【だって、今気づいたんだよ】東荒♀

荒北さん女体化で東荒♀です。 別名、東堂さん初めての恋の芽生え。
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いちはら @nicowwwouo

【だって、今気づいたんだよ】東荒♀ 東堂尽八にとって女子とはファンである。東堂の一挙一動に歓声を上げ、頬を染める。もちろん全ての女子がそうであるとは言わないが、ズバ抜けて容姿が良い彼の下に寄ってくるのは、そんな女子達ばかりだった。 だがしかし、ここで例外が現れる。

2014-09-26 08:29:06
いちはら @nicowwwouo

@nicowwwouo 彼女の名前は荒北靖友。東堂の所属する自転車競技部のマネージャーである。福富の紹介でつい最近入部してきた彼女は、最初こそ元ヤンだなんだ煙たがれ、どうせすぐに辞めるだろうと部員のほぼ全員が思っていたが、意外にも彼女は良く働いた。

2014-09-26 08:29:39
いちはら @nicowwwouo

@nicowwwouo 面倒くさいが口癖だし女子にしては口調も乱暴だが、周りに気を配りテキパキと働くその姿に、みんな徐々に荒北を受け入れ始め、今では先輩マネージャーからの信頼も厚く、部員達も荒北を大切な仲間だと思っている。もちろん、東堂もそうだ。

2014-09-26 08:30:10
いちはら @nicowwwouo

@nicowwwouo (だがしかし、俺のカチューシャをダサいと言ったのは頂けないな) ついこの前のヒルクライムで出会った玉虫にも同じ事を言われたが、男に言われるのとではショックの度合いが違う。しかも彼女は東堂の、彼曰くキレのあるトークにも文句ばかり言うのだ。

2014-09-26 08:30:38
いちはら @nicowwwouo

@nicowwwouo 東堂もそれに反論するので、彼らは口喧嘩が絶えない。喧嘩と言っても、お互い口にはしなくても認め合っているので険悪なものではないし、仲の良い兄弟がじゃれ合っている感じなので、他の部員も2人が言い争っていても、またあの2人かと流す程だ。

2014-09-26 08:31:04
いちはら @nicowwwouo

@nicowwwouo だからだろうか、東堂の中で荒北は女子というカテゴリーには入っていない。別に男の様に思っているわけではないが、福富や新開と同等の、大切な仲間として荒北は東堂の中に存在していた。 そんなある日の事。 「む、何をしているのだ荒北?」

2014-09-26 08:31:53
いちはら @nicowwwouo

@nicowwwouo 東堂がいつもより遅れて部室に行くと、そこには荒北がいた。 「ア?見て分かんねーのかヨ、掃除だよ掃除!なんかここ埃っポイからァ」 振り向いた荒北の口元はしっかりマスクで覆われている。肩まで伸びた髪はひとつにまとめられていて、手にはハタキを持っていた。

2014-09-26 08:32:58
いちはら @nicowwwouo

@nicowwwouo ジャージの裾は捲られ、白くて細い腕が露わになっていた。小さな踏み台に乗っている彼女は、なるほどロッカーの上を掃除していたようだ。 「つーかお前来るの遅くナァイ?掃除まだ終わってないから、さっさと着替えろヨ」

2014-09-26 08:33:34
いちはら @nicowwwouo

@nicowwwouo そう言って視線をまたロッカーへ向けた荒北が、ビシリと身体を硬直させた。 ひゃ、と小さく声を上げた彼女はそのまま後退そうとして、しかし踏み台に乗ったままの足はバランスを崩し、そのまま後ろへ倒れそうになった。 「っ危ない!」

2014-09-26 08:34:04
いちはら @nicowwwouo

@nicowwwouo 間一髪のところで東堂が抱きとめる。 ふわりと、甘い香りが東堂の鼻を掠めた。 「だ、大丈夫か?一体どうしたのだ」 その香りと、抱きとめた身体の細さと柔らかさに何故かドギマギする東堂だったが、荒北の様子がどうもおかしい。肩が僅かに震えている。

2014-09-26 08:34:26
いちはら @nicowwwouo

@nicowwwouo 「荒北…?」 後ろから顔を覗き込むと、荒北の視線はある一点に集中していた。顔は青ざめ、冷や汗もかいている。 本当に荒北は突然どうしたのだろうか。東堂も彼女の視線の先に目を向けると、そこに奴はいた。 「なんだゴキーー」

2014-09-26 08:34:56
いちはら @nicowwwouo

@nicowwwouo ブリではないか。という東堂の言葉は、荒北の「その名前を口に出すんじゃねぇ」という地獄の底からの様な声によって遮られた。 ということは、つまりそういう事だろう。 (ゴキブリが怖いとは、意外と荒北も可愛いところがあるじゃないか)

2014-09-26 08:35:20
いちはら @nicowwwouo

@nicowwwouo 何か叩くものはないかと部室を見回すと、隅の方に古いサイクル雑誌が積み重ねられていた。 何年も前のやつだし、誰のかは知らないがアレで良いだろう。 東堂が雑誌を取ろうと荒北から手をはなすと、彼女が咄嗟に東堂の制服の裾を掴んできた。

2014-09-26 08:35:47
いちはら @nicowwwouo

@nicowwwouo 「すまんが荒北、奴を退治するためにそこの雑誌を取りたいのだ。手をはなせるか?」 出来るだけ優しく声を掛けると、荒北は猫の様な素早さで東堂の後ろにまわった。早くしろヨと言いながら東堂の制服の裾を掴んでいる姿は普段とのギャップもあるせいか何とも可愛らしい。

2014-09-26 08:36:36
いちはら @nicowwwouo

@nicowwwouo 「ああ、すぐに済ませてしまうから、荒北はそこで大人しく待っていると良い」 東堂は微笑むと、自身の制服の裾を掴んでいる荒北の手をそっとはなした。 そして安心させるように彼女の頭をひと撫ですると、素早い動きで奴の討伐に向かったーーーー

2014-09-26 08:37:05
いちはら @nicowwwouo

@nicowwwouo 「わっはっは!まさか荒北がGが苦手とはな!」 無事Gを仕留め後片付けまで済ませると、部室には東堂の高笑いと荒北の怒鳴り声が響いた。 「ッセェ!目の前に突然Gが現れたらビックリすんだろーが!つーかアタシ出るからァ!30秒で着替えろヨ!」

2014-09-26 08:37:27
いちはら @nicowwwouo

@nicowwwouo 30秒は無理だろう!という東堂の叫びを背に、部室から出ようとする彼女が、ふいに立ち止まった。 振り向いて、マスクを外した彼女の顔は若干紅い。 少しバツが悪そうなその表情に、何故だか東堂の心がざわついた。 「ぁ…」 彼女が小さく口を開く。

2014-09-26 08:37:50
いちはら @nicowwwouo

@nicowwwouo 「ありがと…ネ」 きっと照れているのを隠すためのわざとらしい不機嫌な表情。東堂と目を合わせようとして、でも照れてなかなか合わない視線。紅く染まった頬。そして小さかったけれど確かに聞こえたお礼の言葉。 東堂の心臓に、トスンと何かが刺さった音がした。

2014-09-26 08:38:13
いちはら @nicowwwouo

@nicowwwouo 「…っ早く着替えて練習行けバァカ!」 照れ隠しにそう叫んで、荒北は今度こそ部室を出て行った。 彼女の姿が見えなくなったその瞬間、東堂は顔を真っ赤にしてその場にしゃがみ込んだ。 心臓がバクバクとひどい音を立てている。東堂は堪らなくなって片手で顔を覆った。

2014-09-26 08:38:48
いちはら @nicowwwouo

@nicowwwouo 思い出すのは、彼女の甘い香りと、触れた柔らかさ。分かっていたが、荒北はちゃんと女性なのだ。 「……クソ…」 怯える表情も、裾を掴む手も、赤らんだ頬も、照れて悪態をつくそれさえも 「あんなに可愛いなんて、反則だ…」

2014-09-26 08:39:17
いちはら @nicowwwouo

@nicowwwouo どうして彼女の表情や仕草に胸がざわついたのか。どうして他の女子と彼女をわざわざ区別して考えていたのか。 そんなの少し考えれば分かる事だったのに。 「クソ…何だあのお礼…可愛すぎる…」 自覚した途端彼女への愛しさが溢れてきて、何だかもう泣きそうだった。

2014-09-26 08:39:52
いちはら @nicowwwouo

@nicowwwouo しかも東堂の記憶する限り、これが彼にとって初めての恋である。 未だ激しく脈打つ心臓と、次から次へと溢れてくる彼女への気持ちに、きっと彼女が遅いと乗り込んでくると分かっていても、初めての恋の衝撃に東堂はしばらく立ち上がる事ができなかった。 end

2014-09-26 08:42:01