【ただ一度の永遠・番外編】ヒーロー

弱虫ペダル二次創作 荒北逆行話・番外編 東堂VS宮本話 その2
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ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 負け惜しみとかではなく、本当にこの人はそう思っているのだろう。 「あんた、まだ28でしょうが」 「そうだよ。君の一つ上ね。僕は高卒で竹下入社だから、君の大先輩だけど」 「……わかってます」 「あ、見えてきた、ほら、あそこがスタート地点だ」

2014-08-17 12:07:09
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon すでに明日の準備をする人々がせわしなく行き交っているし、どこのチームのテントも立ち上がっている。 「予選勝ち抜いた20チームだっけ?」 「いや、何か記念大会とかで、招待チーム枠2で22チームらしいっすよ、今年だけ」 宮本はパンフレットをめくる。

2014-08-17 12:09:21
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「じゃ、オレ、ハコガク覗いてきます」 「バカ、差し入れくらい持って行け!」 「え?」 「え?じゃねえよ。OBなんて差し入れもってこなきゃ、ただの邪魔者だろ!」 「……差し入れって何持ってけばいいんっすか?」 「無難なとこで、ポカリかアクエリだろ」

2014-08-17 12:18:03
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon これくらい、社会人の常識な、と言うと宮本はこくと恥ずかしそうにうなづいた。 「そっちの一本裏の方にドラッグストアがあっから。粉の方が使いやすい。ダンボール一箱でそれほど重くねえから」 「はい」 「おまえ、寄付とかもちゃんとしてる?」

2014-08-17 12:23:01
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「あ、それは何か親がしとけっていうから」 「……高校の時に育ててもらった分、後輩に返す、これも常識。わかったか?」 「はい」 笹屋自身は母校のIH出場が決まったときに、それなりの額の寄付とカートン単位でスポーツ飲料を届けさせている。

2014-08-17 12:25:26
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon ハコガクのような名門と違って、彼の母校はそれほど強豪校というわけではなく、自転車というマイナー競技は寄付が集まりにくい。 一番のネックは競輪と混同されて、何だかよくないものという勝手なイメージを植えつけられてしまっているところだろう。

2014-08-17 12:26:33
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 結局、何だか不安だったので、笹屋も共に箱根学園のテントに顔を出すことにした。 笹屋はOBではないが、宮本の同僚として一緒に行っても不自然はまったくあるまい。 何で自分は、宮本の子守のようになっているんだろうと思いながらも、見捨てないのが笹屋だった

2014-08-17 12:31:54
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon ハコガクのテントは、何かの作業中なのかせわしなく人が出入りし、活気づいていた。 「あー、OBの宮本なんだけど、監督か顧問いる?」 「あ、お疲れさまっす。監督と顧問は、ホテルの方で打ち合わせに出席しています」 「えーと、じゃあ、部長は?」

2014-08-17 12:35:29
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 宮本の事を知っているのかわからないが、一年生とおぼしき少年が直立不動で答える。緊張しているのが目に見えてわかる。 「能登、あっち黒田が呼んでる。客?」 「あ、荒北センパイっ、あの、OBの宮本さんです」 「わかった。ここ、いいから。黒田、頼む」

2014-08-17 12:39:58
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon ひょこっと現れたその姿に、笹屋と宮本は絶句した。 彼らに絶句する以外の何ができただろう。 さっきまで話題にしていた人物だった。 噂をすればカゲというのは本当だな、と笹屋は思い、いやいや、違うからと、ひとりつっこみひとりボケを繰り返す。

2014-08-17 12:41:47
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 自身では自覚はなかったとしても、パニックだった。 そもそも、これがパニックにならずにいられる理由が知りたい。 「……ども、どうしたんですか?ササさんと宮本さん」 宮本は石像と化し微動だにしない。 気持ちは笹屋にもよくわかった。とてもよくわかった。

2014-08-17 12:43:26
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon だが、わかったからといって、自分まで石像になっていたら話が進まないのである。 「やっくん、あのさ……」 「はぁ」 「あのさ、なんでここにいるの?」 バカな質問をしていることはわかっている。わかってはいるがきかずにはいられない。

2014-08-17 12:44:47
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「選手だから」 あっさりと荒北は言った。 「あれ?オレ、ラインで言いましたよね?試合で遠征だって」 「……ああ、うん。そうだったね」 確か、荒北と東堂が遠征にどこの梅干をもっていくかで真剣な議論をしていたはずで、直接話せおまえら、と行平が〆ていた

2014-08-17 12:50:39
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon その試合がIHで遠征先が広島だと知らなかっただけである。 「っていうか、荒北、おまえ、高校生ーーーーーーーーっ」 「そうっす」 こくり、とうなづく。 「ありえねえ!ありえねえだろ!」 「別に年齢査証じゃねえっすけど?」 「もしや、まだ10代?」

2014-08-17 12:52:35
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「もちろん」 「ありえねえ、ありえねえ、じゃあ何だよ、オレ、高校生に負けたのか?」 再起動を果たした宮本は、まだエラー中らしく、ふるふるとクビを横に振ってぶつぶつ呟いている。 「あ、そっか……」 荒北がふと気付いた、という表情を二人に向けて言った

2014-08-17 12:55:04
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「カントクが言ったんですよ。舐められるから、実業団の人間には年齢内緒って」 「……そうなんだ」 「いつ教えたらおもしろいかなって言ってたけど、結局、言うの忘れてたんですね、あの人」 らしいなぁ、と荒北は屈託なく笑う。 「あ、これ、宮本からね」

2014-08-17 12:57:01
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon まだ復旧していない宮本の足元に落ちたダンボールを、ぱたぱたと払い、その手にわたす。 「あざーっす」 背筋の伸びた礼は気持ちの良いものだ。 「しょーじき、どんだけあっても足りねえから、スポーツ飲料とかって。すげえありがたい」 「だよね」

2014-08-17 12:59:02
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 箱根学園のジャージに身をつつんだその姿は、飄然としていながらも、どこか独特の雰囲気がある。 「えーと、やっくん、3年生?」 「いや、2年っす」 「そっか……ねえ、もしかして、最初にあったとき、中学生だった?」 「そうですけど」 荒北はうなづく。

2014-08-17 13:01:51
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「うわぁ……これは、マジで山下さんにヤラれたわ」 「よくわかんねーけど、カントクは驚かせるの大好きだから」 「うん。それはわかってるんだけどね」 (……あー、ぱちくんがあそこまで邪険にするわけだ。未成年の中学生に執着する成人男子……危なすぎる)

2014-08-17 13:03:52
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「あれ、ぱちくんは?」 「尽八は、今……」 「靖友、コースの下見……こんにちは。なぜ、ササさんがここにいるのだ?」 「OBだって」 「ササさんが?違うだろう?ササさんはここ広島の……」 「ちげーよ、そっちが」 「そっち?」 表情が一変した。

2014-08-17 13:05:44
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 一瞬にして臨戦態勢にはいるところはさすがだった。 が、様子がおかしいことに気がつき、肩の力を抜く。 「これ、宮本さんから」 「そこのOBからだな。わかった。……何か言ったのか?」 「いや、俺が高校生だってことをまだ知らなかったらしくて」

2014-08-17 13:10:09
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「そういえば、カントクが俺にも内緒にしろと言ってたな」 「何かそれがショックだったみたいで」 「そういえば、中学生につっかかって負け続けてたもんな」 「ぱちくん、もうちょっとお手柔らかに」 「いや、だって、他に言いようがないと思うんだが」

2014-08-17 13:13:02
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon ササさんが言うのならちょっとは考慮したいと思うのだが、言葉の選びようがないだろう、と真顔で言う。 「差し入れはありがたくいただくぞ」 相手が宮本であってもそういうところがきちんとしている東堂は深々と頭を下げる。 (ほんと、よくデキた子たちだよ)

2014-08-17 13:17:28
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 宮本よりもずっとずっと大人である。 「えーと、ササさん、申し訳ないが俺と靖友は最終の下見に行くんだ」 「あ、こっちは大丈夫。ここにいても大丈夫かな」 「一応、後輩達には言っておくし、監督と顧問にも連絡を入れておくから」 「うん。よろしく」

2014-08-17 13:26:34
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「それが復旧したら、後輩達に声をかけてもらえれば嬉しい。俺にとってはただの天敵だが、後輩達にとっては憧れのヒーローだからな」 「……これが?」 「うん」 「……僕らには、君達の方がよっぽどヒーローだと思うけどね」 その言葉に東堂は笑った。

2014-08-17 13:28:44