#朝登 #ひゃくプロ

自分用まとめ 問題があれば消します 魚提督川内改二おめでとうございます
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魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

少女が目を覚ますとそこは、見知らぬ和室だった 「…あ、あれ? …痛っ!」 キョロキョロと辺りを見渡すうちに意識がはっきりしてきて、身体の節々を襲う疼痛に気付いた 観ると半袖のセーラー服から伸びる細い腕には包帯が巻かれている #朝登

2014-06-17 22:44:26
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

「お、気がついたみてえだな」 急に開いた襖から姿を現したのは、見知らぬ中年男性 やや長めな髪をぞんざいなオールバックにした無精ひげが印象的なその男性は、メガネを重たげにたくしあげると部屋にずかずかと入ってきた #朝登

2014-06-17 22:48:05
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

「熱は…」 「ひっ!?」 おもむろに伸ばされた腕に思わず身が竦む 「おっと、悪い 不躾だったか …その顔色じゃ大丈夫そうだな」 「あ、あなたは…」 「俺か? ああ、そういえば名乗ってなかったな」 #朝登

2014-06-17 22:51:02
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

その男は自らを反車町(そりまち)と名乗った 「海岸通りに行き倒れてたお前さんを拾って看病してたんだよ」 「私、倒れて…?」 「ああ お前さんの名前は? どこから来たんだ?」 「私の、名前… 私は…」 #朝登

2014-06-17 22:53:21
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

「まあ、嫌なら言う必要はないが」 「あの、違うの… 思い出せなくて…」 「…ま、似たようなもんだ」 反車町はため息を吐くと懐からタバコを取り出し火をつけた 「…あ、タバコ…」 「お前さんも吸うかね?」 #朝登

2014-06-17 22:56:51
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

「違うの… 懐かしい、匂い…」 「はあ? 懐かしい? …まあ軍から放出されたモンだしな こんなのは誰だって吸うだろうさ」 「…毎日嗅いでた 懐かしい匂い…」 「…何か他に覚えてることは無いのかね?」 #朝登

2014-06-17 22:58:58
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

「私、帰らなきゃ…」 「どこに?」 「…呉」 「それだけじゃわからん」 「…江田島、赤レンガ、あと…」 「待て待て待て、そりゃあ旧軍の廃墟だろ そんなとこにお前さん住んでたのか?」 #朝登

2014-06-17 23:01:23
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

「でも、私…!!」 「オイオイ、分かったから泣きそうな顔をするな …他には?」 「…」 「…まあ、いいさ どの道その傷じゃ、長旅は無理だ しばらくここに泊まってけ」 「…いいの?」 「こんなご時世だ 悪い、とは言えんだろ」 #朝登

2014-06-17 23:05:53
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

「…ありがとう」 そう言って少女は柔らかく微笑む 反車町にはその笑顔はさながらフランス人形みたく、不思議と酷く儚げに見えた #朝登

2014-06-17 23:09:34
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

それから数週間… 「あ、おかえりなさい一蔵さん!」 家に帰り着くと割烹着をまとった姿がパタパタと出迎えた 「ただいま、お嬢」 しなびたジャケットを放るように渡すと少女は器用に受け取る 「晩ご飯、できてます」 #朝登

2014-06-17 23:12:59
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

今ではすっかり傷も癒えた少女は、毎日家事をこなして反車町を出迎えるようになっていた 「いつも悪いな、お嬢」 「もう、お嬢っていうのはやめてください」 少し困ったように笑う 「しかし、他に呼び方が見つからん」 #朝登

2014-06-17 23:15:33
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

「じゃあ、あだ名をつけてください」 「そうだな…」 反車町はツインテールの頭へポンと手を置く 「…ニッカリ青江、なんてのは?」 「…それは新手の、奥ゆかしいジョークか何かなんですか?」 「今のは笑う所なんだがな」 #朝登

2014-06-17 23:18:56
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

そう言って二人で笑い合う 今の渡世久しく見ることのなかった、親子のような何気のない幸せな情景 「それじゃ飯にするか」 「はい!」 少なくとも今は、それがここにあった #朝登

2014-06-17 23:22:34
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

だが、幸せとは往々にして長くは続かないものである それをまだ、この時の2人は知らなかった #朝登

2014-06-17 23:25:17
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

その日はやけに、朝からサイレンがうるさかった 少女は台所に立ちながら時折料理の手を止め、空を見上げる その矢先、玄関から引き戸をあける音がした 「あ、おかえりなさい一蔵さ…」 「おい、何をしてるんだ!?」 #朝登

2014-06-17 23:28:21
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

「えっ…?」 「念のために帰ってきてみたらこれだ… 空襲だよ空襲!! 早く逃げるぞ!!」 反車町は少女の手を強く握るとまだ靴も履き終わらないうちに駆け出した 「あの、お鍋がまだ…」 「馬鹿やろう!! そんなのは…」 その時である #朝登

2014-06-17 23:31:36
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

ラッパのような甲高いブザー音が辺りに響いた 「伏せろ!!」 そのまま何もわからず道の脇に押し倒される すぐ後方で響く爆発音や、木やガラスの砕け軋む音 「…畜生、人のローンを何だと思ってやがる…!!」 #朝登

2014-06-17 23:34:48
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

上に覆い被さる反車町が身を起こし少女が顔を上げると、頭上をカラスのような黒い機影が遠ざかっていく 「あれは…」 「敵の艦載機だ クソ、このままじゃいよいよ危ないな…」 少女を立たせると反車町はまた駆け出す #朝登

2014-06-17 23:37:02
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

「ケガは無いな? すぐ先の防空壕まで走るぞ!」 「は、はい!」 だが少女の脳裏には、ケガとは何か別の痛みがズキリと胎動を始めていた… #朝登

2014-06-17 23:38:34
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

「嘘だろ…」 大通りに出るや否や、反車町は足を止めた 「一蔵さん?」 「…あれを見ろ」 指差す先は歩道の一部を占有する、古墳のような土の塊 だが入り口らしき物は無い 「…入り口が埋まってやがる…!!」 #朝登

2014-06-17 23:42:12
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

「えっ… でもあの中には、まだ…」 「…生き埋めだろうな」 反車町はそう言うと踵を返し商店街の方へ駆け出そうとする 「助けないの!?」 「今は装備が無い それに、あんな場所にいたら良い的だ」 #朝登

2014-06-17 23:45:38
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

「でも…」 反車町が足を止めた 「お嬢、おかしいとは思わないか?」 「おかしい…?」 「ああ 街がこんなになってるのに憲兵はおろか、消防士もいない 救助隊が来た痕跡も無い」 「それって…」 #朝登

2014-06-17 23:49:32
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

「…もう、この街は終わりってことさ とにかく、今は逃げるぞ!」 「逃げるってどこへ!?」 「駅や避難所は人が密集していていい的だ バスの発着場も同様」 「海は…?」 「論外だ」 なぜか無碍もなく却下される #朝登

2014-06-17 23:54:49
魚・大湊川内提督/警備府隊の隊長 @dzurablk

「とにかく、細道伝いに街を出る 隣町まで逃げ延びれば何とか…」 そう言うと反車町はまた走り出した 走りながらまだ後ろの防空壕を顧みている、少女の手を離さぬよう強く握り締めながら #朝登

2014-06-17 23:58:46
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