国別に見た「貧困の報じられ方」とその効果
- kuragari20nen
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C. A. Larsen, The Rise and Fall of Social Cohesion について
C.Larsen, The Rise and Fall of Social Cohesion (Oxford University press)という著作での、英国、デンマーク、スウェーデンにおける貧困に関するメディア報道の比較が面白い。
2014-07-09 02:18:38この著作によると、イギリスでの貧困にまつわるメディア報道が福祉の不正受給や濫用などネガティブな出来事の報道が多いのに対し、デンマークやスウェーデンではタブロイド紙も含めてそういった報道は少ない。むしろ貧困を社会問題として報じる傾向が強いとのこと。
2014-07-09 02:19:32その理由としては、イギリスでは福祉はおもに社会的弱者のためのものと認識されているのに対し、デンマークやスウェーデンでは福祉というのは国民全体のためのものと見なされているという違いが挙げられている。
2014-07-09 02:20:54つまり、福祉が一部の人のためのものでしかないなら、それを受給する人たちに対してはどうしても厳しい視線が向けられてしまう。他方で、福祉がみんなのものなら社会システムの側に報道の視線は向けられる。結果、イギリス型の報道は福祉全般に対する不信感を蔓延させることになる。
2014-07-09 02:22:40ただし、デンマークとスウェーデンのメディアがイギリスのそれと比べて素晴らしいかと言えば、必ずしもそうでもない。というのも、福祉関係のネガティブな記事のさい、非白人のイメージを使う割合がイギリスよりもずっと高いのだそうな。要は、福祉関連の不正を非白人に押し付けているということ。
2014-07-09 06:21:05リスター『貧困とはなにか』について
ルース・リスター、立木勝訳『貧困とはなにか』(明石書店)を読んでいる。今日は5章「貧困についての言説」。 この章は特に、貧困に関心がある人だけではなくて、人種やエスニシティ、あるいはメディア研究に関心がある人も読む価値があると思う。
2014-07-11 19:39:31貧困について語ること自体が貧困のスティグマ化に寄与してしまうという問題。構造的な問題を語るための言葉だった「貧困の文化」や「アンダークラス」という概念が、広く使われるようになることで人種差別的な偏見を土台に、貧困の原因を当事者に押し付けるために用いられるようになってしまった。
2014-07-11 19:41:03悩ましいのは、だからといって貧困について語ることをやめてしまうと、人びとの無関心を助長し、結果として「貧困はもはや存在しない」という主張を正当化してしまいかねない。その一方で、たとえ善意であっても貧困について語ることは何らかのスティグマ化を促進しかねない、という難しさ。
2014-07-11 19:47:54福祉の選別主義と普遍主義の別
「イギリスでは福祉受給者に対するバッシングはない」という話はどこが出処なんだろうな。ネットで少し検索すればバッシング系の記事なんてすぐに見つかるんだけど。/ハリー・ポッターは日本では生まれない bylines.news.yahoo.co.jp/inoueshin/2014…
2014-07-12 23:12:24よく言われることだけど、福祉受給が失業者など一部の層に限定されている福祉システムだと、どうしてもバッシングが起きやすくなる。「自分が払った税金が他人に食いものにされている」という感情を引き起こすため。逆に、ユニバーサルな福祉が充実していると、そういうバッシングは起きにくくなる。
2014-07-12 23:15:36さっきの記事でも同じことは指摘されているけど、イギリスの福祉は選別主義に分類されるんじゃないかな。NHSとか例外はあるけど。
2014-07-12 23:18:20@brighthelmer いわゆるユニバーサリズムという概念ですよね。全員が使えるものなら抵抗感は少ないという。例えば学費が無料であったり医療費が無料であったり。北欧のモデル。
2014-07-13 01:47:47@economicity そうですね。普通、ユニバーサリズムで出てくるのは北欧だと思います。福祉国家の分類でも北欧と英国は別のレジームに分類されますし。いま、北欧と米英の福祉に関する報道の分析を読んでいるのですが、やはり英米だとバッシング報道が多いことが数量的に示されています。
2014-07-13 08:11:52再び Larsen, The Rise and Fall of Social Cohesion について:特に「社会的信頼」と「貧困報道」とのトレード・オフの可能性
先日もツイートした、LarsenのThe Rise and Fall of Social Cohesionをやっと読み終えた。乱暴に要約すると、米英で社会的信頼が低下しているのは、両国で「中産階級社会」というイメージが壊れて、大多数が貧困層だという認識が広がってきたから。
2014-07-18 20:38:24統計的に見れば、米英も依然として中産階級の人たちが多数派ではあるが、貧困層は中産階級に属する人たちとくらべて犯罪を犯したとしても失うものが少ないと考えられやすいとLarsenは主張する。そのため、社会のなかで貧困層が増えてきたという認識そのものが社会全体に対する信頼を切り崩す。
2014-07-18 20:40:23他人を信頼できないので、不正受給を心配して福祉に反対する人たちも増える。結果、ますます貧困層が増えるという負のスパイラルに入る。米英はいままさにその状態だという。
2014-07-18 20:41:25他方で、高い社会的信頼を維持しているスウェーデンやデンマークでは、貧困に関する報道そのものが少なく、報道されたとしても不正受給が問題視されることはあまりない。そのことが貧困層に対する不信感の拡大を抑制し、福祉に対する強い支持の土台になっているという。
2014-07-18 20:43:12この観点からLarsenは、仮に良心的な報道であっても貧困問題を報じることそのものが一般的信頼を損なう可能性を指摘する。つまり「貧困の再発見」はやめておいたほうが、結果として中産階級社会としてのイメージを守ることができ、福祉の維持、向上にも寄与する。これはなかなか大胆な主張。
2014-07-18 20:43:59