空想紀行

カゲロウプロジェクト二次創作「空想紀行」 案・文章:翠寿(@suizyu329) 絵:きつ(@yga262yf)
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翠寿 @suizyu329

11。渡し舟の青年に礼を告げて林道を歩くこと三時間、急速に開けた視界の下方には港町が広がっていた。白塗りの四角い建物は海の潮風や波を意識した造りなのだろう。坂を下り、交易人が行き交う町の入り口を抜ければ途端に賑やかな喧騒に包まれた。東の港町ポーグ、貿易の盛んな町だ。#空想紀行

2014-07-20 16:06:03
翠寿 @suizyu329

12。旅の荷物を露店で少し整えた後、俺達は早速船に乗り込んだ。この町から西の国までかかる時間は半日程。前後左右に揺れる足場に吐き気を感じた俺は階段下に蹲った。こみ上げてくる嘔吐感に耐えていると、不意に頭上に影が差す。見上げると真白の髪の青年が俺を覗き込んでいた。#空想紀行

2014-07-21 16:29:52
翠寿 @suizyu329

13。白髪に秋桜の瞳、青年は名をコノハと言うらしい。蜂蜜売りを生業としているらしく、今は西の国に売りに行く最中だそうだ。背中を摩られながらそんな話を聞いたが正直それどころじゃなかった。彼の体から香る甘い匂いは商売道具のそれだろう。甘ったるい蜜の匂い。#空想紀行

2014-07-22 16:31:57
翠寿 @suizyu329

設定4。 コノハ→蜂蜜売りの少年。不思議な耳当ては蜂除けの特殊な電波を発信している。フラフラと世界を巡っては背に背負った巨大な壺に蜂蜜を採取して回る日々。蜂蜜は商売道具であり通常食。驚異の身体能力で普通なら人は立ち入れぬような森奥深くまで潜り込んで蜂蜜を入手してくる。#空想紀行

2014-07-22 16:32:18
翠寿 @suizyu329

14。波に揺られ揉まれ、漸くしっかりとした土を踏みしめたのは数時間後。いつの間にか仲良くなっていたセトとコノハの強い希望でオレ達は真っ先に酒場へと足を向けた。船酔いが抜けずに水ばかり口に含むオレ。その横で飯をかっ食らうコノハの暴食っぷりにセトが間抜けに口を開けていた。#空想紀行

2014-07-23 10:31:40
翠寿 @suizyu329

15。北の方に用があるというセトとはこの街で別れ、何故かくっついて来た蜂蜜屋を新たな旅の供としてオレは件の森を目指す。徒歩での旅は中々に辛いものがあったがやはり自分の目で見て刺激を得るのは大事なことだ。荒れた街道を行くのも同行者がいればそこまで苦ではなかった。#空想紀行

2014-07-24 12:15:18
翠寿 @suizyu329

16。岩場にさしかかった。ひいこら言いながら大岩をよじ登るオレを横目に涼しい顔で岩場を渡って行くコノハには少しだけ殺意がわいた。とは言え、コノハがヒョイとオレを肩に担ぎ上げた時には酷い悲鳴をあげたものだ。なんせ移動速度が尋常じゃなかった。あれにはもう懲り懲りだ。#空想紀行

2014-07-25 12:56:40
翠寿 @suizyu329

17。初めは小雨だったそれも時を得て勢いのある長雨へと変化を遂げる。水分を含みすぎた森を進んでいたオレ達は堪らず近くの洞穴へと逃げ込んだ。そこで雨をしのぎつつ、冷えた体を温めるために焚き火を燃やす。木立の合間から降り注ぐ冷ややかな雨水は当分やみそうもない。#空想紀行

2014-07-26 22:08:36
翠寿 @suizyu329

18。火の暖かさにうとうとと微睡んでいた時、突如首筋に触れた雪解け水のような冷たさにオレは飛び上がった。カラカラ笑う声は耳元から。睨むように視線を回すと、身の周りに水滴を纏わせた小さな青い精霊がそこにはいた。ひとしきり笑った後、水の精霊は自身をエネと名乗った。#空想紀行

2014-07-27 21:57:14
翠寿 @suizyu329

設定5。 エネ→鉱山の麓の森に住む水の精霊。今の時代は精霊も働く。水晶に音を注ぎ、簡易的なオルゴールのようにする水晶調律師。専門が水属性なこともあって人間が作る音水晶より澄んだ音色と水晶の透明度を維持出来るのが強み。人をからかうのが3度の飯より大好き。#空想紀行

2014-07-27 21:57:39
翠寿 @suizyu329

19。人を見かけるのは久々だったからついからかいたくなってしまったのだと言う。なんとも迷惑な話だ。お詫びにこの長雨を止めてやろうともエネは言った。なりは小さいが実力は精霊の中でも随一のものらしい。雨にはうんざりしていたので願ったり叶ったりだがどうにも素直に喜べない。#空想紀行

2014-07-28 11:39:44
翠寿 @suizyu329

20。小雨になった森の中を進む。辺りには湿り気の強い緑の香りがたちこめ、吸い込み空気は埃を洗い流した澄んだもの。徐々に姿を覗かせつつある陽の光が葉を伝う雫を一際美しく照らし出す。ぬかるんだ大地なんて気にもならない。生命の祝福を受けた森は濃厚な生のエネルギーを感じさせた。#空想紀行

2014-07-29 20:22:44
翠寿 @suizyu329

21。辿り着いたのは鉱山の街ボルドー。エネはここの鉱山の上層で採れる水晶に音を入れ、商品とする水晶調律師なるものを仕事としているらしい。アフターサービスもばっちりだそうだ。精霊である彼女がこうして仕事を手に持っているのもこの鉱山の住人と密な付き合いがあるからこそである。#空想紀行

2014-07-30 21:06:06
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