【何を奪うのか】福間健二 #2factory68

12回までやってしまった前回の「彼は王様」をまだ引きずっていて、ハムレットから入った。ぼくは英文科出身であるが、専門の現代イギリス詩以外で、身についたというほどではないにせよ、つい頼ってしまうことになるのが、シェイクスピアとディケンズである。とくにシェイクスピアは名文句の宝庫であるから、苦しくなると使いたくなる。「時間の蝶番がはずれている」は、ジル・ドゥルーズが「批評と臨床」で印象的に使っていた。ドゥルーズと佐藤泰志がつながらないだろうかというのが、最近のぼくの大きな主題である。それが出た。ミス・インデペンデンスも、前回の「彼は王様」の妹役の再登場。だれにも通じそうにないことを言うが、収入の多い女性という大の苦手を克服したいという意図があった。最近はお昼前に書いていることが多く、「いま何を食べるか」と考えながら書く。タイトルの「何を奪うか」は、そのヴァリエーションでもあった。 続きを読む
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福間健二 @acasaazul

王様にならなかったハムレット。「時間の蝶番がはずれている」。どんな方向転換にも理由がないのは当然だ。「弱き者」はいなくなった。ただ断片的に、手があり、足があり、けいれんをおこして、きょうの「わかったかい?」なのだ。わかるはずないじゃないか。(何を奪うのか1)#2factory68

2014-06-16 11:25:52
福間健二 @acasaazul

ガラスを割り、その破片を踏んだ。灰色の靴下。その底いちめんに血が滲んでいる。葡萄酒の色だ。笑わなくては。次は、樹のかたちに広がるもの、根を求めるものをこわすのだ。もう笑っているよ。靴下を脱がせ、てきぱきと傷の手当てをしながら、彼女は言った。(何を奪うのか2)#2factory68

2014-06-17 12:08:44
福間健二 @acasaazul

一円も払わないぼくのために。いや、ぼくではなく、裏切られるリア王として終わる愚かな心のために。ミス・インデペンデンス。あちこちの事務所に電話して姉たちの欲ばり主義を破産させた。まだ古いものと新しいものがせめぎあう世界。でも、いまは静かな夜。(何を奪うのか3)#2factory68

2014-06-18 12:24:45
福間健二 @acasaazul

何がおこってもふしぎはない眠りの国。上級も下級も区別されない平民たちの休憩室でぼくは叫んでいた。わかった。見つかった。もう迷わない。起きてノートに書いた。そこまでが夢だった。ノートはない。言葉は思い出せない。いいからコーヒー飲みにおいでよ。(何を奪うのか4)#2factory68

2014-06-22 11:58:41
福間健二 @acasaazul

ふしぎな牧場の、ひばりたち。単純なことを歌っても、組み合わせ次第で、達成される「変化」はさまざまだ。風に揺れ、遠くからの、気のない返事にファイトをかきたてる水玉模様の革命的意識。ミス・インデペンデンス。たまにはだれかに寄りかかった方がいい。(何を奪うのか5)#2factory68

2014-06-23 12:19:28
福間健二 @acasaazul

隠れている子どもに会う。隠れている天使に会う。隠れている狂人に会う。隠れている女性に会う。隠れている外国人に会う。隠れている動物に会う。夜の中の夜も裂けた爪も返してくれとは言わないきみのビッチ顔がたまらない。さあ行こう、ぼくは武器を持った。(何を奪うのか6)#2factory68

2014-06-24 12:35:39
福間健二 @acasaazul

地面に立ち、呼吸をして、ぼくを見つめるきみの孤独。粒子と襞。ボールペンの先端の拭いとれない実証主義から流れる水曜日の不器用な川。ひとつの閃光。休みなく意見を言う人々のあいだをとおりぬけて、死への、トゲへの、言う+音楽、言う+絵画の、対決だ。(何を奪うのか7)#2factory68

2014-06-25 12:54:24
福間健二 @acasaazul

ぼくから遠く、きみからも遠く、光のなかに起きあがる小さな形式が語っていること。声のいい子供たち。ダンスに向いた脚の開き方、閉じ方。テクニックじゃない。走ること、跳ぶこと、炸裂することのよろこびだ。それを奪う。それを投げる。かき消してくれ! (何を奪うのか8)#2factory68

2014-06-26 12:34:13
福間健二 @acasaazul

歩きまわる影。マクベスを演じた断片たち、さようなら。「婆ちゃんはおいしいうどん作ってくれたらいい」。では、ぼくは?「爺ちゃんは死んでいるから悲しみを食べる」。波の動きが読めない漂流家族。ランチタイム。みんな、青い後姿。この銀河系のどこかで。(何を奪うのか9)#2factory68

2014-06-27 11:55:48
福間健二 @acasaazul

外にあるはずの理由、たとえば監視する衛星や食いちらかされたシェイクスピアの皿が、この胸のなかで団結して、さまようぼくを愉快な帰り道に突き落とした。ありがとう。もう靴下は乾いたし、足も痛くないよ。背骨で地球の空気を吸うきみをつかまえたのだ。(何を奪うのか10)#2factory68

2014-06-28 11:49:13