ニチョーム・ウォー……ビギニング #5

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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【ニチョーム・ウォー……ビギニング】#5

2014-05-12 22:30:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「チョウダ!」「ハンダ!」「ハンダ!」「チョウダ!」「ハンダ!」熱を込めて声を張り上げる闇カネモチ達を見渡すのは、デッドフェニックス・クランのオヤブン、ミロコ・ウノ……エンプレス。その手にダイス壺。着物の片側をはだけ、白い胸にサラシを巻いている。「入りますよ」「「ヨロシイ!」」1

2014-05-12 22:39:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハンダ来た!」「チョウダ!チョウダ来い!」「絶対にハンダ!」闇カネモチ達は口々に威圧的チャントを発し、傍らのオイランの胸を揉んだ。エンプレスはミコー・プリエステスめいて、荘厳ですらある身のこなしのもと、ダイス壺を上にあげた。「……ハンダ」「「ワオオーッ!」」賭博室が沸き返る。2

2014-05-12 22:45:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

すぐさま、全身を余すところなくヤクザタトゥーで覆った、フンドシ姿のテッカバ(原註:ヤクザ賭博のサーバント)が膝立ちで闇カネモチ達の前を平行移動する。負けた闇カネモチ達がコーベインを掲げ、テッカバは素早くそれらを紫のフロシキに包んでゆく。「また負けだ!」「困った!」彼らは笑う。3

2014-05-12 22:52:28
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「さあ、ハッタ」エンプレスはよく通る声で促した。「ハンダ!」「チョウダ!」「チョウダ!」「チョウダ!」「……チョウダ」「アー!また負けた」「勝った」行き交うコーベインはずっしりと重く、相当なカネが動いていることは明らかだ。しかし負けた闇カネモチ達に焦燥のアトモスフィアはない。4

2014-05-12 22:58:40
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マッポーの世において、ヤクザ賭博はその一連の流れ自体が遺産めいたリチュアルであり、江戸時代から連綿と続くプロトコルの確認作業である。参加することそれ自体に意味がある。この賭博は財力の削りあいではない。複雑なマネーロンダリング作業の過程のひとつなのである。 5

2014-05-12 23:06:12
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テッカバが芝居がかってオジギし、フスマの奥へ引っ込む。テッカバは脳内で各カネモチのコーベインの増減の全てを処理する。それらは一定の割合で手数料を引かれた形で、しかるべき時にそれぞれの持ち主へ戻ってくるのだ。「中休みじゃ。この後も楽しみなされ」エンプレスは立ち上がり、手を叩いた。6

2014-05-12 23:13:42
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イヨオー、電子音声とともに逆側のフスマが開き、職人がカートを押してくる。カートの上には裸のオイランが寝かされ、その裸体を盆として、花めいて立体装飾的にカットされた人参や大根、スシやバイオ海老が盛り付けられている。女体盛りだ。「これはなかなかだ」「これがないとメリハリがつかんな」7

2014-05-12 23:20:42
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オイランは目を閉じ、ただじっと耐えている。己の運命を。エンプレスはそれを無慈悲に一瞥する。ブザマなルーザーだ。エンプレスはゲコクジョを重ね、地の底から這い上がった。それを可能としたのは彼女自身の才覚と執念だ。このブザマなオイランにその目は無いであろう。 8

2014-05-12 23:23:55
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「ミロコ=サン」退出するエンプレスの首筋に、闇カネモチのザマトラが、他に聴こえぬ囁き声を吹きかける。「鮮やかだったぞ。当時よりも益々艶めいて」「もったいなきこと」エンプレスは笑顔を浮かべ、丸々と肥えた初老の男を振り返る。男も笑う。「久しぶりの賭博、熱気が凄い!風に当たりたい」9

2014-05-12 23:37:55
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「では案内しよう」「ムフ……」エンプレスはザマトラを伴い、廊下へ出た。「これからも俺に任せてくれ。資金は無限だぞ、ミロコ=サン。無限に投資してやる。俺は黄金が湧き出す泉だぞ!」「頼もしいわ」「お前を自由にできる男は俺だけだからな」「困った人」渡り廊下を進み、人工の川を渡る。10

2014-05-12 23:46:10
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橋の先には、モデストな離れがある。ヤクザが一礼し、ショウジ戸を開いた。そのヤクザは奥ゆかしく本邸に去っていった。「のう、ミロコ」ザマトラはエンプレスの着物を払い、もう一方の肩も露出させた。「お前が危険な刃になればなるほど、俺の情欲も昂ぶる。俺だけが自由にできる刃よ」「……」11

2014-05-12 23:58:06
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エンプレスは壁の掛け軸を見る。「筋道」のショドー。そしてバイオ鹿の角。角にはウルシ塗りの鞘に収まったカタナが二本。「のう、ミロコ。のう」ザマトラがエンプレスの胸を掴んだ。「こんな楽しいことはない」「ああ、こんな楽しいことはない」エンプレスは同意し、ザマトラの手に触れた。12

2014-05-13 00:02:20
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「ミ……」「イヤーッ!」「アバーッ!?」「イヤーッ!」「アバーッ!?」エンプレスは二度のカラテで、ザマトラの両手の指全てをあべこべにへし折った。「アバーッ!?」苦痛と驚愕とで泡を噴き、ザマトラはタタミの上を転がった。「アッハハハハ!」エンプレスはザマトラを見下ろし、哄笑した。13

2014-05-13 00:04:58
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「誰か!」ザマトラは失禁しながらショウジ戸に這い、再び引き開けた。「誰か、誰、アイエエエエ!?」開いたショウジ戸の先には、ヤクザコート姿の巨躯の男が立っていた。血走ったニンジャの目がザマトラを見下ろした。「ゴユックリ」ヘンチマンは嘲るように言い放ち、戸をピシャリと閉めた。14

2014-05-13 00:09:21
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「アイエエエエ不条理!」ザマトラはゴロゴロとタタミを転がった。「やめてくれ!実際こんな酷い事はない!お、俺はお前に全てを与えた。俺があったからこそのお前だ!否、今もそうだ!俺が資金を引き上げればこんなちっぽけなヤクザクランのビジネスなど立ちゆかず……」「アッハハハハハ!」 15

2014-05-13 00:12:10
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エンプレスは上半身に巻いたサラシを引き剥がした。「アイエエエエエ!」ザマトラが再失禁した。白い背中には極彩色の双頭フェニックスのタトゥー。その燃える目がザマトラを睨み据えた!「知っておるかや!刀匠キタエタの四つがいの剣!」「何を?何を言っておる?」 16

2014-05-13 00:17:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

エンプレスは鹿角にかけられたふた振りのカタナを抜き放つ!「ナンバン!そしてカロウシじゃ!これはそのつがいのひとつよ!」ゴウランガ!一方の柄本には、まさに「南蛮」!もう一方に「過労死」の刻印!「アブナイ!しまってくれ!」ザマトラはあまりの急転直下に見当外れの懇願をした。17

2014-05-13 00:22:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤーッ!」「グワーッ!?」ザマトラにはエンプレスの太刀筋が見えよう筈も無し!彼の正中線に赤い垂直線が描かれた。皮膚一枚を切り裂いたのみである……その下腹部を覗いては!「アババババ、アバババーッ!」「アッハハハハハ!愉快じゃの!」「アバーッ!」タタミが赤く染まる! 18

2014-05-13 00:28:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「こんな無法が許されるものか!俺はお前の親にも等しい!」ザマトラは部屋隅へ後ずさる。「なぜこんな……わからん!カネが無限なのに!」「アッハハハハ!この日をどれほど焦がれたことか!同じじゃ。貴様の下になるたび、妾が思い描いておったツラと同じじゃの!」「恩……」「イヤーッ!」 19

2014-05-13 00:34:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アバーッ!」ザマトラの身体が逆袈裟に裂けた。「イヤーッ!」「アバーッ!」ザマトラの身体が逆袈裟に裂けた。無惨なX字が刻まれ、ザマトラは死んだ。「イヤーッ!」エンプレスは身を翻した。ナンバンがザマトラの首を刎ね、カロウシがザマトラの額を水平に割った。ナムアミダブツ! 20

2014-05-13 00:36:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハハハハ、ハハハハ」乾いた笑いを笑いながら、ヘンチマンがショウジ戸を開けて中を確かめた。「こりゃ清掃が大変だぜ。楽しんだかね」「つまらぬ非ニンジャの糞虫に過ぎぬが、これもケジメじゃ」エンプレスは凄惨な笑みを浮かべた。「己の身に何が起こるか、最後までわからなんだわ、此奴」 21

2014-05-13 00:42:58
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「奴も情けねえ、ダラけたザマだったな」「ニチョームの何某かや」エンプレスは思い出し笑いに肩を揺すった。「ヤクザ・ドーを騎士道か何かのように違えた弱体者ばかりよの」「不甲斐ない限りだぜ」とヘンチマン。「すっかりヌルまっちまってやがってな……奴もあのまま震えて退くのが身のためだ」22

2014-05-13 00:48:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「もう一匹、ニンジャのヨージンボがおったろ」「ああ、ガキがな」ヘンチマンは頷いた。「骨があるなら、あっちから来るだろうぜ。復讐にな」「ほほ!」「そうしたら俺達で可愛がってやる。だが、どうせメソメソ泣いて寝るのがオチだ、あれはな。ジュクレンシャ=サンが手合わせしたが……」23

2014-05-13 00:54:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

二者は言葉を切り、顔を見合わせた。それぞれのニンジャ第六感が、言語化されざるなにかを感知したのだ。「その血みどろじゃあ、アホ共のもとへは戻れまい」「そうよの」「オヤブンは身を清めたがいい。俺は楽しみを探すとする」ヘンチマンはサイバネアームを握り、開きながら、離れを去った。 24

2014-05-13 01:06:51