#思想史たん公開読書会『不毛な憲法論議』

東谷暁『不毛な憲法論議』(朝日新書)の第9章「人間にとって法とは何か」を中心に日本人にとっての憲法とはどうあるべきかを近代西洋法思想史の流れを敷衍して考察します。
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政治思想Bot @Seiji_shiso

コミンズ=カーらによるこれら一連の判決に異議を唱えたのが、ウェッブ、ベルナール、レーリンク、そしてパールだった。例えばパールは事後法的手続きを批判し、ベルナールは東京裁判を否定しつつも自然法によって侵略戦争そのものを罰するべきだと主張した。 #思想史たん公開読書会

2014-06-23 19:44:04
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こうして戦後の国際法システムはケルゼンの法実証主義が大きな影響を持ち、法実証主義的な推論によって新たな法秩序を仮設できるようになった。最も法理論が純粋に論じられる国際法の世界において表向きは法実証主義を謳いながら背後にあるグレートパワーによって法理論すら捻じ曲げられてしまう。

2014-06-23 19:44:48
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国内法は自国の憲法によって法解釈を守ることが可能だが、国際法は強国の圧力を介して変えることが可能である。そして今、国内法もグローバリズムの名の下に強国の都合に辻褄を合わせられようとしている。むしろ国内法の要となる憲法はこうした法的な普遍主義とは距離を置くべきではないのか。

2014-06-23 19:45:26
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事実、戦後の法思想の世界ではケルゼン的な法実証主義に対する批判が萌芽する。まず法実証主義は道徳や倫理と乖離してしまうという指摘がなされ、どのように法実証主義を克服するかという、いわば「自然法ルネッサンス」が始まった。 #思想史たん公開読書会

2014-06-23 19:46:21
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かつて法実証主義の立場をとっていたが、ナチスの台頭に伴いハイデルベルグ大学教授の地位を追われた経緯を持つドイツの法学者グスタフ・ラートブルフは「悪法もまた法なり」とする法実証的思考がナチスを肯定することに繋がったとし、戦後は道徳を擁護する自然法に接近する。

2014-06-23 19:48:23
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古典的自由主義で知られるフリードリヒ・ハイエクは社会を法体系そのものと看做す法実証主義を理性の濫用だと非難した。彼は「法(ノモス)」と「立法(テシス)」を峻別し、法とは長年の歴史において自生的に成立したものでなければならないと説き、彼にとってそれこそが本来の「法」なのである。

2014-06-23 19:50:13
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イギリスにはベンサムやオースティンによってドイツとは異なる法実証主義が展開されていたが、この傾向は自然法が誤謬であると考えたことに端を発するものであり、「法とは主権者による人民への命令である」と説明するオースティンに見られるように神や自然法を前提としない法的思考が存在した。

2014-06-23 19:51:36
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この主権者命令説を修正し、法を「ルール」と捉えて法実証主義をより洗練させたのがハーバート・ハートである。ケルゼンが法体系を抽象的で自律したものとして「仮設」するのに対し、ハートは法という「ルール」が具体的な事実問題であるとして論じようとした。

2014-06-23 19:54:05
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また亡命前のケルゼンは実定法を重視し事後法的判決は危険だと主張したが、アングロサクソン法の伝統の中で学んだハートは裁判官に法を創造する裁量の権限を認めていた。一方で両者は法と道徳の結びつきを否定する点で一致する。ハートにとっても「道徳的に邪悪なルールもまた法」なのである。

2014-06-23 19:55:26
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この一連の法実証主義隆盛の風潮に一石を投じたのが、アメリカ人法哲学者ロナルド・ドウォーキンである。彼はリッグス対パーマー事件において裁判官が法実証主義の言う「ルール」を超えた「原理(プリンシプル)」を発見することにより法体系と国民の道徳観からして妥当な判決を下せるのだと論じた。

2014-06-23 19:57:02
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本件は祖父の遺産目当ての殺人事件で、加害者の孫が遺産相続の権利を喪失するかが争われた事件であった。当時、殺人を犯した者が遺産を受け取ることを禁ずる法律は存在しなかったが、「悪をなしたものがそのことで利益を得てはならない」という「原理」を持ち出すことで加害者に相続を認めなかった。

2014-06-23 19:59:01
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もし法実証主義的思考に従えばこの「原理」は裁判の際の考慮の対象とならず、法が道徳と切り離されたルールであるとすれば加害者は祖父の遺産を相続していたであろう。そのような「悪法もまた法」であるからである。 #思想史たん公開読書会

2014-06-23 19:59:53
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戦後の法思想史は法実証主義と対決することで二つの重要な論点を見出してきた。一つは法と倫理・道徳との関係を適切に見出していかねばならないこと。もう一つが法の運用とは条文そのものの適用ではなく「解釈」によってその背後に「原理」を見出すものだということ。それが憲法の場合は決定的となる。

2014-06-23 20:00:53
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ドウォーキンはアメリカ独立宣言の生得的権利から例題を取っているが、東谷は日本の場合には「日本の自衛隊法が軍事的脅威から本気で守ろうとしているか」と言う問題を入れて考えても良いとする。逆に言えば憲法はこの問題を説くための倫理・道徳的な原理を持つ体系を必要とするからだ。

2014-06-23 20:01:59
政治思想Bot @Seiji_shiso

政治に関わるような問題について判決を下す際には、裁判官は哲学者にならざるを得ないのであり、その時の状況で正当化できる解釈を引き出すことになる。そもそも何らかの形で政治的なハードケースが生じた際に、ファンダメンタルに考えて国家自体が存続できない憲法解釈はありえないはずである。

2014-06-23 20:02:39
政治思想Bot @Seiji_shiso

法実証主義を批判して倫理や道徳を視野に入れて論じようとする限り、神や自然を前提とする自然法思想に戻るのでないならば、過去と未来を結びつける解釈学に依拠することとなったのは当然だと言えるだろう。 #思想史たん公開読書会

2014-06-23 20:04:26
政治思想Bot @Seiji_shiso

しかし彼は権利の新しい解釈には熱心でも過去と現在を繋いで歴史的な経緯を重視するという方向には行き着かなかった。アメリカの歴史を基礎に論じるせいなのかもしれないが、伝統的な共同体の価値観を重視する、という思考は希薄だったのである。 #思想史たん公開読書会

2014-06-23 20:06:21
政治思想Bot @Seiji_shiso

東谷はこれからの日本国憲法の論じられ方について、従来のような自閉的で欺瞞的な議論の枠組みを脱却すべきであると主張する。象徴天皇制度について語られる際、議論の共通の枠組みが無いために論者によって全く異なるそれが論じられているのだ。では象徴天皇制度の適切な解釈とは何だろうか。

2014-06-23 20:07:35
政治思想Bot @Seiji_shiso

坂本多加雄は『象徴天皇制度と日本の来歴』で日本人がどのように天皇を語るべきかについて人が自らを他人に理解させようとすれば自らの生い立ちやその後の人生を語るのと同じく、日本の現在を自国民が理解し他国にも理解させようとするならば日本と天皇のこれまでの来歴を語る他ないということだった。

2014-06-23 20:08:20