【さまよう形成期】福間健二 #2factory80
東一丁目のバーで彼女に会った。すべては許される。トレーナーの背中の骸骨がそう言っている。見えない壁を確かにひとつ突き破って終わっている夢が噛んでくる。ずっと使わずにいた科学の、逃げようとする部分を。ビールのつもりだったが、ジンを注文した。(さまよう形成期1)#2factory80
2015-01-31 11:27:26ジンはタンカレー。タンカレーになった男との、浴室のできごとを彼女は歌う。唇を微分して、うまいなあ。でも外に出て引き裂かれるのはどっちだろう。リハビリ時代に戻りたくはない。いまを血の匂いのする夜にするすべてのガラスを遠ざける。死んでいた。(さまよう形成期2)#2factory80
2015-02-01 12:25:41行為者、参加者、関係者の溺れる黒いプールを見つめる瞳とすれちがう人生への鍵がもうあかない。死んでいるからではなく、眠ることも目覚めることもないからではなく、いつまでも階段の足音。たどりつかない。彼女も、ぼくも、姿の見えない恋人たちも。(さまよう形成期3)#2factory80
2015-02-02 11:47:12赤く滲んだ「すべては許される」が浮かんでは消える踊り場。出しっぱなしの、彼女の冷蔵庫。何を冷やしているのか。腐敗しない「終わり」をパッケージした、生きていない体。恐ろしくなって、坂下の五叉路。どの道もまちがっている。生まれかわるときだ。(さまよう形成期4)#2factory80
2015-02-03 09:48:02香りだけの、見えない物質がほほえみ、敵意を複層化している。遠い場所からの訪問者。握手なんかしない。甘いものなんか食べない。でも、グズグズ、策略のリズム&ブルース。その寂寥、孤独、自虐。だれかが楽しみにしている最後の小さなひとつを奪うのだ。(さまよう形成期5)#2factory80
2015-02-04 10:04:56ひとつの命が倒れて血を出している。はじまりでも終わりでもない。何人もが入って消えようとしている音楽。何人もが信号を無視して横から入って、そのなかに。その音楽で線を引く。包み込む線だ。「どの道も」。リズム&天使たち。まちがっていてもいい。(さまよう形成期6)#2factory80
2015-02-05 09:51:03何をしているのか。見えるものと見えないもの、踏めるものと踏めないものとのあいだの混沌の言い分を聞いたのだ。企んでいることはわかった。だからこれ以上壜も試験管も割らないでくれ。東四丁目、ファミリーマート。足指サラサラクリームはないってさ。(さまよう形成期7)#2factory80
2015-02-06 10:04:05滑りおちた溝のなかで、大きすぎる足とそれをもてあましている神様に会った。速く動くときは大丈夫でも、普通の足どりで歩くと次々に小さな問題に押しよせられて動けなくなっていた。遠い昔。会った。聞いた。這いあがる方法。殺してくれ、と彼は言った。(さまよう形成期8)#2factory80
2015-02-07 09:26:11そうか、そうだったのか。そうだとしても、ここでは別のなにかがおこっている。なんなのか。わかろうとしてまたグチャグチャになる。義務じゃない。命令されていない。わかろうとするのも、さまようのも。突出部、そのなかにある骨が疼いているだけだ。(さまよう形成期9)#2factory80
2015-02-08 08:52:27会った。会った。盗めるものは盗み、どこにいたかと聞かれても答えられない子どもに戻ってやりなおした。終わらない形成期。何をやっても許されると彼女は歌い、ぼくは目をあけて夢を見る。タンカレーはもういい。水を一杯。明日も退行と崩壊の旅。(さまよう形成期10)#2factory80
2015-02-09 11:28:23