始まりへ至るまで - 選定のオルディナンス

『選定の儀』が始まるよりも古い記録です。
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ミシェル @tfhMichelle

「僕は、これから英雄になるんだ」

2014-05-10 15:51:52
ミシェル @tfhMichelle

ミシェル=アルファー 小国同士の戦争が多発する「世界」に暮らす。「世界」の科学文明の発達度合や生活レベルは現代と比べるとそれほど高くなく、現代の歴史でいうところの中世~近世のものに近い。

2014-05-10 23:32:45
ミシェル @tfhMichelle

ミシェルが生まれたのは、戦線からほんの少しだけ離れた、比較的裕福な民の多い街である。ちなみに男性であるにも関わらずミシェルという女性名を名乗る理由は、彼の両親が彼を少しでも戦争から遠ざけようと女性名をつけたためであり、彼本人も(理由はともかく)自分の名前は気に入っている。

2014-05-10 23:33:05
ミシェル @tfhMichelle

街の外の危険性を幼い頃から言い聞かされて育ったために逆に危機感より使命感を抱いて育ってしまい、流石に戦場すべての英雄になれるとは思っていないが、少なくとも自分の生まれ育った街を最も近い戦線から守り抜く、と小さい頃から心に決めている。

2014-05-10 23:34:08
ミシェル @tfhMichelle

基本的に思考内容は論理的であるが、年齢の割にやや夢見がちなところがある。しばしば理想を語るが実現なされることは多くない。 しかしあまりへこたれない。

2014-05-10 23:34:43
ミシェル @tfhMichelle

「……剣が欲しいなあ」 瞼を閉じて少年は呟く。 剣を振ったことはおろか力仕事にも慣れていないような手を強く握り込み、次いで思い切り指を伸ばす。彼はしばらくその動作を繰り返し、目を閉じたまま唐突に笑みを浮かべると、両腕を上に持っていって至極幸せそうな顔でうーんと伸びをした。

2014-05-11 09:56:22
ミシェル @tfhMichelle

少年には何の剣技も、戦場での経験もない。棒切れを剣に見立てて切り結ぶ遊びさえ、歳の近い遊び相手のいなかった彼には未経験のことだった。 周りにいるのは一回り以上も歳の離れた大人か、彼を慕い、彼の後をついてくるようなまだ幼い子供たち。 そんな環境が、彼の性格に影響したのかもしれない。

2014-05-11 10:12:05
ミシェル @tfhMichelle

彼はゆっくりと瞼をあける。 戦禍のすぐ傍で育ってきたにも関わらず、世界の綺麗な面しか見てこなかったような瞳が現れる。 「僕だけの剣が、欲しいな」 夢見がちな少年は、再びにっこりと。 やがて自分だけのものになるはずの、まだ見ぬ“剣”に陶酔しているような、熱っぽい表情で微笑んだ。

2014-05-11 10:21:32
クレアーヘリオン @Clairherlion

「……なるべく、頭は庇ってくださいね。クレアルのことだから、大丈夫だとは思いますけど……」 渋い顔で眉根を寄せる救護兵。僕は笑って、一度深く頷く。 「よく気をつけます」 ひと月前に、僕は頭を強く打って死にかけた。お陰で、僕は騎士であるらしいのに、今日まで剣を取り上げられていた。

2014-05-11 02:18:56
クレアーヘリオン @Clairherlion

目に見える傷が塞がっても、頭蓋が脆くなっているから、剣はまだ駄目だと、きつく言われていた。ひと月。それでも、完治に十分な時間ではないらしい。許しを得るのに、苦心をした。 その傷そのものより、彼らが僕を休ませたい理由がある。僕は、 「忘れたことを、覚え直さないといけないから」

2014-05-11 02:19:10
クレアーヘリオン @Clairherlion

覚えていなかったのだ。何一つ。自分が何者であるのかさえ。 革鎧を身に着けて、剣を腰に佩く。そのやり方も忘れていたから、聞いて、試して、覚える。前途は多難そうだ。 「のんびり回復を待っていたら、ますます忘れてしまうから。それに、忘れている時間が長くなれば、覚え直すのも大変になる」

2014-05-11 02:19:21
クレアーヘリオン @Clairherlion

「何より、私は、つまらないのは耐えられない」 忘れる前から、そうだったらしい。騎士になるきっかけの事件なんて、人に言わせれば狂気の沙汰で。 からりと笑みを浮かべる僕は、以前と少しも変わって見えないのだという。それがどうにも、特に親しかったらしい人たちには、好ましく映らないようだ。

2014-05-11 02:19:35
クレアーヘリオン @Clairherlion

同じように見えて、どうしようもなく違ってしまっているのが、以前の僕を知っていればいるほど、わかるらしい。それは、忘れてしまった僕では、考えても埋められなくて。 「ごめん」 と、謝るくらいしか、できない。 背を向けて、部屋を出る。建物の構造は覚えた。だから行く先は、わかっている。

2014-05-11 02:19:47
不老 蓮 @Lotus_frow

嘆きの声が夜闇に渦巻く。その街には死の翳りがあった。 生も死も混濁した場所で、安くて軽くて薄い兵装を着込んで男は戦っていた。 数多の魔が襲い来る。されど男の進撃は止まらない。

2014-05-11 15:13:11
不老 蓮 @Lotus_frow

「邪魔だ……」 得物は鳴く。軋みあげて風を掻っ切る。肉を削ぎ、骨を砕いて貫いて。両断、射抜く、焼却……魔の数だけ得物は鋭く鳴いて、死の道を作り上げる。 のこりはひとつ。 「邪魔だと言っている!」 吠え上げるようなバリトンが男の声として発されて、得物は魔を仕留めた

2014-05-11 15:18:40
不老 蓮 @Lotus_frow

――その一撃を最後に得物は崩れた。とうとう形をなくしてしまった。 形骸化した其れを労わりもせず、他に気配が無いと判断すると、好都合とばかりに男は丸腰で先へと進む。

2014-05-11 15:25:00
不老 蓮 @Lotus_frow

「チッ……」 煙草をふかして紫煙を吐く。一幅の安らぎを享受しながらも、ほんのわずかな焦燥が巡る。 もう戦える戦力としての兵装は無いに等しい。装備が欲しい。圧倒的な力を誇るものが。 野心じみた願望、野望。思いながら突き進んだ先は、一寸先も見えぬ闇ばかり。

2014-05-11 15:27:57
牡丹 @ordnanceI_peony

剣戟が、響く。戦場であり、戦地であった。人と人が争うのは、いつの時代であれそうした場に他ならない。刃が閃き、血が迸る。弾が迅り、肉が舞う。雑兵の進軍が、銅鑼の高鳴りが如く大気を震わせる。響いた絶叫が悲鳴が喚起かなど、最早そこにいた誰の耳にも区別さえ付かなかった。

2014-05-11 18:00:02
牡丹 @ordnanceI_peony

「ああぁぁァッ!」 叫声と共に、閃いた薙刀が先兵の腕を刎ねる。開いた空隙に滑り込ませる身体。翻る勝色。いつしか手にした太刀と長い棍が、左右の兵を掃き散らす。吹き飛ばされた兵の首に突き立った小太刀が、伸ばした鎖に巻き取られる。戦の中、凛と輝く双眸は、その死地において尚澱まなかった。

2014-05-11 18:20:06
牡丹 @ordnanceI_peony

それても、戦況は好転しない。一進と、一退。膠着しているのだ。女が居るこの場だけではない。国境線を戦端とした全ての領土、その何処においても――じわりじわりと、圧されている。真綿で、などと優しい程度ではない。国家という首に曲がれた縄は、引き上げられるその時を今か今かと待ちわびている。

2014-05-11 18:23:21
牡丹 @ordnanceI_peony

一瞬の間、跳躍。開いた空隙を、押し寄せる兵が埋め尽くす。だから、と女は苛立ちを込めて歯噛む。変えられぬ情勢を、好転出来ない力不足を。解っているのだ。コレは、個人の武では所詮及ばないのだと。女は勇猛であった。だが、将ではない。狂奔させられるモノを、流木牡丹は持ち合わせていなかった。

2014-05-11 18:37:45
牡丹 @ordnanceI_peony

故に――故にそう、この刹那に女は願う。誰よりも真摯に、懇願する。護国の為に賭したが故に『成し得るのであれば手段は問わない』。神か仏かあるいは魔か某か。瞳を閉じ、手を組み祈る。それは戦場においては紛れもない愚行。響く音、迫る気配、呼気と絶叫、その瞬きに――一切の気配が、消え失せた。

2014-05-11 18:54:37