一日目昼 - 極彩鮮滅

「06/11/22:30」から「06/15/22:30」までの記録です。
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時葉〈四の深緑〉 @Tokiwa028760

冷たい、硬い、地面の上で目が覚めた。私は、『世界(ケージ)』の外に出て、それから……思い出せない。地についた手に絡む、緑色の長い髪を、不器用な手付きで軽く梳いて、顔を上げる。暗い。灰色の町並み。灰色の空を切り抜く高い建物の隙間、細い路地。しんと静まり返って、何もない。

2014-06-11 23:08:31
時葉〈四の深緑〉 @Tokiwa028760

「かえらないと」 ここに、いては駄目だと思った。 「ただいまって、言わないと」 ここにいたら、二度と『おじいちゃん』には会えないと思った。 小さな機械音声でひとりごとをつぶやいて、私は立ち上がる。ふらついて、壁に手をついた。 「いい子が、待ってるから……」 あてもなく、歩き出す。

2014-06-11 23:08:48
時葉〈四の深緑〉 @Tokiwa028760

『世界(ケージ)』から出た記憶のない私には、天井のない場所は広すぎて、いくら歩いても、どこにもたどり着けないような気がした。 「……色を、塗り潰さないと……」 機械音声のひとりごと。唇は動かない。またよろめいて、壁に手をつく。窓枠の周りを、黒ずんだカビがびっしりと覆っていた。

2014-06-11 23:59:42
時葉〈四の深緑〉 @Tokiwa028760

カビのコロニーに顔を寄せて、唇を動かす。声の出し方を、忘れている。何度かパクパクと息を吐くばかりを繰り返して、ようやく、ぽろぽろと音がこぼれた。 「ヌ、リ、ツ、ブ、サ、ナイ、ト」 ざわり、壁の表面でカビがうごめいた。顔の機械を外して、深緑の瞳にそれを映す。

2014-06-11 23:59:56
時葉〈四の深緑〉 @Tokiwa028760

黒ずんでいたカビは緑色の綿のように膨らんで、壁からぼろぼろと剥がれ落ちた。湧き出すように膨らんでは、塊が壁から地に落ちる。緑色の綿はひとりでに動きまわって、獰猛に敵を食らうだろう。力のない私を脅かす可能性を滅ぼすために、路地を転がり、飛び回る。薄暗い路地裏を、緑色が侵攻していく。

2014-06-12 00:00:23

薄暗い路地裏

御通ヨサリ @torima_nama

 娘は、今日も今日とて空を見上げていた。  いつだって、空を見上げていた。  彼女に、星から自らの位置を割り出す力はない。  雲の流れから未来を占う力もない。 「空を見ていたところで、何もわかりませんね」  それを確認するためだけに、娘は空を見上げるのだ。

2014-06-11 23:29:53
御通ヨサリ @torima_nama

 それは遠い遠い昔、生まれたばかりの頃もそうだったろうし、今このときも大して変わらない。 「どうにも、いけません。順を追って、思い出してみましょうか――」  灰色の広場の、色のない水をたたえた構造物のほとりで、空色の娘はなけなしの記憶を復唱する。

2014-06-11 23:32:25
御通ヨサリ @torima_nama

「わたしは、……おとほし、よさりですね。ただの、料理の大好きな女の子……。で、」  その先を言おうとすると、頭を割るような痛みが走る。 「……わたしは……」  それ以上は出てこない。  溢れる記憶は、「わたし」のことではない。誰かの、大きな背中のことだ。

2014-06-11 23:34:09
御通ヨサリ @torima_nama

 そうだ。どうして忘れられるだろう。 「彼が、待ってますよね」  あの、不器用で優しい背中が。やっとのことで掴んだ腕が。火の粉を受けてばかりの頬が。 「……料理を。彼に、……まだ、教えていないことが、いっぱいあるんでした」  混濁する記憶の中、空色の娘は、一歩、一歩、進んでいく。

2014-06-11 23:38:14
御通ヨサリ @torima_nama

「料理をしないと」  右手には、大ぶりの包丁があり、 「料理をしなくっちゃ」  左手には、小さなフライパンを携えて。 「油を吸った夏草の、火を通したサラダのつくりかた、まだ教えてなかったんです」

2014-06-11 23:40:11
御通ヨサリ @torima_nama

 失せた自己認識の代わりだろうか、その意識の奥底には、その【蒼天】とは異なる6つの色彩のことが刷り込まれていた。  白いもの。赤いもの。黒いもの。紫、緑、なにともつかぬたそがれいろ。それらを塗りつぶし、全てがどうでもよくなるような青に染め上げろ、と。

2014-06-11 23:43:07
御通ヨサリ @torima_nama

「ええ。ええ。大丈夫。だって――美味しく食べてしまえば、なんだって一緒でしょう?」  天に向かって包丁を振りぬけば、「灰色」そのものを垂れこめたような曇り空に、一筋の青が走って広がった。 「【天はこんなに蒼いのに】」

2014-06-11 23:44:58
御通ヨサリ @torima_nama

 そのつぶやきを合図に、娘の周囲がぐだぐだに歪んでいく。  路地裏の構造物は寝返りを打つような気だるさで形を変え、――いびつな方向にその手を伸ばす、六叉路とも呼ぶべき姿へ転じていく。  どの道を選んでも正解だ。  この先の誰かを、お夕食にしなければ、明日はないのだから。

2014-06-11 23:49:49
御通ヨサリ @torima_nama

 娘は深く考えず、誰かへと続く道を選んで走り出す。 「――ええ。ええ。確かに確かに、わたしのお店は24時間営業でした。いつだって料理の時間ですよ」

2014-06-11 23:51:45

薄暗い路地裏

猩々緋 麻也 @red_shojohi

 は、と息を呑んだ。脳裏で、『青い』気配が広がったような―――そんな感覚がした。恐らく、『青』が動き出した。それと同時に、『緑』が侵攻するような、そんな感覚。――相手は既に動き出している。「――後手後手、になるか。」紅い小瓶を一つ取り出し、握りしめた。

2014-06-12 00:03:52
猩々緋 麻也 @red_shojohi

 ―――正攻法で行くのであれば、『青』はマズイ、だろう――――そんな正攻法があるかどうかは、置いておき。適当に板状の瓦礫を探し出し、とんとんと紅い小瓶から液体を垂れ流す。それは、彼自身の『血液』。

2014-06-12 02:12:59
猩々緋 麻也 @red_shojohi

 自分自身の血液を視る。彼の眼に映る『赤色』全ては、彼の支配下にある。小瓶から流れだした自分自身の血液を、瓦礫に、侵食するように纏わせてゆく―――

2014-06-12 02:14:24
猩々緋 麻也 @red_shojohi

 「…こんなものか。」ぐちゃり、と自らの血液で覆われた板状の瓦礫を踏む。…あまり気分の良い物ではない。感触の問題、何よりも……「靴が汚れる…。」それこそ剥がすようにすれば良いのだろうが、やはり微妙な感覚だ。

2014-06-12 02:17:13
猩々緋 麻也 @red_shojohi

 足元に視線を落とす。『抱え込んで』『浮き上がれ』頭の中でイメージする―――

2014-06-12 02:18:39
極彩鮮滅 @VividExter

【彩度カード公開】 @red_shojohi ・流れる水を見た時、あなたは【自分が吸血鬼であり、吸血の衝動と孤独から逃れる為に自らに抑制と忘却の魔法を掛けていた事を思い出す】。

2014-06-12 02:22:04
猩々緋 麻也 @red_shojohi

 ふわり―――と。血液の付着した瓦礫が、彼を持ち上げて浮き上がっていく―――

2014-06-12 02:25:22
猩々緋 麻也 @red_shojohi

 どちらへ行こうか、どの気配の場所へ向かおうか、そう考えた矢先だった。――突然、脳裏で『紅』が弾けた。あまりの衝撃に瓦礫と血液への意識が途切れ、重力に逆らえない彼の身体は地面へ放り出される。

2014-06-12 02:28:22
猩々緋 麻也 @red_shojohi

 肉体。首筋。血液。流水。孤独。吸血。衝動。抑制。忘却。魔法。あふれだす、ことば。

2014-06-12 02:30:17
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