宮崎駿『風立ちぬ』の演出について

やっとまとめることが出来ました。正直、まとめるつもりも無かったので、断片的な呟きばかりで読みにくいですが…宜しくお願いします。
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武田真悟 @shingo0627

まず、考えなくてはいけないこととして、二郎は菜穂子のことが好きではなかったということを内容論的ではなくて、映画表現としてどう演出されているかということです。「二郎と菜穂子が恋に落ちた瞬間はどこか?」については既にお話させていただきました。なので、今度はそこに至るまで二人について。

2014-10-13 02:50:38
武田真悟 @shingo0627

実は二人はそれまでそんなに会っているわけではありません。まずは、電車で帽子をキャッチした時、地震が起きた震災場面、その後はかなり経って軽井沢で傘をキャッチする時、その後の食堂…そして泉へと繋がっていきますが、よくよく見ていると気付くことがあります。それは人物の配置についてです。

2014-10-13 02:52:46

人物配置

武田真悟 @shingo0627

人物配置に一貫して共通していること…それは、無理矢理にでも二郎と菜穂子の間に人物を入れる「二郎⇔○○⇔菜穂子」という配置です。冒頭の出会いでは、帽子を介した会話は向き合うものの、最後の別れの挨拶は3等車両と2等車両の間で「二郎→お絹→菜穂子」という配置になっていました。

2014-10-13 02:53:36
武田真悟 @shingo0627

次の震災シーンも二郎がお絹をおぶることで「二郎→お絹→菜穂子」(手を繋いで二人きりになるシーンは後述)。 次のパラソルキャッチは、二郎が傘を返すor会話するのは菜穂子の父親で「二郎→父親→菜穂子」。しかも空間的な隔たりもあり、二郎と菜穂子の距離は高低差も含めかなり遠いです 。

2014-10-13 02:56:27
武田真悟 @shingo0627

その次の食堂においては、二郎から菜穂子の間にウェイトレスを行き来させつつ「二郎→ドイツ人カストルプ→菜穂子」。 …と、見てきたようにことごとく二郎と菜穂子の間に何かを挟むように人物配置が為されています。以前、変だ変だと僕が言っていた構図の画も演出のために生じた画面でした。

2014-10-13 02:57:40
武田真悟 @shingo0627

それらはもちろん偶然なんかじゃなく、むしろ意地になってでもやっている感じなんですが、じゃあ、何でそうするのかというと、それは二郎が菜穂子のことを直接「見ない」ようにするため、「見つめ合わない」ようにするためだと僕は考えています。

2014-10-13 03:00:19
武田真悟 @shingo0627

例えば、前述の二人きりになって手を繋ぐシーンでは、二人っきりになったのにも関わらず、二郎は菜穂子のことをただの一度も(!)見ることがありません。菜穂子は無事に家に帰り、家の人に囲まれて、二郎を見つめますが、二郎は見つめ返すこともせず、さっさと戻って走って行くありさまです。

2014-10-13 03:01:58
武田真悟 @shingo0627

宮崎駿のやっていることを、つまり言い換えると、二郎が積極的に菜穂子のことを見つめないようにするために、映画表現としての人物配置を工夫した画面を作り、その結果として、二郎は菜穂子のことを最初から好きではなかったという描写になった…としか考えられないんですよね。分かりますでしょうか?

2014-10-13 03:02:54
武田真悟 @shingo0627

つまり、この映画の主題というのは「見ること/見ないこと」なのだと思うんです…個人的には。だからこそ、二郎は目が見えない人物として登場するわけですしねぇ…。それでも何でそんなことが言えるんだ?と疑問が生まれると思うので、証拠というか、データをちゃんと出そうかなと思います。

2014-10-13 03:06:52

瞳の描き方

武田真悟 @shingo0627

それが「瞳の描き方」です。 以前、少し言及しましたが、この映画では人物の感情が動くと瞳の中の光(俗に言うキャッチ)が2つになるんです。通常はすべて一つです。例えばこちら。夢の中で二郎に飛行機の美しさを語る時のカプロー二ですが… pic.twitter.com/qMixuhvTM8

2014-10-13 03:31:03
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武田真悟 @shingo0627

で、話にだんだんと熱が入っていくとこうなります。。 分かりますか?二つの光。 pic.twitter.com/DJxXetauXP

2014-10-13 03:32:24
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武田真悟 @shingo0627

ちなみにその時の二郎少年はというと…カプローニの「飛行機という夢」にすっかり魅せられていき、見事に光は2つになってます。 pic.twitter.com/crQqr7oYmR

2014-10-13 03:34:46
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武田真悟 @shingo0627

こんなふうにキャラクターの瞳が2つになる瞬間を見ていきます。例えば、お絹は震災の時に二郎「トランクをお願いします」と言われて、この瞳になります。また、黒川は「自主的勉強会」をみて「感動しました」という通り、瞳は2つに。二郎の妹・加代が菜穂子のことを思って泣く時など…

2014-10-13 03:38:22
武田真悟 @shingo0627

こんなことしていてはキリがないのですが、とにかくたくさんありますよね…そりゃ。ということで核心に迫りたいので菜穂子の瞳についてです。こちらは全部あげます。

2014-10-13 03:55:01

菜穂子の瞳

武田真悟 @shingo0627

まずは初めて出会った時、帽子を取ってもらった時ですね。菜穂子は自分でも言う通り、その瞬間から瞳の光は2つです。次がシャツに浸した水をもらう時。その後、軽井沢の食堂で改めて二郎を発見する時。泉の前で泣く時。自宅療養中に二郎が窓から現れて抱き合う時…。

2014-10-13 03:56:07
武田真悟 @shingo0627

サナトリウムで手紙を読む時。駅で二郎に倒れながら抱き合う時。結婚式でこのご恩は生涯忘れませんと言う時。「お仕事をしている時の二郎さんの顔を見ているの、好きなの」と手を繋いでいる時。朝帰りの二郎が「終わったよ。後は飛ばすだけだ」に対して「ご苦労様。おめでとうございます」と言う時。

2014-10-13 03:56:56
武田真悟 @shingo0627

その後「行ってらっしゃい」のキスをする時。そして、最後に「生きて」と言う時… これだけあるんです…たくさん、ありますね。 しかも、そのどれもが二郎に関することです。

2014-10-13 04:00:02

では二郎の瞳は…?

武田真悟 @shingo0627

じゃあ、二郎はどうなんだろうということで調べると二郎もたくさんあるんですけど…その前に菜穂子の瞳の光が2つになっている場面で二郎はどうなっているか見てみます。。

2014-10-13 04:02:12
武田真悟 @shingo0627

二郎と菜穂子が出会うこの場面です。 まずは、引き画。 pic.twitter.com/ULhmSOulZL

2014-10-13 04:04:44
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武田真悟 @shingo0627

で、菜穂子のアップショットです。 この時点でもう既に心の動きが見てとれます。既に好きになっているということでしょうか。 pic.twitter.com/9k8lM1m5C1

2014-10-13 04:07:04
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武田真悟 @shingo0627

その切り返しの二郎のアップショットです。 …お分かりでしょうか?全く心は動いてないんです。。ちょっと恐いくらいに冷ややかな描写ですね。 pic.twitter.com/927m0BKwWs

2014-10-13 04:09:28
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