短歌の〈引用〉に関していろいろ考えたまとめ

短歌の「引用」に関していろいろと考えたことをメモ代わりに投稿してきました。それが溜まってきたのでまとめます。 異論反論意見歓迎。
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久真八志(くまやつし) @okirakunakuma

次回のKabamy(かばんの勉強会)のテーマは「引用」です。本歌取りから他作品のフレーズ・CMコピー・日常よく聞く定型文の引用、翻案まで定義は広く取ってますが。歌に引用を用いるとどんな効果があるかみんなで考えます。会員&購読会員限定のこじんまりした会ですが、面白くなるはずです。

2014-07-03 12:28:54

その1

久真八志(くまやつし) @okirakunakuma

【引用の歌】 3番線快速電車が通過します理解できない人は下がって/中澤系(駅のアナウンス) ついに店の金に手をつけたよるうしろから声がしてぼくだよのび太くん/フラワーしげる(ドラえもん) 問十二、夜空の青を微分せよ。街の明りは無視してもよい/川北天華(試験問題)

2014-07-03 12:32:11
久真八志(くまやつし) @okirakunakuma

二首目の「ぼくだよのび太くん」という声の主はドラえもんを想像する。これはアニメでよくドラえもんが話してたようなセリフを引いているから。ジャイアンやスネ夫やしずかちゃん他はこういう言い方をしない。唯一するとすれば出木杉くんぐらいだけど、まず思いつく選択肢ではない。

2014-07-03 12:39:01
久真八志(くまやつし) @okirakunakuma

でもやっぱり「ドラえもん」と書いていない以上、うしろから声をかけてきたのは「ドラえもんかもしれない何者か」である。この何者かは何なんだろうなあ(結論なし)

2014-07-03 12:42:40

その2

御社(オンシャ)って言う時に噛むぼくたちが融合(フュージョン)しても勝てそうにない/吉岡太朗

久真八志(くまやつし) @okirakunakuma

【引用の歌その2】 御社(オンシャ)って言う時に噛むぼくたちが融合(フュージョン)しても勝てそうにない/吉岡太朗「ひだりききの機械」 この歌の前には「なんと人事たちが合体して、人件費が削減された。」という詞書があり、採用面接の一場面であることがわかる。(続く)

2014-07-04 23:55:35
久真八志(くまやつし) @okirakunakuma

どこが引用かというと「融合」と書いて「フュージョン」というルビのこれ。日常ではまずお目にかからない言葉だが、特定の層にはなじみ深いのだ。これは「ドラゴンボール」で主人公たちが合体するときの技の名前で、その滑稽なポージングもあり子供たちの間で一時期流行った。(続く)

2014-07-04 23:59:51
久真八志(くまやつし) @okirakunakuma

融合(フュージョン)は合体によってパワーアップする技で、強敵に対抗するために行う。掲出歌は「融合しても勝てそうにない」という展開をしており、改めてこれがドラゴンボールを踏まえていると読める。さて以上から分かる通り、融合(フュージョン)が引用だということがわかる層は限られる(続く)

2014-07-05 00:04:38
久真八志(くまやつし) @okirakunakuma

具体的に言えば、ドラゴンボールをある程度知っている層だ。有名作品とはいえ、知らない人も多いだろう。その場合「融合(フュージョン)」は字義通りに解釈できるので、たぶん気づかない。こういう対象者層が限定された知識を引用するのは、裏を返せば詠う者こそがその層に属することを示す(続)

2014-07-05 00:11:52
久真八志(くまやつし) @okirakunakuma

ドラゴンボールを熱心に見ていた層は、男性の、年齢は現在20代後半~30代に多い(というイメージが信じられている) そこからその層に属する「ぼくたち」が浮かび上がると、採用面接の持つ意味もまた限定されるだろう。この歌に関しては、「御社」を噛むこととの繋がりがベタ過ぎるけど。

2014-07-05 00:20:27
久真八志(くまやつし) @okirakunakuma

ところで「誰でも知っている引用」というのはあるのだろうか。先のドラゴンボールの例のように「特定の層は知っている」と信じるのと、「誰でも知っている」と信じるのは同じである。むしろ前提にしている範囲(例えば日本人なら、現代人なら等)を、当たり前にし過ぎるのは場合によっては性質が悪い。

2014-07-05 00:27:44
久真八志(くまやつし) @okirakunakuma

引用というのは語る者の立場を示すのだということ、今日はそれがなんとなくわかりました。とりあえずこの辺にしとこう。

2014-07-05 00:35:04

その3

月を見つけて月いいよねと君が言う  ぼくはこっちだからじゃあまたね/永井祐

久真八志(くまやつし) @okirakunakuma

夏目漱石が「I love you」を「月が綺麗ですね」と訳したという(ことになっている)有名なエピソードがありますが、いくら調べても原典が見つかりません。そこでgoogleでできる範囲で調べてみました。

2014-07-07 00:17:08
久真八志(くまやつし) @okirakunakuma

①googleトレンドというサービスを使うと、検索ワードが検索される頻度の推移をここ10年分ぐらい見られます。これによると「夏目漱石 月」は2008年8月ぐらいに突発的に増加しています。有名エピソードがコピペ化して拡散された時期とみられます。

2014-07-07 00:19:23
久真八志(くまやつし) @okirakunakuma

②googleには期間指定の解析機能もあります。これで年を追って細かく「夏目漱石 月 綺麗」「夏目漱石 i love you」などで検索すると、1996年ぐらいにはこのエピソードがほぼ現在の形で登場しています。それ以前はネットコンテンツ自体が少ない時期になってしまいます。

2014-07-07 00:25:06
久真八志(くまやつし) @okirakunakuma

ということでエピソード自体は意外に古いようです。原典に関する記述が見つからないので、今のところ都市伝説の可能性が高いと考えてますが、その発祥はネット以前からかもしれません。どなたかいつ頃には聞いたことがあったという方がいれば教えていただきたいところ。

2014-07-07 00:27:53
久真八志(くまやつし) @okirakunakuma

【これも引用の歌?】 さて、長々と「月が綺麗ですね=I love you」のエピソードを調べてきた理由は次の歌と関係があります。 月を見つけて月いいよねと君が言う  ぼくはこっちだからじゃあまたね/永井祐「日本の中でたのしく暮らす」 ひょっとしてこれは引用なんでしょうか?

2014-07-07 00:31:43
久真八志(くまやつし) @okirakunakuma

掲出歌の初出は2008年秋ごろに出された同人誌「風通し」らしい(持ってないので裏が取れてません) さきほど調べた通り、漱石のエピソードは1996年時点では存在しており、2008年の夏頃にネットで広く拡散されたものです。

2014-07-07 00:38:01
久真八志(くまやつし) @okirakunakuma

以下は掲出歌が引用だという仮定で話を進めます。確定としていいか自信はないので。歌が作られた時期を同人誌発行とほぼ同時期と推定すると、例のエピソードの流通状況からいって、引用の歌を作るときの障害である「誰も知らないんじゃないか」という不安はクリアできそうです。(続)

2014-07-07 00:41:42
久真八志(くまやつし) @okirakunakuma

とすれば、君のセリフ「月いいよね」はまさしく「I love you」かもしれない。結局この歌のこれが引用かどうか判断に困るのと同じく、「ぼく」もまたそう解釈すべきかを迷っているのではないか。表向きには共感を求めているだけなのだから(もちろんある種の親密さはあるにしても) (続)

2014-07-07 00:48:01
久真八志(くまやつし) @okirakunakuma

そして二字空け(初出では一字空け?)から至る下句で「ぼく」は、逡巡の末に真意を確かめない。一定の共感のある関係から進展する(それは破綻につながる場合もある)可能性を絶ち、維持を選択した「ぼく」の姿が現れる。

2014-07-07 00:55:20

その4 

いくたびか摑みし乳房うづもるるほど投げ入れよしらぎくのはな/吉田隼人

久真八志(くまやつし) @okirakunakuma

【引用の歌4】 いくたびか摑みし乳房うづもるるほど投げ入れよしらぎくのはな/吉田隼人 昨年の角川短歌賞受賞作の一篇です。既に指摘されている通り夏目漱石の〈ある程の菊投げ入れよ棺(かん)の中〉という俳句が引かれている歌です。 (続)

2014-07-13 01:38:08
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