#思想史たん公開読書会『不毛な憲法論議』

東谷暁『不毛な憲法論議』(朝日新書)の第9章「人間にとって法とは何か」を中心に日本人にとっての憲法とはどうあるべきかを近代西洋法思想史の流れを敷衍して考察します。
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政治思想Bot @Seiji_shiso

坂本の言う「目下の人生や社会に対して実践的態度や方針を取るに至った理由」である来歴とは本人にとって成功物語とは限らないが、語る本人にとっては否定できない貴重な物語となる。そこには栄光もあったかもしれないが、辛い試練もある。そのいずれをも含む来歴は他人を説得し自らをも支えてくれる。

2014-06-23 20:11:24
政治思想Bot @Seiji_shiso

第2次世界大戦の敗北は日本の来歴にとって大きな挫折であり試練だった。しかしその原因を天皇のせいにするのは、天皇が戦争の決断を直接下したわけでもなくたとえ下そうとしても不可能だったことを考えると無理筋だろう。 #思想史たん公開読書会

2014-06-23 20:13:00
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逆に政治的決断を下せない天皇制度を変革してしまえと試みた226事件のクーデターの試みも失敗している。むしろ明治時代以降の天皇制度においては武力行使に対して天皇言動は間接的ながら抑止として働くことのほうが多く226事件の昭和天皇の言動においても終戦決定への過程を見ても明らかだろう。

2014-06-23 20:14:19
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基本的人権の条項について東谷は戦前の欧米憲法には「基本的人権」の言葉すらなく、戦後に書かれたドイツ基本法も基本的人権ではなく「基本権」とだけ記されていることに敷衍し、それが戦後的な性質とアメリカ独立宣言・フランス人権宣言を基礎としたポツダム宣言の申し子的存在であることを指摘する。

2014-06-23 20:15:51
政治思想Bot @Seiji_shiso

特に「国民の権利及び義務」においてアメリカやフランスの革命によって登場した基本的人権を規定におくという発想は極めて不自然だ。根底にある宗教的伝統についても日本文明がキリスト教文明であるとは言いがたく、市民革命における価値観を日本人が直接体験したわけでもない。

2014-06-23 20:17:37
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そして戦後70年余りの間においても欧米的な権利感覚が日本人に身についていないことをリベラル派の法学者がしばしば「日本人の法意識は未発達だ」と指摘するが、そもそも根が違う以上、そうなるのは必然だろうと東谷は言う。 #思想史たん公開読書会

2014-06-23 20:19:11
政治思想Bot @Seiji_shiso

それゆえ、これからの日本における権利と個人の尊重の議論は日本の倫理思想の重層的な蓄積に立ち返る形でなされるべきだろう。そこには古来の美的感覚に支えられた倫理観や、渡来してきたものではあるが十分に日本化された仏教の慈悲の観念によって日本人の人権を解釈することが出来るのである。

2014-06-23 20:19:53
政治思想Bot @Seiji_shiso

日本社会の中に歴史的に育まれてきた人間の尊厳に対する重層的で長期にわたる思想についても、和辻哲郎の『日本倫理思想史』によれば神話時代や上代から始まり、律令制度による「人倫的国家」の試みを一つの起点として論じ、仏教による慈悲の移入があり、武士の隆盛に伴う「正直」の尊重へと至る。

2014-06-23 20:29:00
政治思想Bot @Seiji_shiso

更に江戸時代の儒学や国学の展開を描き、神道との対決を記述した。同書の元となった「尊王思想とその伝統」という研究から、和辻は天皇に対する尊崇が皇室への敬意が日本の国民における倫理思想にいかに大きな影響を与えてきたかを論じている。 #思想史たん公開読書会

2014-06-23 20:32:44
政治思想Bot @Seiji_shiso

近代以降、日本が権利という概念を翻訳によって受け入れ、人権について詳細に論じられるのは日本人の歴史を通じての重層的な倫理形成があったことを踏まえて、憲法について考える際には歴史的概念としての国民を念頭に置く限り、日本史の中で生まれてきた権利や人権についても意識しなければならない。

2014-06-23 20:41:14
政治思想Bot @Seiji_shiso

人権を支える観念についても仏教における慈悲の観念の解釈を検討している。浄土宗において弥陀の本願である「ちかひ」が登場したことを指摘し、西欧の倫理思想に流れ込む「打算的な」契約観念との対比に及んでいる。和辻は社会制度と倫理制度の交錯を長い日本史において鳥瞰したのである。

2014-06-23 20:36:18