午後10時26分からの2分間

竹村京さん(@kyou_takemura)の書いてくださった、落ちぬいまとめ8内に記載のあった人類vs深海棲艦のお話のようです。 お楽しみ下さい。
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竹村京 @kyou_takemura

この作品はフィクションです。実在の人物・団体・「 #不知火に落ち度はない 」とは無関係です。

2014-07-17 17:35:13
竹村京 @kyou_takemura

第1護衛隊群第5護衛隊。 イージスシステム搭載ミサイル護衛艦「こんごう」を筆頭に、汎用護衛艦「あきづき」「あけぼの」「さわぎり」から成る精鋭艦隊である。

2014-07-17 17:36:18
竹村京 @kyou_takemura

護衛隊群を構成する第1護衛隊の定係港と護衛隊群司令部は横須賀だが、第5護衛隊は佐世保を定係港としている。これは一個護衛隊群に二個ある護衛隊を分散しておくことで運用上の冗長性を確保するためである。

2014-07-17 17:39:03
竹村京 @kyou_takemura

今、第5護衛隊のうち「こんごう」と「あきづき」は九州と沖縄本島の中間あたりを航行している。 5年前ならばどんな海軍を相手にしても互角以上に戦い、必ず日本国を守るという自信が彼らにはあった。 しかし、今は違う。

2014-07-17 17:41:04
竹村京 @kyou_takemura

悔しいが、今戦っている相手には、正直なところ勝ちを収めるビジョンが見えなかった。 その相手はどこの国の軍か? 中国、ロシア、それともアメリカ? 否、そのどれでもない。 そもそも、敵は船ですらなかった。

2014-07-17 17:43:52
竹村京 @kyou_takemura

人のような、船のような、怪物としか表現できない存在。昨年決定された呼称は「深海棲艦」という。 人の背丈に先の大戦の戦闘艦の力を凝縮したバケモノである。

2014-07-17 17:45:38
竹村京 @kyou_takemura

二年前に突如現れ、目に付く船を手当たり次第に沈めて世界中の国々に甚大な被害を与えた。むろん、敵の正体がわからなかろうと国土と国民とその財産を守るのが軍である。各国は空海軍に命じ、哨戒と敵の解明・撃滅に努めた。 しかしその結果はと言えば、惨憺たるものだった。

2014-07-17 17:46:56
竹村京 @kyou_takemura

なにしろ敵は船でさえなかったのだから、船と戦うために整備された軍隊ではあまりに戦い様がなかった。 「深海棲艦」は大きくとも精々が2メートルほど。当然艦艇のような大きなレーダー断面積も排熱も騒音もないのだから、現代の艦艇が磨き上げた誘導兵器は目標を見つける事さえできなかった。

2014-07-17 17:48:32
竹村京 @kyou_takemura

残る武器は砲だが、それについては深海棲艦の方が圧倒的に上回る。 現代の主力兵器はミサイルで、砲煩兵器は近接防御や対地攻撃に用いられる補助的なものになっていた。 対して深海棲艦が装備する砲はいかなる原理か人が装備できる大きさでありながら、第二次大戦期の艦載砲の威力と射程を誇る。

2014-07-17 17:49:52
竹村京 @kyou_takemura

しかも装甲も攻撃を受けないことが前提の現代の艦艇と砲撃をくらっても耐える思想の深海棲艦では雲泥の差があった。 結果、各国海軍は連戦連敗。現代技術の粋を集めた戦闘艦は次々に沈められ、将兵は死に、海は奪われていった。

2014-07-17 17:51:30
竹村京 @kyou_takemura

護衛隊の中でも無傷で残ったのはこの第5護衛隊のみ。 同じ佐世保にいた第2護衛隊はヘリコプター護衛艦「くらま」のみが無傷で残るだけで、ミサイル護衛艦「あしがら」は大破。「はるさめ」「あまぎり」は乗員のほとんどとともに爆沈した。

2014-07-17 17:52:59
竹村京 @kyou_takemura

第5護衛隊群の残り二隻、「あけぼの」「さわぎり」は「こんごう」「あきづき」よりも能力が一段以上劣るため、第2護衛隊なき佐世保の守りとして残された。

2014-07-17 17:54:27
竹村京 @kyou_takemura

「艦長より達する」 重厚な声が「こんごう」CICから艦内に響く。艦長兼艦隊司令の夏目大佐だ。1等海佐でないのは、深海棲艦の出現に対応して自衛隊が正式に軍に改組されたためだ。

2014-07-17 17:56:59
竹村京 @kyou_takemura

「知っての通り、本任務は九州と沖縄を結ぶ航路の奪還である。  不可能と思う者は即刻名乗り出よ。臆病者はいらん。退艦を許す」 しばらくの沈黙。

2014-07-17 17:58:57
竹村京 @kyou_takemura

「彼我の相性は最悪だ。こちらのミサイルも魚雷も当たらん。砲は大して効かん。  向こうの砲は精度こそ劣るが射程も威力も段違いだ。喰らえばひとたまりもない」 深海棲艦との戦争の初期、各国の駆逐艦は遠距離からの砲撃で何が起きているのかもわからないまま沈められていった。

2014-07-17 18:01:53
竹村京 @kyou_takemura

「しかし、索敵だけはこちらに分がある。だからこそ、これから行うのは夜戦だ。イージス、HS、FCS-3、そして目視! あらゆる索敵能力を駆使して敵を見付け、ありったけの弾を叩き込んで勝つ!」

2014-07-17 18:05:18
竹村京 @kyou_takemura

深海棲艦と交戦した艦がもたらした情報により、ようやくイージスシステムのSPY-1Dとあきづき型のFCS-3で深海棲艦を特定する事が出来るようになった。精度は100パーセントではないが、しかし無いよりはずっとましである。

2014-07-17 18:08:58
竹村京 @kyou_takemura

「勝って帰ってぶっ倒れるまで飲むぞ! 以上、諸君の健闘に期待する!」 艦内各所から喊声が轟く。 勇気と戦意を奮い起こして恐怖を棚上げにする。絶対に勝つ、仇を取る、そして生きて帰るんだ、と。

2014-07-17 18:10:34
竹村京 @kyou_takemura

時刻は2226時。 『HS1よりこんごう! レーダーに感!』 偵察に出したSH-60Kからの通信がCICのスピーカーから流れる。 『敵艦隊捕捉、戦艦ル級2、重巡リ級1、雷巡チ級1、駆逐イ級2! ソーナーに感なし、潜水艦はなし!』

2014-07-17 18:11:19
竹村京 @kyou_takemura

直後に「あきづき」搭載のHSからも同じ内容が伝えられた。 報告と同時に深海棲艦を現す光点が6つ、CICのひときわ大きなスクリーンに表示される。 「よし! HS兵装使用自由、射撃後は監視を続けろ!」 夏目司令の下命を副長が復唱し、HSに伝え、HSがさらに復唱して命令受諾を伝える。

2014-07-17 18:13:48
竹村京 @kyou_takemura

「ミサイル及び魚雷諸元入力、発射タイミング任す! 撃ち方はじめ!」 その命令を副長が復唱している間に駆逐イ級の光点が2つとも消えた。 『駆逐イ級に魚雷命中、2隻とも沈没確認! 重巡リ級にヘルファイア命中、小破どまりだ畜生!』

2014-07-17 18:17:03
竹村京 @kyou_takemura

哨戒ヘリ2機の戦果としては上々だ。次は「こんごう」と「あきづき」がありったけのミサイルをぶち込んで戦艦と巡洋艦を沈める番だ。 「SM-2順次発射!」 「SM-2順次発射!」

2014-07-17 18:21:07
竹村京 @kyou_takemura

指示が副長、砲雷長、科員と順に復唱され、スタンダードミサイルが発射される。本来は対空ミサイルだが、急造で水上目標にも使えるようにしてある。命中を待たず順次発射するのは、最終誘導を担うイルミネーターが3基あるため、空中で待機させておいて一発命中したら次の一発と順に誘導するためだ。

2014-07-17 18:23:15
竹村京 @kyou_takemura

雷巡チ級がスタンダードミサイル2発の直撃を受け、沈んだ。深海棲艦との戦いの中で僅かに得られたセオリーに忠実な攻撃だった。 続く攻撃は比較的打撃力と射程が小さな重巡リ級を無視して二隻の戦艦ル級に集中する。ル級の砲の射程は長く、接近される前に沈めねばならないからだ。

2014-07-17 18:27:20
竹村京 @kyou_takemura

『高速目標発見! 艦載機だ、敵増援、空母ヲ級1!』 「HS、回避! 下がれ!」 いくらSH-60Kが高性能とはいえ、ヘリコプターと固定翼機の運動性能の差は覆し難い。加えて対空兵装を持たない哨戒ヘリだ。

2014-07-17 18:29:46