#変態不知火さん 『Please,Don't call my "Name"!』

高峯みやび @sukamelancholy

今日はビスマルクも不知火も来ないらしい。たまには一人でゆっくり寝たいし、それもまたありがたい。上着を脱いでそのままベッドに飛び込む。一日の疲れでもう身体は動きたくないと言っている。いいとも、そのまま寝るだけだからな。力を抜いて瞼を閉じれば──急に、火災警報の音。 #変態不知火さん

高峯みやび @sukamelancholy

そして同時に俺の携帯が鳴る。画面には鎮守府夜間警備隊隊長の川内の文字。──何が起きたんだ。「火事！　火事だよ！　ちょっと目を離した隙に、工廠が燃え上がってる！」……嗚呼、畜生。全国にある鎮守府の中からルーレットで当たったのがうちって事かよ。 #変態不知火さん

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兎に角、全員で鎮火に当たれ。弾薬庫にまで行ったら俺たちは──「お星様になっちゃうね。そんな事にはさせない！　隊長の名にかけて！」頼むぞ。携帯をポケットに入れて、脱ぎ捨てたばかりの上着を羽織り、すぐさま鎮守府の放送室へ向かう。音量を最大にして、叫ぶ。 #変態不知火さん

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襲撃だ、総員火災鎮火に当たれ。皆仲良く星になりたくなかったら迅速に行動せよ。 それだけを叫んで俺も工廠へ向かって走る。クソ、クソ、クソッ！　深海棲艦からの砲撃とは考えにくい。何せ爆発音はしなかったからな。なら、これは連続鎮守府襲撃事件の犯人からって訳だ。 #変態不知火さん

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工廠へ向かえば、想像以上に火は大きく、消防隊を呼ばなきゃ間に合わない。もしくは大津波でもありゃ消えるだろう。代わりに流されるが。懸命に消火活動に入っている川内たちに加わり、俺も消火ホースを引っ張り出す。まさかこれを使う日が来るとはな。全然嬉しくねえ。 #変態不知火さん

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俺の記憶が正しければ、ドックに居る艦娘は居ない筈だ。長距離遠征に向かっている艦隊もなし。まるで見ていたかのようなタイミングだ。本気で全員を吹っ飛ばすつもりらしい。「司令！」秘書艦の不知火の声に振り向くと──鎮守府の外が、燃えていた。ご丁寧に退路まで消しやがった。 #変態不知火さん

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そして事態はさらに悪化する。鎮守府の高い堀から夥しい数の火が、こちらに向かって飛んでいるのが見えたのだ。そしてその火は鎮守府の建物にぶつかり、一気に火が広がった。……火炎瓶とは、また手段が古臭い。だが確実に燃え上がる。これじゃあ、間に合わん。 #変態不知火さん

高峯みやび @sukamelancholy

ああクソ、クソッタレ。火の手はどんどん広がっている。火炎瓶如きでこんな広い鎮守府を火の海にしやがるとか、塀の向こうに居る奴らはどんだけ居るんだよ。構わずぽいぽい投げやがって。――そういや、ぽいぽいで思い出したが夕立の姿をまだ見ていない。 #変態不知火さん

高峯みやび @sukamelancholy

この大混乱の中だ。夕立だけを見つけるのは少し時間が足りない。このままじゃあマジで俺たちは星になって地球の行く末を観察せにゃならん。そんなの、御免こうむる。誰一人として失わず、ここから脱出しなければならない。絶対に。 #変態不知火さん

高峯みやび @sukamelancholy

――と、急に工廠の方からドン、という大きな爆発音が聞こえた。思わず身体がビクッとなるが、今のは何だ。弾薬庫が爆発したんじゃあねえだろうな。未だ冷静な顔の不知火は頭を振る。「弾薬庫が本当に爆発したなら不知火たちは皆揃って月面旅行です」だろうな、まだ運は残ってる。 #変態不知火さん

高峯みやび @sukamelancholy

「ですが事態は一刻を争います。司令、ご決断を。鎮火活動を断念、鎮守府を捨て素寒貧になるか。全員揃って月面旅行か」……んなの、もう決まってるだろ。「ではそのように」不知火はそれだけ残して走っていった。こんな状況でも打開策を見つけるとは、よく出来た嫁を貰ったもんだ。 #変態不知火さん

高峯みやび @sukamelancholy

先ほどの放送室へ走る。火は鎮守府内にも伸びており、もうここは破棄しなければならない。やれやれだ。まさか着任して一年経とうとしている時に失うなんて。だがまぁ、まだ生きてる。生きているならどうにでもなる。放送室へ走り、マイクを乱暴に掴む。 #変態不知火さん

高峯みやび @sukamelancholy

現時刻を持って当鎮守府を破棄。傷を負っている者を集め、まだ火がない場所まで行け！ 誰も見捨てるな！ 必ず全員生きて脱出する！ そうして俺は放送室を飛び出す。と同時に天井が崩れ落ちてきた。やべえ、生きて出ろと言った奴が今死にそう。――と、苦笑いしそうになった時。 #変態不知火さん

高峯みやび @sukamelancholy

鎮守府の壁が思いっきりぶっ壊れた。呆気に取られて見ていると、出来たばかりの大穴から声が聞こえた。「提督よ！ 貴様を火葬させるにはまだ早い！ そこから出ろ！」アホかお前ここ三階だぞ。だがもう火の手も伸びているし天井も崩れている。もう選択の余地はない。 #変態不知火さん

高峯みやび @sukamelancholy

思い切り助走をつけて大穴から飛び出す。一時的に重力から自由になったかと思うと、それに引っ張られて落下していく。あっ、高い。高いって。死ぬ。死ぬ。いや、死なんかもしれんけど、折れるって。骨折れ――ぐべっ。着地と同時に転げる俺。痛い。 #変態不知火さん

高峯みやび @sukamelancholy

「はっはっは！ 良い跳躍だ！」腕を組んで、並の艦娘よりも一回りも二回りもデカい艤装を装備したその艦娘は豪快に笑う。史実では山が海を航行している、と言われたらしい兵装は艦娘でも健在だ。デカすぎ。だが、助かった。ありがとよ武蔵。「応っ。ではこの武蔵が脱出路を作ろう」 #変態不知火さん

高峯みやび @sukamelancholy

そうして艤装を装備した武蔵は鎮守府の塀を思い切りぶっ壊す。……が、その先ではやはり火の海。こんなところに飛び込むなど無謀だ。そう思ったのも束の間、火の海の向こうから観光バスが鎮守府内へ突撃。そして急ブレーキによってタイヤが悲鳴を上げる。 #変態不知火さん

高峯みやび @sukamelancholy

自動ドアが開くと、運転手席に居たのは不知火。「お迎えに上がりました」おいおい、どうやってあの高い塀を越えたんだ。「工廠の天井から飛びました」忍者かお前は。だが助かった。生還へのお迎えが来たぞ、全員乗り込め。そう叫ぶと皆、バスへとなだれ込む。 #変態不知火さん

高峯みやび @sukamelancholy

見てない奴は居るか。見てない奴が居たら言え。俺も全員が居るかどうかを確認するが、段々と背筋が寒くなってくる。居ない。居ない。振り返っても消火活動なんてしている奴は居ない。じゃあ何処だ。何処にいる。馬鹿でかい音量の放送で起きない奴なんて居ない。 #変態不知火さん

高峯みやび @sukamelancholy

じゃあ何処だ。何処にいる。隠れてんのか。かくれんぼなら今すぐ終わりにしてくれ。声を上げて手を振ってくれ。おい名前を呼んでるんだぞ。返事しろ。おい、お前を置いて出るなんて出来ねえぞ。 夕立。 #変態不知火さん

高峯みやび @sukamelancholy

「夕立は無事です」浜風が混乱している俺に声をかける。無事なら、何で今いないんだ。「いえ、齟齬が発生しました。無事ではないかもしれませんが、恐らくは生きています。今すぐ発車しましょう」……わかった。兎に角生きているならいい。不知火、発車してくれ。「はい」 #変態不知火さん

高峯みやび @sukamelancholy

いくら大人数が乗れる観光バスだからと言って、百人近くいる艦娘全員を一度に運ぶのは無茶があった。だが、呑気に往復している暇もない。武蔵が脱出路をブチ開けた時から火炎瓶の雨は止まった。恐らくは撤退したのだろう。だが火の手はもう全体に伸びていた。 #変態不知火さん

高峯みやび @sukamelancholy

生還へのバスが月面旅行行きのバスに変わる前に脱出しなければならなかった。故に観光バス内は絶賛オーバーキャパシティ。文字通り〝ぎゅうぎゅう詰め〟だった。それでもバスのディーゼルエンジンはきっちり仕事をして動いてくれた。今なら技術者にキスの一つでもしてやりたい。 #変態不知火さん

高峯みやび @sukamelancholy

火の海を乗り切り、全速力で鎮守府から脱出。全身から汗が噴き出ているしあの灼熱地獄もまだ肌に残っている。だがそれは生きている証で、俺たちをファッキングリル焼きにしてポップコーンみてえに吹っ飛ばすつもりだった奴らを出し抜いてやった。ざまぁない。 #変態不知火さん

高峯みやび @sukamelancholy

――と、背後からとてつもない轟音。そして衝撃でバスは揺れる。「ご安心ください。安定させてみせます」表情を変える事無く運転に集中する不知火の頼もしさと言ったら。……それにしても、今の爆発、弾薬庫に引火したのか。あの場に居たらマジで死んでたな。 #変態不知火さん