「フラワー、サン、アンド・レイン」#1 ――『ニンジャスレイヤー』二次創作小説

サイバーパンクニンジャ活劇『ニンジャスレイヤー』(@NJSLYR )の二次創作小説です。 第一回(このまとめ) 第二回(http://togetter.com/result/723850 ) 第三回(http://togetter.com/li/734011 )
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うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

●●この後すぐ!●●(◯_ (_ ´ェ` )_

2014-08-12 11:57:28
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

サイバーパンクニンジャ活劇『ニンジャスレイヤー』二次創作集『ニンジャ・ラン・ウィズ・ネオサイタマ・ランドスケープ』より。

2014-08-12 12:03:13
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

「フラワー、サン、アンド・レイン」#1

2014-08-12 12:05:27
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篠突く雨がオオモギ・ストリートを濡らす。午前一時四十五分の街路に動くものはない。日が変わる前に退勤できたカチグミ・サラリマンたちは、サッキョーラインに乗って歓楽街へ繰り出している。いまだオフィスに残るマケグミたちに、デスクを離れる余裕はない。 1

2014-08-12 12:08:09
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オオトモ・カンジもそんなマケグミの一人。しかし、彼が務めるのはオフィスではない。ワリバシほどの幅のスクロールバーに象徴される終わらないタスクの代わりに、彼が見ているのはテレビノイズめいた重金属酸性雨。直立カンオケじみた、搬入ゲート守備の守衛ブースの窓越しに、外を眺めている。 2

2014-08-12 12:11:14
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一年半前、彼がハンコを押した就業規定には「三交代制・隔日勤務」と記載されていた。しかし出社した彼を待っていたのは、経費削減を理由にした二交代制の連日勤務。十四時間働き、八時間の休み、これが一年間続いた。半日で覚えられる仕事の給料は横這い、ボーナスはなし。 3

2014-08-12 12:16:21
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それでも彼は働いた。センタ試験に落第、家を追い出され、転がり込んだ先の恋人宅からも捨てられ、行くところもすることもない身だ。コフィン・ホテルもアニメ喫茶のブースも、現在彼が起居する薄暗い宿直室とさして変わらぬ。とにかく金さえあればなんとかなる。そう浅はかに思い続けて、働いた。 4

2014-08-12 12:19:48
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実際仕事は簡単だ。ビル契約オフィスの出退勤をスキャナで読み取り、来客には専用の素子を渡す。入出データ管理は電算室任せだし、車を使えるカチグミの顔も覚えた。メール便ヒキャクも馴染みだし、出入りのフードサービスも一時間前のものが最後。昼勤務と違って誰も通らない……はずだった。 5

2014-08-12 12:22:53
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外を眺めるオオトモ・カンジの目に、重金属酸性雨を貫いて暴力的な光が突き刺さった。やってくる車両のハイビームは、ウシミツ・アワーまであと十五分という現状も相まって、昔テレビで見た時代劇を思い出させる。平安時代の濃い闇に光るオバケの目。サムライ屋敷を襲った不条理な暴力と恐怖。 6

2014-08-12 12:26:26
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((まさかな……))カンジは守衛ブースの窓を開ける。十月の冷たい風が湿り気とともに顔を撫でた。体がぶるりと震えた。スキャナを右手に、電磁ジュッテを左手に握り、近づく車両を待ち受ける。……やがてハイビームの向きがわずかに変わり、車両がゲートに近づいた。カンジは目を剥いた。 7

2014-08-12 12:29:31
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カンジは不吉な予感が的中したと思った。……重金属酸性雨に濡れた銀色のボディは、犯罪ドラマで見た伝説のクラシックカー。ヤクザの憧れ、ネズミハヤイ。狂気と恐怖を乗せて走るこの路上の殺人ジョーズは、それだけでも禍々しいのに、後部にブッダシャリネを載せている。不吉アトモスフィア倍点。 8

2014-08-12 12:32:34
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「アイエッ!」カンジはホルスターに刺したままの電磁ジュッテのグリップスイッチを入れていた。しかし安全装置のかかったジュッテはうんともすんとも言わない。それが却ってカンジのニューロンを宥めた。((俺は何を怯えているんだ))カンジは頬を赤らめ、半失禁した股間を左手の甲でさすった。 9

2014-08-12 12:35:25
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しかし、ゲートに停車したネズミハヤイを間近に見て、カンジのニューロンは再び不規則な恐怖パルスの波に襲われた。こんな時間に、こんな車がなんの用だ。((まさか……俺を迎え?))根拠のない妄想が浮かび、次に発したカンジの声は不必要な高音になっていた。「コンバンワ!ご用件は?」 10

2014-08-12 12:38:33
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音もなく運転席側のパワーウィンドウが開く。「ひッ」カンジは思わず声を上げ……次いでまじまじと観察した相手の顔が、死神でもオバケでもないことに胸をなでおろした。確かに青白い顔の頬はこけて、まるで死人のようだが、サイバーサングラスをかけているし、窓枠にかけた片腕はサイバネだ。 11

2014-08-12 12:41:39
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

「やだな、驚かせないで下さい」カンジは怯えた自分が恥ずかしく、その反動で務めて明るく言った。「なんだ?」相手が低い声で言った。「いや、すごい車だから。ネズミハヤイでしょ。だから勘違いを」「ヤクザかと?」「そうです……あと、死神とか」「……」相手は黙った。 12

2014-08-12 12:45:18
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「あ、スミマセン」カンジは慌てて謝った。相手の無言が恐ろしかったのだ。「いいさ」相手が答えた。「俺はそのどっちでもない」カンジはほっと息を吐き……そして、また不安になった。「でも、こんな時間に霊柩車が」「ワカルだろ、死人が出る」「エッ?誰か亡くなったんですか」「これからな」 13

2014-08-12 12:48:54
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

カンジはゾッとした。「これから……まさか」「大丈夫だ。これはお前さんのじゃない」「でも、誰を……それに、これからって」守衛ブースに響く震え声を聞きながら、カンジはジュッテの安全装置を外した。((こういう時はどうするマニュアル?警備部に連絡?それともマッポ))「イヤーッ!」 14

2014-08-12 12:51:45
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

次の瞬間、守衛ブースを外から貫いたカタナが、若い警備員の首を狙い過たず切断した。おろおろと思考を巡らす表情のまま、首はブース内を転がった。「スマンな。死神は俺じゃない」逆モヒカンの男はブース内に侵入した相棒がゲートを開けるのを待った。「それに、後ろは予約済みでな」 15

2014-08-12 12:55:56
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

その頃、守衛ブースから垂直距離で二百メートルの高みにある「キヨキ・ファンド」のオフィスフロアで、太った男が高級ライターを手に震えていた。四方を防弾ガラスで区切られた社長ブースに、ヤスリが石をこする音だけが虚しく響く。「畜生!」荒い息を吐き、キヨキ・オギトはライターを下ろした。17

2014-08-12 13:00:44
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