:49:28
Y Tambe @y_tambe

承前)「抗菌薬≒抗生物質」と考えられ、混同されることが非常に多い。その理解でもまあ6-7割くらいは、結果として間違ってないことは多いのだけど、本来は別物。今日頻用されてる「抗菌薬」は、ニューキノロン系を除けば、ほとんどが「抗生物質」またはそれを出発点に開発されたものが大半。

2014-05-01 21:53:11
Y Tambe @y_tambe

ちなみに、抗生物質 "antibiotic" という言葉は、"anti-(抗する、反する)"+"biotic ([微生物の]生命、生長)"なので、「抗生(物質)」がほぼ直訳。ついでに言うとヨーグルトとかの「プロバイオティクス(生菌)」「プレバイオティクス(生菌含まない)」も関連語

2014-05-01 21:57:10
Eiji Domon/ Bernardo Domorno @Dominique_Domon

ニューキノロン系抗菌剤でも耐性菌はやっぱり出現するので、使い方に注意がいる所は抗生物質とそう変わらない気がする。

2014-05-01 21:57:52
Y Tambe @y_tambe

耐性については、まったく変わらない。むしろサルファ剤なんかは、耐性が出現しやすいと言われてるので、その薬剤が何に由来するものかと耐性出現には関係がないと言っていい。

2014-05-01 22:00:55
ニケ @LingkoNIKI

@y_tambe すみません、えっと、素人考えなので全然違ってるかもしれないのですが、「進行が遅い」ことは、「広まりやすい」ことと関係あるのでしょうか。何となく見すごしているあいだに次々とうつしちゃったりしそうな気がして。

2014-05-01 21:09:07
Y Tambe @y_tambe

まぁともかく、今回のWHO声明の最初の一行 "antimicrobial resistance, including antibiotic resistance," 「抗菌薬耐性、抗生物質耐性を含む」という用語にはそういう背景がある。 http://t.co/GSKIzh2A5J

2014-05-01 22:02:22
Y Tambe @y_tambe

細かく言うと"antimicrobial"は「抗菌薬」と訳されるけど、ここで言う「菌」がどこまでの範囲か、というところはヤヤこしかったりもする。一般には細菌と、真菌(菌類)も、まぁカバーするかな、いわゆる原虫(原生生物)は含むかなどうかな、という感じ。

2014-05-01 22:05:59
Y Tambe @y_tambe

英語の"antimicrobial"は、そのまま訳すと「抗微生物(薬)」なので、(特に医学)微生物学で言う「微生物」の範囲と、「antimicrobial」が抑える範囲は、概ね一致はしてるかな、という感じなのだけど。

2014-05-01 22:09:05
Y Tambe @y_tambe

ただし、ここで言う「微生物 microbes」に、ウイルスを入れるかどうかとなるとまたややこしくて…と、どんどん話が重箱の隅に向かうのでこのくらいにしとこう。

2014-05-01 22:10:32
Y Tambe @y_tambe

んで「抗生物質とは、微生物が作る化学兵器である」というところに戻る。これまで多くの抗生物質が発見、開発されてきたけど、これは「他の微生物との生存競争を勝ち抜くため」作るものなので、それが自分自身(自分と同種の微生物)に有毒であると困るわけ。

2014-05-01 22:13:56
Y Tambe @y_tambe

最初に見つかった抗生物質であるペニシリンは、アオカビ(=真菌、菌類)が作り出し、細菌の細胞壁合成を阻害する化学物質。細菌と真菌は(名前は似てるけど)生物学的にはものすごくかけ離れている…原核生物と真核生物の違いがあり、真菌から見ると細菌なんかより我々ヒトの方がよっぽど近い。

2014-05-01 22:17:26
Y Tambe @y_tambe

それぐらいに「かけ離れた相手」だからこそ「自分(カビ)には無害だが、細菌には有効な化学兵器」が作れた。ちなみにペニシリンの標的になってるのは、生物の中で、細菌だけが共通に持つ細胞壁の構成成分(ペプチドグリカン)の合成阻害。

2014-05-01 22:19:47
Y Tambe @y_tambe

その他、世界中のいろんな土壌に生息している「放線菌」と呼ばれる細菌の仲間などから、多くの種類の抗生物質が見つかってる。これらの土壌細菌は細菌の仲間には違いないんだけど、ヒトに病原性持つ多くの細菌とはちょっと違う部分も多いので、そこの「違い」を攻撃するような抗生物質が発見された。

2014-05-01 22:23:41
Y Tambe @y_tambe

ここらへんの抗生物質は、すべて「微生物同士が、その生育環境で生存競争するために作り出す」もの、というのがポイント。 「ウイルスに有効な抗生物質はない」というのも、実はここがミソ。ヒトに感染するウイルスは、宿主であるヒト細胞の中に侵入して増殖するけど(続

2014-05-01 22:31:29
Y Tambe @y_tambe

承前)「ヒトの細胞の中」は、そもそも無菌(=微生物がいない)のが普通というか「微生物が生存競争してる場」ではないわけで。しかもヒトに感染するウイルスは、ヒト細胞には感染しても他の微生物の細胞には感染しない。「生存競争しあってる微生物」とウイルスは文字通り「住む世界が違う」

2014-05-01 22:34:47
Y Tambe @y_tambe

承前)もともと住む世界が違うんだから、微生物にとっては「ヒトに感染するウイルスの増殖を抑える物質を作る」理由がない(偶然効くような場合はないとは言えないけど)。

2014-05-01 22:37:59
Y Tambe @y_tambe

耐性の出現は、抗菌薬が発見された直後から、すでに問題になっていた。現在も大体、新しい抗菌薬が開発・承認され、市場に出まわるようになると、その1-2年後には、耐性菌が見つかってくることが多い。出現はそれくらい早く、あとはその拡大をどれだけ食い止められるかが本当の勝負になる。

2014-05-01 22:48:38
Y Tambe @y_tambe

そもそも考えてみると、抗生物質あたりは「微生物が作り出す、生存競争を勝ち抜くための化学兵器」なんだから、それと競争する側の微生物もいつまでもヤラレっぱなしでいるわけはないので、それに対抗するための手段があるのは当然とも言える。

2014-05-01 22:50:49
Y Tambe @y_tambe

こうした薬剤耐性の機構には、さまざまなタイプがあって、特定の抗生物質だけをターゲットにするもの(例えば、ペニシリン分解酵素の獲得)もあれば、もっと幅広く(菌体内に入ったいろんな薬剤を外に排出する)働くものもあって一概には言えない部分がある。

2014-05-01 22:56:10
Y Tambe @y_tambe

また「生存競争の環境になかった」化合物であっても、突然変異やら何やらで、分解したり無力化したりするようになるので、抗菌薬にとって耐性の出現は「避けられない宿命」と言っていい。

2014-05-01 22:59:01
Y Tambe @y_tambe

「広まりやすい感染症」は、ざっくり言うと大まかに二つのタイプがあって。一つは、例えばインフルエンザやペスト、結核などのように、一気に感染を拡げるタイプで、いわゆる「空気感染」とかでヒトからヒトに伝染し、症状が急激に出ることも多い。これに対して、梅毒とかはもう一つの、別のタイプ(続

2014-05-01 23:05:43
Y Tambe @y_tambe

承前)梅毒とかHIVなんかが典型的なんだけど、割と長期にかけて進行し、その間もずっと潜伏感染するタイプ。このタイプは性行為感染など、割と密接な接触によって感染する。くしゃみや咳に比べると、性交渉なんかによる伝達は「別の人に移るチャンス」は少ないけど、確実性は高いともいえる(続

2014-05-01 23:08:45
Y Tambe @y_tambe

承前)その「少ないチャンス」を活かすためには、長期に亘って宿主と共存することが有効だと考えられる。これはまた、その宿主が暮らしてる社会様式によっても変わり、都会などのように人が密集して暮らす環境では、前者の一気に増えるタイプにとって有利になる一方(続

2014-05-01 23:10:42
Y Tambe @y_tambe

承前)ヒト同士が離れて暮らす、人口密度が低い環境では、むしろ宿主をあまり害さずに潜伏したまま生き延びておいて、ヒトと出会う少ないチャンスを確実にものにしていく方が有利と考えられてる。……この辺りは「病原体がそんなことを『考えて』実行してるか」は若干怪しく、合目的的な解釈だけど(続

2014-05-01 23:13:07