「フラワー、サン、アンド・レイン」#1　――『ニンジャスレイヤー』二次創作小説

うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

その時！カキン、シュバッ。闇に炎が閃いた。「ひッ！」オギトは思わず声を上げ……次いでその炎が誰の灯したものか、誰が己とともにこのフロアにいるのかを思い出し、胸をなでおろした。「よ、余計なことを」オギトは怯えた自分を恥じ、虚勢を張った。「貴様はプロフェッショナルと聞いている」　18

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「そう邪険にしなくてもいいじゃないか」闇から声がする。「実際サービスだ。先から脈が乱れている。一服つければ落ち着くぞ」((何を言っている))オギトは相手の口調に反抗心をかきたてられながら、目の前にちらつく炎でタバコを灯した。深く紫煙を吸い込むと、カキンと音がして炎は消えた。　19

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「ハァーッ」煙を吐くと、照明を落とした防弾ガラスブースの外、内部と対照的にLEDライトに照らされた無人のオフィスが、つかの間彼の視界から消えた。((まったく、どういうつもりだ))オギトはブースの同伴者の思考を測りかねていた。((さっさと脱出させてくれればいいものを……))　20

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「罠は」背後から声がし、オギトは再びドキリとした。「どこに張り巡らされているかわからない。安直に脱出しては却って飛び込んでしまう。ミヤモト・マサシの警句にあったろう」「だからなんだ」言い返した。「こちらも罠を張る。敵を逆に罠に誘い込むんだ。そして敵を倒し、代わりに出て行く」　21

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「講釈は沢山だ！」オギトは言った。「私を脱出させる、それが貴様のビズだろう！」カキン、シュバッ。闇に再び炎が灯った。「その通り」「家族にも危険が迫っているのだぞ！」「そちらは契約にないな」闇から声が言い、次いでオギトの鼻孔を、彼のものとは違う、葉巻の紫煙がくすぐった。　22

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「金額が不満か？」オギトはいらいらした。闇からの声……彼が闇ネットで緊急招集したフリーランスのボディガードは、呑気に葉巻など吸っている！「いくらでも払ってやるぞ！」「それは脱出してから考えよう」相手は鷹揚に答えた。「あんたが死んだら、後金も追加報酬もパーになるんだからな」　23

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「そうならないようにするのが貴様のビズだろう！」「ごもっとも」闇からの声は言い……次の瞬間、焦げ臭い匂いが背後から漂ってきた。「おいでなすった」声の主が葉巻を消したのだと気づき、思わず背後を振り返ったオギトは、一瞬遅れて相手の言葉の意味を悟り、慌ててオフィスに視線を戻した。　24

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そしてオギトは見た。恐るべき死神の姿を。彼を殺しに来たものの姿を。……ニンジャを！　25

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そのニンジャは、社長ブースの正面、フロアのほぼ対岸に位置するエレベーター前に、影のように佇んでいた。エレベーターは閉まっている。「い、いつの間に」オギトは思わず疑問を口にしたが、返事はない。この沈黙が孕む危険なアトモスフィアに、オギトの手のひらにじんわりと汗が滲んだ。　26

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((シット……なぜ私がこんな目に遭わねばならんのだ！))オギトのニューロンが自問を始める。答えはパルスの早さで理解できた。彼は会社の金を私的FX運用し、大損を出してしまった。そしてそれは親会社に知れることとなったのだ……恐るべき「ネコソギ・ファンド」に！　27

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……ここで読者に説明をしておこう。オオモギ・ストリートに建つ典型的複合オフィスビル「モウケ・ビル」、その十一階を借りきった「キヨキ・ファンド」は、表向きは独立した投資ファンドである。しかしその実態は、ネオサイタマ経済を闇から支配する「ネコソギ・ファンド」の下部組織であった。　27

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……ああ、この恐るべき名前を読者はご存じであろう。ネオサイタマ経済の中枢トコロザワ・ピラーに居を構えるネコソギ・ファンドこそ、暗黒ニンジャ組織「ソウカイ・シンジケート」の隠れ蓑！そしてその首魁、近未来メガロシティを闇から支配する男こそラオモト・カン……巨悪にして、ニンジャ！　29

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人を人とも思わぬ現代社会、その理不尽の化身ラオモト・カン。彼にとって下部組織の社長などジョルリの人形以下、マケグミ・サラリマンめく取替え可能な歯車の一つに過ぎぬ。しかしてそのような存在が、洗浄資金を私的運用するだけならまだしも、損失を出したとなればこれは寛恕せらるる事実。　30

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二時間前、損失補填の策を講じるべく、一人オフィスに残っていたオギトに届いた映像メッセージ。その中でこの怒れる暴君は、セプクを命じる声の柔和さと裏腹に、目からカタナめく冷酷な光を放っていた。長々とした自失と失禁から立ち直ったオギトに、すぐさま闇回線にアクセスさせるほどの恐怖。　31

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そして一時間前、出入りのフードサービスに紛れてやってきたボディガードに脱出を要求したのだが……今、目の前にラオモト・カンの放った刺客ニンジャがやってきても、彼はとどまる作戦を変えぬ。数時間前から絶え間ない焦りと恐怖に襲われ、オギトの精神は実際決壊寸前であった。……そして！　32

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オギトは目を瞬いた。そこにいつの間にか額に浮かんでいた汗が目に入りこんだ。塩辛さが目に痛みをもたらし、思わず片手で目をこすった次の瞬間、影が彼を捕らえていた。「アイエッ！？」　33

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瞬きの間に、タタミ二十枚はあるフロアにひしめく社員ブースパーティションをすり抜けたものか、ニンジャが社長ブースの前に立っていた。オギトははっきりとその姿を見た。平型の編笠をかぶり、肩から足首までを覆うマントを着ている。そのマントの合わせから、ゆっくりと片手を出した。　34

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「ドーモ、キヨキ・オギト＝サン」ニンジャは片手でアイサツした。「ソードモンガーです」　35

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「ヒイッ！」オギトは恐怖のあまり失禁した。「助けてくれ！」目の前のニンジャから目をそらさず、否、逸らせぬまま、背後にいるはずのボディガードに呼びかけた。「それは無理だ」ソードモンガーと名乗ったニンジャが応えた。「貴様を殺し、死体を渡す。それが依頼主の要望だ」「し、死体を？」　36

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「そうだ。貴様の死体を、貴様の妻子の見る前でカニに食わせる。そして妻子も同様にカニに食わせる。そういう趣向だと、貴様に告げろとも言われた」「そ、そんな……」「今の声、依頼主も聞いている」ニンジャはそう言って、次の瞬間、アイサツした手にニンポのようにIRC通信機を握っていた。　37

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『ムッハハハ！』IRC通信機から響く声に、オギトはさらに失禁した。『キヨキ・オギト＝サン！逃げも隠れもセプクも出来ぬクズ虫！せめてワシを楽しませてくれ！……ソードモンガー＝サン』声の呼びかけに、ソードモンガーはIRC通信機を顔の高さにさし上げた……その時！「ムウッ！？」　38

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くるりと身を翻したソードモンガーが、跳ね上がったマントの下からカタナを閃かせた！無人オフィスに降り注ぐ白々としたLED光を薙いだと見えた刃は、しかしあろうことか空中の一点で静止！「イヤーッ！」オギトには聞き覚えのある声がカラテシャウト！カタナがニンジャの手を離れ宙を舞う！　39

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「イヤーッ！」影法師めく姿が横っ飛びしながら光るものを投擲！光点はカタナを追ってオフィスの中空を駆け、しかしもろともに空中の一点で静止！さらに！「イヤーッ！」聞き覚えのあるカラテシャウトとともに、深緑の影が横手から飛来！影法師ニンジャの編笠めがけキックを繰り出す！　40

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「イヤーッ！」ソードモンガーはこれをブリッジ回避！さらにこの倒れこむようなブリッジ動作の際に、翻ったマントの下から白刃がひらめく！カマめく反り刃の剣だ！だが！「イヤーッ！」深緑の影はこれを腕のブレーサーで弾き、安全にオフィスの床に着地。「ドーモ、ソードモンガー＝サン」　41

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イクサが静止する。アイサツはニンジャの掟、互いのアンブッシュを経た今、これを遮ることはシツレイに当たる。オフィスに沈黙が流れる……わずか三秒の平穏。「ブラックヘイズです」深緑のニンジャ、オギトの雇ったボディガードニンジャがアイサツし、二者は再びイクサを開始した！　42