一日目、夜の記録 - 選定のオルディナンス

2014/05/15から2014/05/17までの、〈勇者〉と〈神具〉の語らいの様子です。
1
不老 蓮 @Lotus_frow

扉の先は真っ暗だった。最初に男が訪れた闇の廊下と似たようなものだが、しかし床の材質はやや古びていた。 あの場に合った神聖さめいたものは感じられないが、しかしピリリと張り付くような、外気の風が男の肌を撫でる。

2014-05-15 00:28:24
不老 蓮 @Lotus_frow

やれどうしたものか、数分変わらぬ景色を歩き続けた所で光が見えた。陽光のそれではない、もっと淡くか細い光。 「…夜、か」 それが月明かりだと分かるようになったのは大分歩き進んでからだった。砂埃が通路に向かって飛んでくると、男は目を細め、光の先へと出た

2014-05-15 00:42:16
キュセル @ozQuseL

「情報開示。キュセルは、キュセル自身が持つデータを元に此処を『闘技場』であると認識します」 背中側から、声がする。眼前に広がった風景は、天蓋に月だけが穿たれたように輝く夜空である。その下。荒廃した風景。崩れかけた塀に、吹き曝され風化しかけた舞台。砂埃を巻き込んで吹く風。影が一つ。

2014-05-15 08:05:35
キュセル @ozQuseL

「風化の進行状況から演算し、キュセルの持つデータとの時間的差異は、この次元時間にして、およそ60年。そして60年程度の時間経過であれば――」 がちゃん、と。背中で歯車が鳴る音がした。 「――まだ、『居る』筈です」 月明かりの下。荒れ果てた舞台の上。そこに、蠢く何かの影があった。

2014-05-15 08:13:50
不老 蓮 @Lotus_frow

宵の中より出でた先は広い場だった。崩れかけた高い塀がサークル状にして囲んでいる。男は戦士が入場する通路を歩いていたらしい。 「外にでれば、どこも同じなのか」 この次元、とあれば他も似たような、不思議な体験をしているのだろうか。 ――剣呑。 舞台の方に、僅かに見上げた。

2014-05-15 09:28:20
不老 蓮 @Lotus_frow

自然とキュセルの柄を握り締め、警戒を示して影に接近。短い階段をかけあがり、其処に『居る』なにかに向けて曲刀たる彼女を抜いて横に薙いだ。

2014-05-15 09:35:07
キュセル @ozQuseL

「情報開示。キュセルは広間の『外』が別の『次元(せかい)』と繋がっている事例を多く観測しています。よって、キュセルはエオンの質問に『必ずしもそうとは言えない』と回答します」 言うや否や、振り抜いた漆黒。ガギィン、と鋭い音が響く。鉄塊を受けたその『影』は黒色から白色へと色を変えた。

2014-05-15 14:21:28
キュセル @ozQuseL

『それ』が飛び退く。距離を取った『影』は、不定形の輪郭を歪ませながら白から赤へとその体にグラデーションを滲ませる。 「――『換装(アント)[ant]』、『炎(ホムラ)[homla]』。戦闘形態に移ります」 歯車を鳴らし、機械剣が駆動する。漆黒のフランベルジェ。反動は極めて少ない。

2014-05-15 14:27:41
不老 蓮 @Lotus_frow

「それが分かれば十分だ」 振るうに十分な重さと強度を持つ黒い剣の状態は、確認せずとも容易く壊れる物でもないとし、既に視線を向けていなかった。男は黒から白へと変化する『影』に注視する。

2014-05-15 15:53:16
不老 蓮 @Lotus_frow

「あれを、お前は知っているか」 老いた賢人よりも長く世界を見続けた彼女に問う。生態、行動パターン、正体。検索できるものがないか問いながらも、フランベルジュへと姿を変える際に腕を引く。 肉をえぐるのに適した剣は『影』に意味あるものか。追撃を仕掛けるべく、無拍子で突きを仕掛ける。

2014-05-15 15:59:23
キュセル @ozQuseL

「回答。キュセルは対象を『幻影種』であると定義します」 眼前の敵から目を離さないまま、構えを作り問い掛けた声に、風を切りながら剣が応える。 「不定形の肉体を持ち、閉鎖された空間内を徘徊。知性は極めて低く、凡そあらゆる生物を本能的に捕食する性質」 言葉の間。切っ先が鋭い音を鳴らす。

2014-05-15 16:09:15
キュセル @ozQuseL

音が響き渡ってから、足元から砂埃が舞い上がった。 「本来は戦闘力は比較的低い魔物ですが、60年という歳月がその肉体に物理攻撃に対する耐性を与えたと推測されます」 『影』が牙を向く。顎(アギト)ではない。不定形の白色は、その身体全てを『牙』に変質させ、エオンの右肩に向けて襲い来る!

2014-05-15 16:13:45
不老 蓮 @Lotus_frow

数多の魔を見てきたが、幽霊以外で不定形の種と応対するのは初めてである。見知らぬ生命の行動を、話しながらもしかと観察していたから行動は容易だった。 呼吸と風を斬って鳴く音が交差する最中。 「面倒なのに絡まれたな」

2014-05-15 16:48:07
不老 蓮 @Lotus_frow

剥かれる牙は、顎を必要としない程に凶悪な印象だった。襲い来るそれにひるむ様子も無くキュセルを逆手に持つと、己の肩が喰われないように半歩体を逸らす。 逆手に持った彼女を影に振り、鋸を引くようにして地を蹴って下がる。 距離を取ると、腰に隠したホルスターから焔色の結晶を取り出した。

2014-05-15 16:59:35
不老 蓮 @Lotus_frow

「お前は火種を喰うのは好きか……」 男が持つのは火を宿す結晶。強い衝撃を与えれば中に宿る炎が飛散し、結晶が砕かれる。魔法石ともいう人工の鉱物。

2014-05-15 17:06:30
キュセル @ozQuseL

『牙』が、空を切る。持ち替えた、フランベルジェ。漆黒が閃く。半身を捻るように繰り出された流線状の切っ先は、確実に牙を捕らえた。 「提案。対象の物理攻撃耐性は極めて高く、キュセルは、通常の攻撃手段による破壊効率は低いと判断します」 機械的な声。それが、ステップと共に、引き抜かれる。

2014-05-15 17:13:48
キュセル @ozQuseL

火花が、散る。『影』が口蓋と化した全身をうねらせ、咆哮を上げる。 「対象には魔法属性の攻撃、及び内部からの破壊が有効と判断。キュセルはエオンに、『換装』を提案します」 歩数にして、七歩。 「立案。換装後、『魔導砲』にて対象の中心部を穿孔。エオンの所持する魔法石を対象内部にて爆散」

2014-05-15 17:20:09
キュセル @ozQuseL

「この作戦行動には、127秒の詠唱時間と3.9マナカラットのキュセル自身に内蔵された魔法石の消費、及びエオンの所持する魔法石一つ分のコストを必要とします」 眼前、唸りを上げた『影』が、収縮する。跳躍への、予備動作。 「――――エオン、詠唱の許可を」 爆発的な跳躍と共に、迫り来る!

2014-05-15 17:23:48
不老 蓮 @Lotus_frow

「やはりかなり非効率のようだ」 提案に首肯し、無感動的な眼で影を睨む。 焔色の結晶は夜を明るく灯す輝きとほのかな温かみを与える。手に収めて拳を作った。 「許可する。あの魔を灼き嬲れ」 キュセルの柄の根本に向けて魔法石を放る。 「リードはしてやろう」 エスコートというには些か荒い。

2014-05-15 17:42:21
不老 蓮 @Lotus_frow

「作戦に了承しよう」 迫り来る『影』の跳躍、その牙に対して男はすんでの所で躱す。詠唱中に、爆発する石を取り込んでいる剣など振るうわけにもいかないと判断した為に今回は咄嗟に斬りつけることはしなかった。 これが大観衆の中なら拍手喝采だっただろうが、砂埃が舞うだけで『静か』なもの。

2014-05-15 17:47:19
キュセル @ozQuseL

駆動音。鍔元のシャッターが開く。放られた魔法石が、弧を描き、其処に、収まる。 「――RaR,Oz nisieo 『厳命(キュエーネ[queene]』」 ガチャン、と。蓋を閉じる音と共に、機械剣は『了解』を意味する言葉を発した。刹那、襲い来る『影』。回避。風圧が、茶色の髪を揺らす。

2014-05-15 17:52:17
キュセル @ozQuseL

「――【那由多】」 機械剣が、声を上げる。それは『詠唱』。舞うように身を翻す男の手の中で、機械的な音声が言葉を紡ぐ。 「【幻想の城より来る慟哭】【汝、絢爛を驅りて冤罪を狩る者】【代償は魔力】【現象は磔刑】【臨む対象の行く末は必定】」 遠く、『影』が瓦礫を吹き飛ばした。舞う、砂埃。

2014-05-15 17:55:02
キュセル @ozQuseL

再び、迫る、『影』。 「――――【適応する(アデプト)】、【来たれ】、【反復する(リアクト)】、【戴凛の陽炎】、【斬撃を(クラスト)】【詠唱に変えて(スラスト)】、【収斂せよ(スペクト)】、【汝は杭】、【汝は針】、【一陣の錐】」 それでも、『剣』は詠唱を続ける。歯車が、稼働する。

2014-05-15 17:59:17
不老 蓮 @Lotus_frow

振り乱れた茶の髪は少しばかり視界を濁す。体勢を低くして近接攻撃に備えていた。 男は詠唱など殆ど理解は出来ない。内容は兎角、原理なぞ分からないのだ。ただ己は剣の代わりに立ち回る『剣』となり、詠唱者を導く担い手。 勇者と言い難い魔の殺し屋。その目標ただ一個のみ。

2014-05-15 18:09:47
不老 蓮 @Lotus_frow

男に迫る影の挙動は非常に不規則だが、力があっても低能なら往なすのは容易。こちらに向かい来る影に果敢にも駆けて行くが、その正面から狙うなど男はしない。 一度強く地面を蹴ると、胸を中心として半回転で飛ぶ。十分な滞空時間を稼ぐ跳躍法。開かれる牙の面の『上』に足を付け、その背後へと飛ぶ。

2014-05-15 18:17:04
1 ・・ 19 次へ