《IF邂逅》二つの船

くぐさん(@hakuzia)と結奈(@a_yuina)の創作っ子がエンカウントしました
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緑の瞳の少女――『贖罪』

青い瞳の男――ビクトール・エルベリア・ハルディ

広大な海を征く二つの船。
航路は交わり邂逅す。

紺青ものえ @almiyy

「今日も、良い波です」 快晴の空と同じ青を白い波の筋を立てながら進む船に、声がひとつ。 船首に少女が一人、立っていた。声の主だ。緩やかで大きな揺れをものともせず、姿勢良く立つ少女、その緑眼は優しい色を湛え、水平線を見つめてる。 その手は胸元でぎゅっと握られて、

2014-05-14 20:35:12
紺青ものえ @almiyy

「海神様の加護が今日も変わらずありますよう――」 海に祈る。 柔らかく緑髪を海風に遊ばせ、波の音に耳を澄ませていた。

2014-05-14 20:35:17
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

背後から、風が吹いて来る。マストに大きく張られた帆がそれを受け止めて、船は真っ直ぐ進んでいた。波は総じて低く、海は穏やか。さしたる派手な揺れもなく、航海は実に平和で順調だった。 故に、船首楼甲板の手摺に寄り掛かった男が大きく欠伸をしたのは仕方の無いことだろう。平和は、時に退屈だ。

2014-05-14 23:28:16
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

平和を愛する者は居ても、退屈を愛する者はそう居ない。この男も例に漏れず、消化しきれない退屈を持て余していた。 空は晴天。降り注ぐ太陽の光に短い黒髪がキラキラと金色に輝く。快晴の空は、海との境界もあやふやで。その水平線をのんびりとなぞるラピスラズリの双眸が、ふとある一点で止まった。

2014-05-14 23:29:31
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

「あれは……船か?」 海と空の境界の一点。男が首を傾げるとほぼ同時に、見張り台から声が上がる。曰く、何処の国のものとも知れぬ船が在る、海賊かは分からない、と。男はふうん、と声を漏らして目を細めた。その唇は弧を描き、次の瞬間には声を上げていた。 「速度を上げろ!あの船に近付け!」

2014-05-14 23:30:53
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

その声と共に船内が忙しなくなる。男は姿勢を正し、楽しげに笑った。 「良い退屈凌ぎだ!海賊でも商船でも構わねえさ!殺し合いも商談も嫌いじゃぁねえしな!」 まあ商談は得意じゃねえけどな! そう続く言葉を聞いた船員たちから笑い声が上げる。そうして男が乗った船は、遠くの一点へと近づいて。

2014-05-14 23:33:34
紺青ものえ @almiyy

長い祈りの中、優しい波の音に混ざって、音がする。 船が海水を裂いて進む音。聞きなれない、船の軋みと人の声。緑眼は静かに視線を船員へ向け、ひとつ頷いて指示。船員の連絡を待ち、船首を降りる。 ……海賊でしょうか。 祈りの最中とは、とても良くないことだ。 「海神様…皆をお護りください」

2014-05-14 23:53:18
紺青ものえ @almiyy

短く祈り、緊急場合の指示を行う。少女にしてはしっかりとした口調で、言葉を交わし、 「一隻……船は止めず進めてください」 何かあれば避難を、と言葉をかけ、甲板をゆっくりと進み、速度を上げ近づいてきた見慣れない船を視界へと収め、眉を下げる。しかしすぐ表情を戻し、警告の鐘を鳴らした。

2014-05-14 23:53:22
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

徐々に近づく二つの船。その船体が、ただの黒点から船の形へ変わって見えるようになった頃、男は懐にしまっていた望遠鏡を覗き込み、なるほど、と頷いた。相手方の船体に描かれた紋章には見覚えがない。少なくとも、男が知る国の国有船では無いだろう。そして、商船でも、海賊でもない。おそらく——

2014-05-15 00:52:37
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

思考を回しながら、船員の一人に剣を持ってくるよう指示を出す。とりあえず、油断はするものではない。 望遠鏡を懐にしまい、正面を見据える。船は更に近付き肉眼でも船体の紋章を確認出来るようになった頃、鐘の音を聞いた。警告だ。 「気にせず速度を落として船を近付けろ!ぶつけねぇ程度にな!」

2014-05-15 00:53:14
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

声を張る。船員の景気よい返事に満足して笑いながら、男は身を乗り出した。船は更に近づく。距離は縮まり、その甲板の上に女性らしき影を認める。男は微かに驚きを覚えながらも、それ以上に心踊らせて笑い。 「よう、お嬢さん!船旅か?」 聞こえるよう声を張り上げた。

2014-05-15 00:53:56
紺青ものえ @almiyy

船の大きさ、予想できる定員を想定し船員を下がらせ、一人立つ。 警告を出したにも関わらず停止しない船、それはこちらの船に接近する。乗り込んでくることも考えられる。疑いを持たざるを得ないことを謝罪するように一度目を閉じ、開く。 かけられた言葉。

2014-05-15 01:17:27
紺青ものえ @almiyy

声の主を視認し、そのすぐ近く、剣を持ち歩く者を見る。しかし表面上の反応はないまま、少女は首を振る。 「いいえ、巡回です」 波の音に掻き消されないように声を大きくし、 「失礼ですが貴方がたは何用でしょう。警戒の意味を込め警告の鐘を鳴らしましたが、余程の理由でしょうか?」

2014-05-15 01:17:31
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

返事。張る声は存外に強く、伊達に船に乗ってるわけじゃ無さそうだと笑みを深めた。ヒュゥ、と口笛を一つ。 「巡回ねぇ」 顎に手を当て、呟きは波に消えるほど小さく。細まる目は獲物を品定めするかのような獰猛な光を持って船体へ向けられ、しかし一瞬でそれを消し去り。

2014-05-15 01:37:47
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

「別に用ってわけじゃぁねぇさ。どうにも暇でな。やることはあるんだが、相手がいねえ。つまらねぇことこの上ねぇと思っていたところにお嬢さんの船が見えてな」 温厚で穏和な色を宿して、男は少女に話しかける。背後に来た船員には、剣を持たせたまま待機させ。 「お嬢さんの船は、何処のだ?」

2014-05-15 01:39:53
紺青ものえ @almiyy

やること、相手。同乗する船員ではなく別の船を探していたように感じ、その疑いに謝罪の意思を持ちながら警戒を深め、そうですか、と前置きし、 「この船は海の守り神ナタス…海神様の船(もの)です。そして私たちは『海神様』を信仰する者です。現在は、『海賊』の監視と討伐を目的に航行中です」

2014-05-15 10:49:07
紺青ものえ @almiyy

簡潔に説明を置き、少女は男をまっすぐと見た。 胸元で指を絡め、祈りにも似た視線と表情で、疑うことへ罪悪の意識を裏に隠して、はっきりとした言葉で伝える。 「失礼ですが、貴方がたは『海賊』ですか?……もし、違うのでしたら、離れることをお勧めします」

2014-05-15 10:49:11
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

「やっぱ宗教か」 鷹揚に頷き、男は難しい顔をして指先でこめかみを軽く叩いた。海の守り神ナタスなど記憶にある限りでは聞いたことがない。『俺の代わりに海賊を狩って来い』などと一般市民に理不尽な要求を出した友人からも、海の宗教の話など聞かされていない。新興宗教だろうか。

2014-05-15 14:25:26
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

しかし、それにしては船が古い。 そうして一頻り思考を回し、最終的に放棄した。元来宗教など腐る程あるものだ。そのうちの一つを見落としていようが、大した問題ではない。男はニカッと晴天にも勝る晴れやかな笑みを浮かべ、口を開く。

2014-05-15 14:25:59
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

「海賊じゃぁねぇよ。まあお嬢さんらから俺らが海賊に見えるってんなら否定する気はねぇけどな!」 カラカラと楽しげに声を上げ。 「そんなつれねぇこと言うなよ、お嬢さん!少しくらい俺と話でもしようぜ。暇で暇で仕方ねぇんだ!」

2014-05-15 14:26:15
紺青ものえ @almiyy

沈黙する。 ゆっくり言葉を飲み込んで、考える。この船では少女の判断一つで良くも悪くも風向きが変わる。決して間違えてはならない。 「……話、ですか?貴方と?」 ……どうしましょうか。 海賊ではない、こちらが例える事は否定しない。海賊ではないのか、それとも――。

2014-05-15 14:49:17
紺青ものえ @almiyy

こんな時、殉教や恩赦が居たらと考え、首を振ってその思考を打ち消した。頼ってばかりではいけない。今は一人で立たなければ。 少女はまっすぐと男を見つめ、構いません、とそう言った。 「こちらの船及び船員に対し害意があると判断すれば、相応の処置をさせて頂きます。それでもよろしければ」

2014-05-15 14:49:22
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

緑の双眸が男を見つめる。そしてその可愛らしい唇から零される言葉を、男は手放しに喜んだ。 「そうこなくっちゃな!こんなに可愛らしいお嬢さんがいるのに会話の一つも出来ないなんてことになったら悲しくて仕方なかったぜ。なあお前ら!お前らもそう思うだろ?」

2014-05-15 15:10:04
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

船員たちに声をかければ、同意やら野次やら声が飛ぶ。それにまた笑い声を上げ、男は目を細めて少女を見つめる。 「安心しろ。今は害意はねぇよ。ただ、お嬢さん。お嬢さんが言ってることは、俺からも言えることだ。それを、忘れちゃいけねぇぜ?」

2014-05-15 15:10:40
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