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一日目、夜の記録 - 選定のオルディナンス

2014/05/15から2014/05/17までの、〈勇者〉と〈神具〉の語らいの様子です。
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スウェンテイル及びThe C @sousaku_asobi

「声は指標。言葉は道標。虚ろう玉響はあるじの言の葉を以って、泡沫のかたちをここに顕す。仮初めの器を用いて、虚構なる戯れを今、ひとつの真理に――」人形は告げる。厳かに、愛しげに。謳うような響きで。

2014-05-17 22:35:09
スウェンテイル及びThe C @sousaku_asobi

柱時計の前面が、左右に広がるようにして開いた。開け放たれるように。太陽を思わせる眩い内部から飛び出してくるのは、蝶だ。紅、蒼、翠、黄金、白銀。様々な色に輝き、光を帯びた蝶。それが柱時計から無数に。数え切れないほどの量で。虹を思わせる幻想的な光を放ちながら、蝶の群れが乱舞する。

2014-05-17 22:35:17
スウェンテイル及びThe C @sousaku_asobi

渦を巻くように大きくうねり、緩やかな螺旋を描きながら絡み合う。柱時計の周囲を旋回し、優雅に舞いながら少女人形のもとへと殺到していく。人形が伸ばす右手に集い、止まって、そして染み込むように消えていく。煌びやかな蝶の一翅と同化を果たすたび、人形の右手は繭のような膨らみに包まれていく。

2014-05-17 22:35:25
スウェンテイル及びThe C @sousaku_asobi

やがてすべての蝶との同化を終えた右手には、花の蕾のような形状をした繭が形成されていた。ゆっくりと掲げられた右手、そこに在る閉じた蕾からは、七色の雷撃が漏れている。それはまるで掌に七色の炎を握りしめ、それでも抑えきれない炎の奔流が、指の隙間からほとばしるような雄々しい輝きであって。

2014-05-17 22:35:53
スウェンテイル及びThe C @sousaku_asobi

蝶のすべてを内包した右腕は、そこに在るだけで不可視の力場を生じさせていた。少女人形の、腰まである髪が。膝下の長いスカートの裾が。風をはらむように勇ましく翻って。「クリック――」右手の蕾が、花開く。

2014-05-17 22:35:59
スウェンテイル及びThe C @sousaku_asobi

花弁の中央に、光が生じる。それは輝きを増して、眩いまでの閃光を溢れさせて。まるでもうひとつの太陽が生まれたかのような光。ふたりだけの広間を、光だけが満たしていく。「クラック――」柱時計が、鐘の音を響かせる。ふたりを祝福するように、静謐に、厳かに。

2014-05-17 22:36:22
スウェンテイル及びThe C @sousaku_asobi

「――クロック」光が、すべてを、呑み込んでゆく。

2014-05-17 22:36:28
スウェンテイル及びThe C @sousaku_asobi

真っ白な輝きに、人間の女もまた包まれるだろう。視界を目一杯に染める光は、確かに眩いけれど、目を背けたくなるような痛みは伴わない。柱時計の鐘の音が、どこか遠くで他人事のように鳴っているはずだ。光の中で、人間はただ虚ろに漂っているはず。

2014-05-17 22:36:38
スウェンテイル及びThe C @sousaku_asobi

そんな中で、少女人形の声だけが届く。反響するような奥行きをもって。「さぁ、道は開かれました。この扉の繋がる先は<二日目の昼>です」人間の前に、開いた扉が出現するはずだ。先ほどまでは無かったもの。唐突に、空間に、音も無く顕現して。

2014-05-17 22:36:55
スウェンテイル及びThe C @sousaku_asobi

「ここには明日があります。C以外の5つの可能性。あなたさま以外の5人の勇者さま。それらが集う明日です。Cの改竄によって、逃れられない一日目の永久牢獄に囚われることなく、あなたさまは明日を手にしました」少女人形の幼い声が、淡々と白の空間にこだまする。

2014-05-17 22:49:29
スウェンテイル及びThe C @sousaku_asobi

「いかがでしたか。光の蝶、光の蕾、光の奔流。あれこそがCの持つちから。過去を書き換え、違った今をもたらし、望むべき未来を代入するために、世界を<改竄>するちからの、ほんの一部分です」

2014-05-17 22:49:40
スウェンテイル及びThe C @sousaku_asobi

「そ、それで、そのぉ……」しばしの沈黙の後、人形の遠慮がちな声が発せられる。もじもじと恥ずかしがるような声音。「あ、あれで……よかった、ですか。かっこよかった……ですか?」そろりそろりと窺うように訊ねて。

2014-05-17 22:49:55
スウェンテイル及びThe C @sousaku_asobi

「力の代償に、Cが求めるものは――」そこまでを口にして、言いよどむ。驚きにはっと息を飲むような空気、感じるはずだ。そこに人間の言葉が差し込まれたからかもしれない。名前をあげようか、という提案が。

2014-05-17 22:50:06
スウェンテイル及びThe C @sousaku_asobi

「……」ただただ、沈黙が降り積もる。ひょっとするとこのまま、気づかぬうちに<二日目>が訪れるかもしれない。ひとりの人間とひとつの神具が、<二日目>に合流しているのかもしれない。

2014-05-17 22:52:28
スウェンテイル及びThe C @sousaku_asobi

……ただ。もしかすると、少女人形の言葉がぽつりと紡がれるかもしれない。明日の扉を前にして、白の空間に漂う人間に。消え入りそうな声で。慈しむような声で。「どうせ、消えちゃうんですよ。ばか」涙交じりを彷彿とさせる、震える声が。ひとつ。聞こえたかも、しれない。

2014-05-17 22:55:38
アルファベット @alpha_ordinance

 クリック、クラック、クロック。  女が「なにかの呪文」と理解したその言葉とともに、目の前の扉がゆっくりと開く。  まばゆい白の向こうには、何もないように見える。理由は明白、女は「開け」とだけ望み、その向こうを望まなかったからだ。  静かに並んだ、3つの扉の他には、何もない。

2014-05-17 23:06:43
アルファベット @alpha_ordinance

「…………。くりっく、くらっく、くろっく」  女がその言葉を復唱したことに、合図以上の意味はなかったかもしれない。あるいは目の前の光景全て、いまだ未確定の「明日」は、彼女の心象風景にすぎなかったかもしれない。  だがその言葉を合図に、3つの扉は一斉に開いた。  

2014-05-17 23:09:54
アルファベット @alpha_ordinance

 1つの部屋には金銀財宝があった。しかし女は見向きもしない。ただ置かれているだけのそれに、悪の気配を感じない。  1つの部屋には誰かの骨が転がっていた。女はそれを気にも留めない。  ただ、その向こうに現れた、9つの扉をまっすぐに見据えている。 「くりっく、くらっく、くろっく?」

2014-05-17 23:12:52
アルファベット @alpha_ordinance

 扉が一斉に開いた。いくつかの財宝と、いくつかの死体が転がっている。 「くりっく、くらっく、くろっく……」  27の扉が開いて81の扉が現れ、金属と骨が積み重なって広がったが、女はただただ無為に扉を開けていく。 「くりっく、くらっく、くろっく。よし覚えてきたぞ」

2014-05-17 23:17:54
アルファベット @alpha_ordinance

 女は散らかって広がった「明日」への道を見渡していた。彼女の持つ肉眼ではとても見渡せないほどの範囲を。 「クリック、クラック、クロック」  明瞭な発音で、243の扉を開く。  累計364の、富と死のメタファーが積み上げられた部屋の中心で。  729の扉、選択肢を並べられて。

2014-05-17 23:25:22
アルファベット @alpha_ordinance

 女は揺るがず、あるいは何も考えていないような顔で、そこで初めて目の前の光景に首を傾げた。 「あれ、どうするの、これ……?」  扉を開ける、という行為だけの願いが作りだした曼荼羅絵図を女はきょろきょろと見渡した。

2014-05-17 23:30:43
アルファベット @alpha_ordinance

 それはとても壮大で『魔王』的な「未来」の光景であったが、少なくとも「明日」ではない、と女は直感する。  だから彼女はどの扉にもどの部屋にも歩を進めない。  そもそも「明日」とは、彼女の認識では、歩いたり選んだりするものではない。 「……明日って、寝てたら来るものじゃなかった?」

2014-05-17 23:34:42
アルファベット @alpha_ordinance

 そこで彼女は思い出す。なぜ扉を開けようと思っていたのか。  あの少女の衝動とカッコよさにあてられてつい忘れていた当初の目的。  いまだ彼女を『魔王』ではなく凡庸な悪人たらしめている、とも言える、ありきたりな目的を。 「そうだ。ベッドとか布団とか、探そうと思ったんだっけ――」

2014-05-17 23:43:12
アルファベット @alpha_ordinance

 そして女は、「二日目の昼」につながる世界に降り立った。  両手には、扉の向こうの世界での戦利品を抱えている。それは垣間見た『魔王』の未来の金銀財宝でも死体の山でもなく、 「……あれ、これ、羽毛じゃなくて綿のやつかあ」  寝具であった。  神具ではない。しかも6セット。

2014-05-17 23:46:15
アルファベット @alpha_ordinance

 両腕に抱えたそれをばさばさと落とす。羽毛の高級品ではないが、あのまばゆい白い光を切り取ったような、気持ちのいい純白の布団セットだった。 「ま、なかなかいいかな。昼間でもごろごろできるし」  女は上機嫌に振り返る。「明日」への道を見せてくれた柱時計に。そして、

2014-05-17 23:50:59
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