日本の近代建築15作品 ー『日本の建築空間』2005年新建築社 より

西沢大良さんによる「3年生の皆さんへ」シリーズ。 各建物の名前が出てくる見出し部だけ、文字を大きく赤表示などにしたいのですが、どうもうまくデコれません。 誰かやって下さい。
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西沢大良 @tairanishizawa

12『中野本町の家』伊東豊雄 伊東豊雄の初期の代表作。U字型プランの住宅であり、そのインテリアは中庭を囲んで流れるようなスペースとして構想されている。室内は徹底した純白のスペースであり、床も壁も天井も全て白い。唯一の開口が中庭に面しているほかは、開口部というものもない。

2014-06-17 02:25:21
西沢大良 @tairanishizawa

→ここまで閉じた白いスペースはめったにないだろう。 このように、美術館の展示室のようなインテリアを住宅として作った一群の建築家は、当時篠原スクールと呼ばれ、多くの追随者を生んだ。しかしこの住宅はそれだけではなかった。ある家族の特殊な事情に応えるために閉じた白いスペースが必要だった

2014-06-17 02:26:10
西沢大良 @tairanishizawa

→唯一の開口が中庭に面して取られたこと、また中庭が雑草の繁茂するままに放置されたこと、そして漂白された純白のスペースが夢のようにそれを包んでいること。そして、その夢からその家族が目覚めたとき、この住宅が解体されるに至ったこと。

2014-06-17 02:26:28
西沢大良 @tairanishizawa

→その家族の”事情”を知りたい読者は、彼女たちにインタビューした『中野本町の家』(住まいの図書館)を読んでほしい。

2014-06-17 02:26:36
西沢大良 @tairanishizawa

13『横浜大桟橋』アレハンドロ・ザエラ・ポロ FOAによる事実上のデビュー作。横浜港に突きだした細長い埋め立て地の上に、覆い被さるようにつくられたフェリーターミナル。 この建物のインテリアとしての特徴は、ほとんどインテリアを消滅させたことにあるだろう。

2014-06-17 02:27:30
西沢大良 @tairanishizawa

→法規的な定義は別にすれば、3階がうねる地表の緑地公園、2階がほぼ全面デッキで覆われたコンコース、1階は公道のアスファルトを延長させた吹きさらしのパーキングである。そのためそこでのアクティビティは、屋外の振る舞いがそのまま直裁に反復されている。

2014-06-17 02:27:44
西沢大良 @tairanishizawa

→そのことがますますこの施設を建築以外の何かとして、つまりランドスケープのようでもあり巨大な客船のようでもあり、あるいは路上の異様な構築物のようなものとして見せている。公道の上に不法占拠したようなその姿を見よ。加えてその上空で奔放に走り回る市民の姿を見よ。

2014-06-17 02:28:00
西沢大良 @tairanishizawa

→建築とは、かくも野蛮な行為だったのであり、建築にとっての社会性・公共性とは、そのような反社会的な光景すらもたらす限りで、貴重なものではなかったか。

2014-06-17 02:28:10
西沢大良 @tairanishizawa

14『金沢市立現代美術館』SANAA おそらく日本の最後のモダニストである妹島和世と西沢立衛による美術館。そのインテリアは基本的に白いキューブとガラスで作られている。大小様々なキューブに企画展示室・常設展示室・市民ギャラリ・シアター等が入っており、その間に計14本の屋内通りがある

2014-06-17 02:28:32
西沢大良 @tairanishizawa

→この通りを介して、展示室からシアターまでがバラバラにつながるようになっており、複数の展示室をとびとびに利用したり、ジグザグの経路の展覧会を開いたりといった、施設の運営プログラムにたいして積極的に関わる建築となっている。

2014-06-17 02:28:43
西沢大良 @tairanishizawa

→また、この施設内における中庭の存在は、奥行きの深い円形施設のふところに風と光を取り込むためだけでなく、方位感を失いそうなインテリアにとってのランドマーク(シンボル)の役割も果たしている。

2014-06-17 02:28:51
西沢大良 @tairanishizawa

→展示室から展示室へ移動するとき、どの通りからも屋外の景観へ視線が抜け、白いエナメルの天井に戸外の緑が映り込み、緑地公園のなかの美術館であることを感じ取れるインテリアになっている。 

2014-06-17 02:28:59
西沢大良 @tairanishizawa

15『せんだいメディアテーク』伊東豊雄 広場や公園のような人々の動きを、初めてインテリアにおいて実現した建築。 プログラム的には公共施設のスーパーマーケットのようであり、催し物場・市立図書館・市民ギャラリ・集会所といったどちらかといえば微弱な機能を、地上6層に渡って積層している

2014-06-17 02:30:48
西沢大良 @tairanishizawa

→6枚のスラブはおよそ50m角であり、それをチューブと呼ばれる筒状の構造によって支持している。チューブはスチールパイプによるシリンダー、床は鉄板によるフラットスラブだが、そのフロアを歩けばすぐにわかるとおり、通常のスラブとは異質な感触をもっている。

2014-06-17 02:31:03
西沢大良 @tairanishizawa

→従来のS造ともRC造とも全く異なった、軽くて乾いた硬質な感触があり、新しい水平面のような感覚を作りだしている。そこにチューブを介して光や風が降り注ぐことで、通常の室内における明度分布──外周に近いと明るく内部が暗いといった室内特有の感覚──に若干の変化が引き起こされる。さらに、

2014-06-17 02:31:35
西沢大良 @tairanishizawa

→各フロアの階高が異なり、天空の見え方や街との距離感も異なるため、通常の室内以上に視線が遠くに連れ去られる。内装もフロアごとに異なり、家具や備品や調度品もフロアごとに異なっているが、閉じた部屋がほとんどないことにより、部屋という単位なしでいきなり家具と人が接触することになる。

2014-06-17 02:31:58
西沢大良 @tairanishizawa

→家具や備品は基本的にフロアの上に広がっており、室内であることを思わせない気積のなかにある。すなわち従来にない床の感触、通常の室内とは異なる照度分布、屋外との距離感や開放感、視線の到達距離、内装や家具に与えられた位相の変化、室内を思わせない気積、等により、

2014-06-17 02:32:15
西沢大良 @tairanishizawa

→インテリアにおける人間の動きに決定的な変化をもたらした。 伊東豊雄の現時点での最高傑作であり、20世紀建築と21世紀建築をつなぐ数少ない架け橋になるであろう建築。

2014-06-17 02:32:23