Doolittle Day Destroyer #4

前弩級時代のお話
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劉度 @arther456

◇◇◇◇◇◇◇ ←九十一式徹甲弾

2014-05-23 20:31:53
劉度 @arther456

(これからSSを投下します。TLに長文が投下されますので、気になる方はリムーブ・ミュートなどお気軽にどうぞ。感想・実況などは #ryudo_ss を使用していただけると大変ありがたいです。では、宜しければ暫くの間、お付き合い下さいませ)

2014-05-23 20:32:38
劉度 @arther456

【Doolittle Day Destroyer】#4

2014-05-23 20:33:47
劉度 @arther456

富士、敷島、朝日、三笠。最も重厚な装甲を持ち、最も強力な砲を持った戦艦級の艦娘のチーム、それが私たち羽田特務艦隊だ。「第3波来るよ!」空を見据えて富士が叫ぶ。私たちの中で一番年長の富士は、その豊富な戦闘経験を活かして戦闘時の司令塔をやってくれる。 1

2014-05-23 20:34:56
劉度 @arther456

「仰角調整……よしっ、撃てぇっ!」敷島の主砲が空に向かって放たれる。艤装の性能は私とそこまで変わらないけど、彼女自身の戦闘センスは高い。どんな状況に陥っても、敵に最も効果的なダメージを与えてくれる。これを勘でやってるっていうんだから、凄いもんだ。 2

2014-05-23 20:38:11
劉度 @arther456

朝日が背中のバックパックから2丁の大型マシンガンを取り出し、上空に向けて乱射する。4人の中で一番小さい子だけど、代わりにこの子は特殊兵装をいっぱい持っている。艤装の応急処置用具や、偵察用の式神に使う紙の人型なんかも使える。この子がいなければ成り立たない作戦だらけだ。 3

2014-05-23 20:41:25
劉度 @arther456

「そぉーら、こっちよ!当てられるものなら当ててみなさい!」そして私は4人の中で最新・最大出力の艤装を帯びている。降ろした艦霊は、世界に名を轟かせた戦艦・三笠。最も速く、丈夫で、砲撃も強力かつ正確無比。普通の深海棲艦の攻撃なら、ひとつやふたつ、何の問題もなく弾き返せる。 4

2014-05-23 20:44:47
劉度 @arther456

羽田の4隻、無敵の艦娘特務艦隊。だけど、そんな私たちでも、嵐のような空爆には為す術がなかった。 5

2014-05-23 20:48:02
劉度 @arther456

ズドォン、と背中に深い衝撃が叩きつけられた。真後ろに爆弾が落ちたらしい。一瞬遅れて、空から海水の飛沫が落ちてくる。「ぐあっ……畜生め!」横に目を向ければ、敷島が頭から血を流していた。破片が刺さったか。富士も、朝日もボロボロだ。私だって、もう左腕が動かない。 6

2014-05-23 20:48:46
劉度 @arther456

敵の航空母艦『シャングリラ』までは、最初の爆撃からまだ半分までしか距離が縮まっていない。一発の砲も撃たずにこの被害だ。そして、いよいよ敵の護衛艦隊が射程内に入る。この状態で砲撃戦を行って、無事でいられるだろうか。私の頭の冷静なところは、首を横に振っていた。 7

2014-05-23 20:52:06
劉度 @arther456

だけどそれでも。「やらなくちゃいけなのよっ!」悲鳴に近い絶叫と一緒に、私は右手の引き金を引いた。ドォン!30.5cm連装砲が発射され、先陣を切ってきた駆逐艦の一隻が弾け飛ぶ。だけどそれを気にする余裕はない。次の空爆が来る前に、一隻でも多くの敵を倒さないと。 8

2014-05-23 20:55:23
劉度 @arther456

半身を灰色の殻で覆われた人型の深海棲艦が、私に向かって撃ってきた。体に激しい衝撃が襲いかかる。撃ち返す。更に一隻を破壊する。涙がでるほど痛い。砲撃を受けて、装甲が鈍い音を立てて吹き飛ぶ。「あああああっ!」撃ち合いの中で、気が付くと私は絶叫していた。 9

2014-05-23 20:57:47
劉度 @arther456

涙で視界が霞む。恐怖と興奮で耳が痺れて、何も聞こえなくなる。それでも訓練っていうのは皮肉なもので、私の撃った砲弾は面白いように敵を破壊していく。ぼやけた無音のスクリーンの向こうで、他人事のようにオレンジ色の爆炎が上がる。だけどそれじゃあ、意味が無い。 10

2014-05-23 21:01:11
劉度 @arther456

「第4波、来る!」「気をつけろ、三笠!」声が戻ってきた。見上げると、艦載機がまたやってきた。爆弾が、航空魚雷が切り離され、私に向かって落ちてくる。ほとんど転げまわるようにそれを避ける。あんまりにも無様な格好。だけどそれを無様と思う意識が残ってない。 11

2014-05-23 21:04:28
劉度 @arther456

「きゃあっ!?」一際甲高い悲鳴で、私の意識が現実に引き戻された。振り返ると、敷島が富士を抱きかかえていた。「富士ィ!しっかりしろ、オイ!」「痛い……痛いよぉ……」富士の腰が、半分千切れて無くなっていた。滝のように流れる血が、海面を赤く染める。 12

2014-05-23 21:06:20
劉度 @arther456

「クソッ……これ以上は無理じゃ、三笠、朝日、ワシは帰るぞ!」敷島が吐き捨てた。シャングリラまでもう少し、だけどそのもう少しがあまりに遠い。刺し違えられる自身もない。なのに私は。「……私は行くよ」「はぁ!?」どうして、先に進もうとしてるんだろう。 13

2014-05-23 21:09:53
劉度 @arther456

「三笠が行くなら、私も」パーカーがボロボロになった朝日が、私の横に並んだ。「やめなさい。死ぬわよ」「大丈夫。今なら、何でも出来そうな気がするの」フードの下で、この子はちょっとだけ笑ってた。笑えるうちは何も怖くない、そう言ったのは私だっけ、この子だっけ。 14

2014-05-23 21:13:11
劉度 @arther456

「オイ、馬鹿!逝くんじゃない!戻れ、戻れェ!」敷島の絶叫を後に、私たちはもう一度前に進み始めた。富士は、彼女がきっと連れ帰ってくれる。弾を装填しなおして、私はやや前傾姿勢を取る。少しでも速く進むため。そして、5度目の空襲に備えるために。 15

2014-05-23 21:16:35
劉度 @arther456

シャングリラから艦載機が飛び立った。「……え?」だけど、その艦載機は私たちの方に向かってこない。式神が向かう先にあるのは、火を噴く鋼の巨艦。『荒覇吐』。半ば水没した艦首のドリルが猛回転し、進路上にいた深海棲艦たちを衝撃波だけで粉砕していく。 16

2014-05-23 21:19:53
劉度 @arther456

ゴォォン!ズドン、ズドン!『荒覇吐』の攻撃はめちゃくちゃだった。まるで、怪物に組み伏せられて腕を振り回すみたいに。だけど振り回されるのは細い腕じゃなくて、51cm連装砲9門と、多数のレーザー副砲、そしてドリルという危険な物体。『シャングリラ』が注意を向けるには十分過ぎた。 17

2014-05-23 21:23:14
劉度 @arther456

あの船の中枢に、艦長がいることはなんとなくわかった。好きじゃなかったけど、こんな最期を見せられて心が動かないわけがない。一瞬だけ私は『荒覇吐』に敬礼し、そして前を向いた。「――往くよ、朝日」「うん!」もう回避は考えない。一直線にシャングリラを目指す。 18

2014-05-23 21:26:45
劉度 @arther456

『荒覇吐』のエンジンが大爆発を起こすのと、『シャングリラ』が私たちの接近に気付いたのはほぼ同時だった。艦載機が来る。数は20。さっきに比べればずっと少ない。朝日が偵察用の飛行式神を放った。一直線に飛んだ式神が艦載機と交錯、空中で一つの花火になる。 19

2014-05-23 21:30:53
劉度 @arther456

朝日はいろんな道具を持ってるけど、どの道具も大切に使う子だ。その子がこんな式神の使い方をするなんて。びっくりして朝日の顔を見ると、歯を見せて私に笑いかけた。褒めてほしいと言わんばかりに。次の瞬間、その笑顔がオレンジ色の爆炎の中に消えた。 20

2014-05-23 21:34:20
劉度 @arther456

「あさ――」声は爆音に押し潰された。爆弾の破片が体に突き刺さり、炎が少ない生身を焼き焦がし、そして衝撃が私の体を天高く弾き飛ばした。さっきまで忌々しいぐらい高いところを飛んでいた艦載機が、今はやけに近くに見える。手を伸ばす。届かない。体が落ちる。 21

2014-05-23 21:37:59
劉度 @arther456

……目の前に上がった水柱を、『シャングリラ』の青い瞳は何の感情もなく見つめていた。爆風で吹き上がった海水が重力に引かれて、一瞬の霧を作る。後方で『荒覇吐』が最後の火柱を上げたが、『シャングリラ』はもう見向きもしなかった。空襲を終えた艦載機に、帰投指示を出す。 22

2014-05-23 21:41:27