四大聖戦:第一戦闘フェイズ【天空塔の間】

抗いしは慈雨の勇者 @JIU_brave 対するは赫焉の魔王 @IgnisSatan
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【聖焔の勇者】アンゼリカ @Feu_5hw

「……ッチ」  ベルトから麻の小袋を落として、逆さにして地面に叩き付ける。灰は煙状に巻き上がり焔を灯した。 「女神女神女神女神女神!! いつもそれだ!! テメェにはテメェの意志ってもんがねェのか!!」  吐き気がする。ぐるぐると自分の周囲を回っていた『それ』が此方に矛先を向けた。

2014-09-29 21:48:56
【聖焔の勇者】アンゼリカ @Feu_5hw

「気持ち悪ィったらねーな」  吐き捨てる。 「だからニンゲンは嫌いだ。自分の信じるモノに盲目的になる。女神がイイと言えばそれはイイヤツ、ワルイと言えばワルイヤツ」  周囲の温度が跳ね上がり足元から灰を伝い焔が広がっていく。 「テキトーな価値観で存在を亡くされたヤツのコトなんか、」

2014-09-29 21:53:25
【聖焔の勇者】アンゼリカ @Feu_5hw

「知りもしねーンだろうなァ!!!」  吼える。それは赫焉の怒りだろうか。穿つ水を避けようと駆け出すも、昂ぶり熱くなった頭が冷静な判断を邪魔する。『それ』は赫焉の肩口を深く抉っていった。 「ニンゲンも女神もクソ食らえ!!!」

2014-09-29 21:58:18
【聖焔の勇者】アンゼリカ @Feu_5hw

灰が散り舞う。起き上がりかけた慈雨の周りに散っていた灰から勢いよく火が噴き出す。温度の上昇は止まらない。 「燃えろ! 燃えちまえ!! 全ッ部!!!」  その拳に握った麻袋が燃える。周囲の灰から焔が移る。極限まで高まった温度が赫焉の身体には心地よかった。

2014-09-29 22:03:44
【聖焔の勇者】アンゼリカ @Feu_5hw

燃え盛る。燃え盛る。灰が風に踊らされ、勢いを増しながらぐるぐると。宙に留まり伝播していく小さな火を集めた黒赤の焔球は、大きさを増す。それは、 「落ちろォ!!!!!!!!」  慈雨の、頭上に。 「そんで、」  熱が高まる。 「くたばれェ!!!!!!!!!!」

2014-09-29 22:05:58
慈雨の勇者 @JIU_brave

慈雨の勇者は目を開けない。その目を開ければ、水を操る力は使えないのだ。 「私の意志よ……女神さまは、私に光をくださった方! あなた達を打ち倒してこの世界を守れば、きっと!」 その先は、言えなかった。 女の白金の髪に火が移り、それを感じ取った慈雨は水の刃でそれを落とす。→

2014-09-29 22:26:04
慈雨の勇者 @JIU_brave

赫焉の魔王を狙い撃った水たちはすべて慈雨の側に流れ移り、広がる焔を消そうと波打つ。 だが、湿り気などものともせずに灰は燃え盛り、やがて巨大な焔球が中空で形成されていく。 慈雨の細い水の刃では、束になっても到底消し止めることなどできないだろう。→

2014-09-29 22:32:59
慈雨の勇者 @JIU_brave

「私、私は、勝って、女神さまに、もう一度」 目をきつく瞑り、祈りを込めて水を操る。 だが焔が勢い良く頭上に落ちる、その一瞬前。 絶叫とともに全身が燃やし尽くされる、そのほんのすこし前に。 「……無理、ね」 慈雨の勇者は、目を開けた。 希望を、棄てた。→

2014-09-29 22:38:20
慈雨の勇者 @JIU_brave

「頭……か」 眩しそうに目を細めて、迫り来る焔を見上げる。 避ける暇はないのに、頭のなかで思考だけが、妙に速く、切り替わる。 「撫でて、」 そこで慈雨の言葉は途切れた。頭から焔に覆い尽くされ、燃える。 この苦しみの中で、叫ぶなと言う方が無理だろう。→

2014-09-29 22:43:21
慈雨の勇者 @JIU_brave

勇者の絶叫は喉が焼けるまで続き、途絶えた。 女には永遠のように思えたであろう責め苦も、実際は一瞬だったのだろう。 慈雨の勇者フィオナが燃やし尽くされたあとには、一滴の水も残ってはいなかった。

2014-09-29 22:46:39
【聖焔の勇者】アンゼリカ @Feu_5hw

「その女神サマの導きで、」  肩口を抉っていた水は翻るように勇者の元へと戻っていく。傷口からは血液のようなものは流れない。ただそこからは、どろりとマグマのように煮え滾る何かが滴り、岩の床に落ちた。 「テメェは死ぬンだ」  大人しくしてりゃ長生きできたかもしれねェのになァ。

2014-09-29 23:07:02
【聖焔の勇者】アンゼリカ @Feu_5hw

「どいつもこいつも、ニンゲンってェのはイカれてやがる」  吐き捨てる。女の呟きは全て聞こえていた。肩口を抑え、手の平に残る灰で押し潰すようにして燃やす。水が残るよりはいい。あれは、赫焉の身体には毒と同じだ。  耳を劈くような絶叫に背を向ける。

2014-09-29 23:11:52
【聖焔の勇者】アンゼリカ @Feu_5hw

「女神の驕りで希望(ゆうしゃ)は死んだ」  傷口を燃やして尚、女が燃え果てるまで水(どく)は赫焉の腕に回っていく。仕方ねェと小さく息を吐けば、肩から先を焼き落とす。 「腕どうすっかなァ」  少量の水でこれか、と不自由な自分の身体に眉を寄せつつ焼き落とした腕を拾い上げる。

2014-09-29 23:17:11
【聖焔の勇者】アンゼリカ @Feu_5hw

「知ってるかァ、女。女神はなァ、自分の言いように動いてくれる奴を見っけたら誰にだって、」  絶叫は既にか細く、それでもなお黒赤の焔の勢いが衰えることはなく。 「望むように、してやるンだ」  所詮、それは神の気まぐれ。自分に逆らわぬ者への戯れ。 「そんなモノのためでも、」

2014-09-29 23:20:29
【聖焔の勇者】アンゼリカ @Feu_5hw

「テメェが、命を張ったンだとしたら」  嘲笑う。灼熱が揺れ、獄焔は眇められる。二本の角を生やし、邪悪な笑みを浮かべたその姿は正しく『魔王』と言えた。 「ゴシューショーサマ、って奴だァ」  残念だったな。嗤い声は天高く響く。

2014-09-29 23:22:26
【聖焔の勇者】アンゼリカ @Feu_5hw

「ッハー、わらったわらった」  一滴の水も残らない『そこ』を赫焉の魔王が振り返ることはなかった。  女神が何を思いニンゲンを『勇者』なぞに仕立て歯向かわせたかなど、赫焉が知るわけがない。  ただもし燃え果てるまでの間、まだあの勇者の耳が聞こえていて、自分の声が届くのならば、

2014-09-29 23:25:21
【聖焔の勇者】アンゼリカ @Feu_5hw

更なる絶望を与えてやろうと思っただけだ。ただの戯れ言だ。事実ではない。真の嘘かどうかもわからないが。 「さァて、帰るか」  片腕を引っさげ宙に漂う灰を従えた赫焉は現れた扉を蹴り開ける。 「アタシが一番乗りだったらあだっちゃん悔しがってくれたりすっかねェ」

2014-09-29 23:29:05
【聖焔の勇者】アンゼリカ @Feu_5hw

「……絶対ェするな。やべ、めちゃくちゃ見てェ。早く帰ろう」  そうして、駆け足で扉の中へと飛び込む。

2014-09-29 23:30:41
【聖焔の勇者】アンゼリカ @Feu_5hw

扉は来た時と同じようにその姿を消した。  すると天空の塔は頂から、音を立てて崩れて行く。宙に浮き不動を保っていた大岩もその浮遊力を失い、落ちていった。  後に残ったのは瓦礫の山と、厚い雲に覆われた空のみだった。

2014-09-29 23:33:56