- FiveHolyWar
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扉を抜けた先に見たのは、どこかのてっぺんのようだった。辺りを軽く見回す。 遮蔽物はまず無い。自分の使った扉が音もなく消えるのを感じ取りながら、見回す。 「あの岩ァ……足場にできるかねェ」 ばさりとボロボロの翼を広げて、時折吹く強い風に灼熱の髪を揺らす。
2014-09-28 18:12:19「さァて、アタシの相手をしてくれるのは……テメェか?」 くつりと喉を鳴らす。遮蔽物の無いこの広いとも言えぬ場所。風に靡く金を見やり、色違いの瞳をぎらつかせた。
2014-09-28 18:13:53扉が消える。慈雨の勇者は、閉じていた目をゆっくり開いた。 「これは……」 高い。塔の、上だろうか。丸くなったその場所を縁取るように、あまり高くはない煉瓦の壁がある。 「簡単には、落ちなさそう。それに……ものがないのは、好都合かしら」 ちらりと、まばゆいほどの赤を見遣る。
2014-09-28 20:31:16長身の女が、ふたり。片や勇者、片や、魔王。 「そのようね」 それだけ言うと、女はまた目を閉じた。こつり、杖が床を叩く。 同時に、あたりが濃い霧に覆われはじめた。
2014-09-28 20:38:29「勇者サマって奴ァ、女神サマに遣わされたクセして名乗りもあげねェのか」 口の端を釣り上げ、嗤う。 「いいけどなァ、別に」 風の中に漂う灰に指先に灯した火が伝播していく。それは周囲の塵芥すらも灰へ変えて広がり続け、瞬間的に周囲の温度が跳ね上がる。
2014-09-28 22:28:15「アタシの焔に敵う奴なんて、どうせいねェんだからよォ」 ボロボロの翼を強くはばたかせる。空へ跳び上がることはしなかった。どうせ長くは飛べないし、この翼では避けることも一苦労どころか直撃を受ける可能性だって考えられる。 「さっさと死ぬか、ゆっくり死ぬか、選べよ。ニンゲン」
2014-09-28 22:30:10その傲慢な物言いは正しく『ニンゲン』の考える魔王の姿であるだろう。異形の翼をはばたかせ、色違いの赤を殺意にぎらつかせる。伝播する火は赫焉の周りへ集束し、漂う。 「群れるだけしか脳のねー虫ケラが」 小さく吐き捨てる。群れてより弱きものを虐める。ギリリと奥歯を噛んだ。
2014-09-28 22:34:09霧の中から声がした。 「あなたか私のどちらかが死ぬのに、名前が必要?」 ひどく投げやりな声。霧はどんどん濃くなっていき、お互いの姿も見えないほどに。 「それでも……名乗ることを女神さまは望んでおられるのかしら」
2014-09-28 23:20:24空気が熱くなる。火のにおい。何か燃えているのだろう。 「慈雨の勇者、フィオナ。……そうね、死は選びたく、ないわ」 霧で視界は閉ざされている。 目を閉じたまま、慈雨の勇者は小さくつぶやいた。 「火……なら、水で、消える」
2014-09-28 23:28:01「よくわかんねェが、つまりは水ってコトだな」 声は弾む。体温が上がる。辺りの霧が冷たいのかどうかすら、その身で判断はつかない。伝播する火の勢いが衰えない。 湿り気を帯びることなく灼熱の髪はただ吹き荒ぶ風に揺れる。一際強く吹いた風に合わせ、火はじぐざぐと複雑な軌道を描いて、
2014-09-28 23:45:26慈雨の勇者へと向かっていく。その中には赫焉から離れたが為、湿り気を帯びて消えるものもあるだろう。 ただひとつ、大きく盛る黒赤の焔だけが、その身を焼こうと迫る。 「舐めるンじゃねェぞ、ニンゲン。アタシの焔はただの焔じゃねェ。この世界の偉大なる精霊サマの焔だッ!!」
2014-09-28 23:48:49炎が濃霧をかき消すように迫る。 慈雨の勇者は杖を手に、それを避けるように動いた。 「あつい」 熱気が身体を掠める。 障害となるものがない今、杖にはほぼ頼ることなく動けはするが、このままでは炎に追いつかれるのも時間の問題だろう。
2014-09-29 00:15:50頬を伝う汗が、地面に落ちて。 それはみるみるうちに水たまりとなった。 魔王が放つ焔の先、慈雨の勇者の目の前、どんどん面積を増やしていく。 「水で、消えるはず」 水たまりはやがて波打ちはじめ、意志を持ったかのようにうねりだした。 勇者の前に、壁をつくろうとするかのように。
2014-09-29 00:21:11「チッ」 掠めたような感じはあった。黒赤の焔が一度、赫焉の元へと返る。サイドの髪を一房、燃やして灰にし、くべるように自分の周囲に振り撒いた。 「テメェの場所はわかってンだ」 そろりそろりと足を運ぶ。自分の背後、低い壁際にヒールがぶつかり、かこんと鈍い音が鳴る。
2014-09-29 01:18:51「せぇのォッ!」 そのまま勢いよく、上に向かって跳んだ。翼を羽ばたかせ霧が覆う前に確認した岩場へ跳躍するように飛んで、その上に立つ。 赫焉が乗ってなお、その大岩は落ちるような素振りを全く見せることはない。 「テメェの水もタダ水じゃねェんだろうが……」
2014-09-29 01:23:14「アタシの焔に耐え切れるほど、強ェとは思えねェなァ!!」 敵を舐めているワケではない。おつむが弱いなりの煽りだ。これに乗ってくるような敵だと侮っているワケでもない。寧ろ乗って来ないなら来ないで、上等だ。 腰元に提げていた小さな麻袋の中身を宙に零す。
2014-09-29 01:26:25「燃えッ!!! ちまえッ!!!」 咆哮と共に吐き出された焔は、風に乗って散った灰に伝播し決して広くない足場へと殺到する。小さく弱いものは霧程度に消され、また波打つ水たまりに消火されたものもあるだろう。 「ッらあ!!!!!」 それは投げつけるように放たれた、黒赤の焔球。
2014-09-29 01:28:52灰から灰へそれは伝播し先程とはまた違う、じぐざぐとした軌道をなぞり辿り落ちる灰を吸収し勢いを増していく。 赫焉はと、言えば。それを見てにぃと口角を釣り上げ、大岩を蹴り自分の放った焔の落ちる広場の中へと舞い戻る。その意図は勇者に直接、拳を叩きこもうとするもの。
2014-09-29 18:55:12「テメェは!!」 まるでドラゴンのような、炎を吐き出しながらの咆哮。カッとヒールを鳴らす。地面に足がついたその瞬間、瞬く間にそれは燃え尽き灰となり、赫焉の周囲を漂いながら焔となった。 「アタシが!!」
2014-09-29 19:00:30駆ける。石造りの地面は容易くその素足に傷を付ける。薄く付いた傷口から炎が一瞬散った。 「ぶんッ殴るッ!!!」 まだ濃い霧の中、かすかに感じる熱を頼りに勇者へ距離を詰めていく。大きく振りかぶった拳は、がむしゃらに勢いのまま、慈雨の頭を殴りつけようとするだろう。
2014-09-29 19:03:42落ちるそれは、焔の雨か。 あまりの熱量に、慈雨の勇者は目を開ける。 途端に霧が消え去り、開かれた視界には焔球と、舞い降りてきた魔王。 焼き尽くされるか、拳を受けるか。 逡巡の暇はない。→
2014-09-29 19:11:43慈雨が、魔王の目の前に飛び出す。 拳は、頭に当たるだろう。 なるべく鼻や目は避けようと、本能的に目を閉じ顔を背けた。 「ぐ、っ!」 こめかみの上あたりに、魔王の拳が叩き込まれる。勇者はよろめき、倒れた。 同時に、いつの間にか床一面に広がっていた水が、激しくうねりだした。→
2014-09-29 19:12:33勇者は起き上がらず頭を押さえたままだが、水は動き続け、床から浮き上がる。 そして勢いよく噴き出すように、魔王を目指して『流れ』た。 「私の、頭に」 勇者がやっと顔を上げ、口を利いた。 「女神さまが触れてくださったこの髪に、あなたが、触れるなんて」 浮かぶ表情は、怒り。→
2014-09-29 19:41:40「水の刃に切り刻まれればいいわ」 水は勢いを増しながら、対象の周りをぐるぐると回る。 やがて、十分な勢いになったと慈雨が判断したのだろう、相手の身体を切り裂かんと牙を剥くように、刃は赤い魔王に襲いかかった。
2014-09-29 19:41:57「これはテメェらへの罰だ!」 吼える。勢いは削がれることなく慈雨のこめかみ辺りへと叩き込まれた。倒れ伏せた、その一瞬。ぞくりと背中を這ったのは本能から来る寒気だ。 ただの水たまりだった『それ』が浮き上がる。『それ』は赫焉の周囲をぐるぐると回りながら、勢いを増していく。
2014-09-29 21:42:13