魔の階 第一次対話 『空虚なる石段の場』

白い石で出来たどこまでも続く階段の途中、円形の踊り場。それ以外には何もない。手すりもないそこから落下しようと、永遠に何にもぶつからないのではと、そう思えるほどに。
0
《山羊》フェジニド @Devil_666_DV

ワインの重みと入れ違いに手のひらに真っ赤な林檎が落とされる。 「物事はすべて良いとこ取りしてこそだとワタクシ思っていますので」 にんまりとした顔のまま女は、息を吸い込んで香りを楽しんでから一口齧って、本日何度目かの仰々しい一礼。 口内に広がる果実の酸味に、一層深くなる笑み。

2014-10-13 00:56:50
《山羊》フェジニド @Devil_666_DV

「《蛇》のアナタに褒めて頂けるものを提供できたのなら至極恐悦」 ひとつ、ふたつ、みっつ 次々に拾い上げては果実にかぶりついては芯すら残さず平らげる。 白い床に散らばる赤を映して楽しげに靴音を鳴らす。 「ええ、ええ。近頃すっかり何かで満たされることなど無かったんですが、これは」

2014-10-13 00:58:24
《山羊》フェジニド @Devil_666_DV

「満たされると同時に次へ次へと欲が沸く。大変不思議な気持ちです――流石は人にとって禁断とされていた果実だけのことはありますね!」 手に滴る果汁も舐めとって女は愉快そうに笑う。 「ふふふ、ふふ。《同胞》殿はきっと呑まれたのでしょうね。 アナタ、貴女である貴方はまだ大丈夫でしょう?」

2014-10-13 01:00:01
《蛇》 @SatanaDio

「無論、無論だよ、レディ。フェジニド嬢。私を舐めてくれるなよ?」 唇を舐める。 「いや、はや。しかし、しかしだね、多少は酔いに身を任せた方が祭りの気分にはなるだろうか」 くつくつと喉を鳴らし、おおよそ十数本目を開ける。ハイペースこの上ない。

2014-10-13 01:38:11
《蛇》 @SatanaDio

「素晴らしい果実だろう! 私のとっておきだからね、気に入っていただけたようで何よりだよ、レディ、フェジニド嬢」 白衣を摘み揺らせばまたゴロゴロと、林檎が転がり落ちる。

2014-10-13 01:38:14
《山羊》フェジニド @Devil_666_DV

「舐めるだなんて滅相もない!」 転がり出てくる林檎を追いかけて女はリズミカルに靴音を鳴らし、その後には酒瓶がまるでそこに最初から存在していたかのように並ぶ。 「どんどん飲みましょう。そしてワタクシ、私も、沢山食べますよ」 もはや丸呑みするかのように女は林檎を食べ続ける。

2014-10-13 03:03:15
《山羊》フェジニド @Devil_666_DV

「貴女な貴方の、アナタサマの林檎。気に入らないわけがないです。非常に、とても、これらがどう転んでも最後なのが勿体無いぐらいにーー」 そこで女はぴたりと動きを止める。 「そう、そうですね、そうなんです、これが最後など勿体無さすぎではないでしょうか、ディオ」

2014-10-13 03:03:23
《山羊》フェジニド @Devil_666_DV

「ワタクシ更に少し欲が出ました。《蛇》のアナタ、あなた様。酔いは少しなら愉快な程度ですむのです」 そして思考も冴えるのだ。 手を翻せば大きな空瓶。そこにワインと、林檎を無造作に叩き割って入れる。そのまま軽く一振り。 「蛇の欲の混ざった宴。宴に混ぜられた蛇の欲」 女の笑い声。

2014-10-13 03:05:38
《山羊》フェジニド @Devil_666_DV

赤い果実に赤いワイン。 どこまでも赤、赤、赤。赤いサングリア。 「飲まなければどちらが強いかも分かりませんが、きっとこれは平行線を辿る私達の着地点になれるのではないでしょうか」 熱に浮かれた眠い金は続ける。 「つまり、どちらも頂けばいいのだと私は主張します」

2014-10-13 03:06:32
《蛇》 @SatanaDio

「ああ正しく、正しくその通りだよレディ」 酒に浮かされたような艶のある声。しかしその音すら態とらしく響く。 「いやはや全くその通りだ。赤い、赤いサングリア。私と貴女の欲が混ざり合った其れは、実に甘美足るモノだろう!」 大仰に広げられた両腕。ワイングラスの中の赤が揺れる。

2014-10-13 04:03:47
《蛇》 @SatanaDio

空になったグラスを揺らして恭しく差し出す。 「お互いがお互いを飲み干すとは、なんと甘美な響きだろうね」 笑みが歪む。愉しげに歪む。

2014-10-13 04:03:50
《山羊》フェジニド @Devil_666_DV

差し出されたワイングラスに赤い液体を注ぎこむ。 「ええ、ええ。すべて混ぜて飲み干してしまえば良いのです」 笑いながら女は自分のグラスにも同様のものを注いでは一口。 すべてを溶かしきってしまうような至上の液体に頬が緩む。

2014-10-13 16:16:36
《山羊》フェジニド @Devil_666_DV

「《蛇》、あなた、林檎のアナタ様」 欲深き液体に笑いながら上機嫌で踵を鳴らす。 その度に大きなガラスの器が現れては赤い液体がなみなみと揺れる。 「もしあなたがこのワインを、そしてこの混ぜ合わせた《欲の宴》を広めてくださるというなら、ワタクシは贄になってもいいかと思うのですよ」

2014-10-13 16:19:14
《山羊》フェジニド @Devil_666_DV

「もちろん林檎だけがいいとおっしゃるならば――道は譲れませんけれどもね」 大げさに肩をすくめてそう告げると女は器に林檎を落としていく。 ワイングラスを持った手にそのサングリアを注いでは飲み干す。

2014-10-13 16:22:32
《蛇》 @SatanaDio

ワイングラスに注がれた赤を見て微笑む。 「成る程、其れはよい考えだ。レディ、フェジニド嬢。貴女の《宴》と私の《欲》。其れらを混ぜ合わせた至上の《酒》。《欲の宴》とはよく言ったモノだ……これを広めぬ手は無いだろう」 一口。二口。喉を鳴らし飲み下す。唇を舐めまた微笑む。

2014-10-13 18:10:57
《蛇》 @SatanaDio

「レディ、フェジニド嬢。もしこの《蛇》に其れを託してくれると言うのなら……私は喜んで引き受けようじゃないか」 恭しく礼をする。柔らかに高かった音は伸びやかに低く。見れば最初に見た男の姿であるだろう。 「《蛇》のディオ、《欲の宴》の為に尽力させていただくと誓おう」

2014-10-13 18:11:00
《蛇》 @SatanaDio

「蛇の甘言とはよく言ったモノだが……なに、これは私の心からの言葉だよ、レディ」 グラスの中の赤は消えていた。 「本当は独り占めしてしまいたいのが本音だがね。レディの提案とあらば、《蛇》である私は飲み込むしかあるまい」 浮かぶ笑みは艶やか。

2014-10-13 18:11:03
《山羊》フェジニド @Devil_666_DV

「ああ、良かった」 大げさに胸を撫で下ろす。 「ワタクシの願い、アナタである貴方の願いと目的。合わさればきっと効果は絶大でしょう! 世に、魔として、魔王としてこれを満たせられたらこの上なく素晴らしい世界になるはずです!」

2014-10-13 23:40:43
《山羊》フェジニド @Devil_666_DV

「しかしお恥ずかしながら、私、ワタクシでは残念ながらこの林檎を作れる自信が無いのです」 芝居がかった仕草で女は互いのグラスに欲の混ざりあった赤をそそいで笑う。 「素晴らしき欲の味。これがなければこの《欲の宴》は出来ぬでしょう」 「だからこれはアナタに託しましょう」

2014-10-13 23:41:11
《山羊》フェジニド @Devil_666_DV

「貴女である貴方、《蛇》のアナタ様が広めてください。そしてその贄になれることを願っておきますよ」 そう言って一気呑みして、にんまりと笑う。 「では最後の最後です、飲み干してしまいましょう! ――まだ、呑めますね?」 嗤って空の酒瓶を転がる空間で腕を広げた。

2014-10-13 23:43:27
《蛇》 @SatanaDio

「ああどうか任せて欲しい。そしてその為とあらば、私は力を尽くすと再度誓おう」 グラスを掲げる。そして嗤う。 「《蛇》の私に言うのかね、レディ、フェジニド嬢」 「無論! 無論まだいけるとも!」 腕を広げる。嗤う。……嗤う。

2014-10-14 00:30:45
《山羊》フェジニド @Devil_666_DV

「何とも頼もしい! 私、ワタクシはとても嬉しいですよ」 カツン! 女は一際大きく鳴らして満足気に嗤った。

2014-10-14 18:45:00
《山羊》フェジニド @Devil_666_DV

――そしてすべてを飲み干し喰らった後。 女は先へと続く階段へとゆるり手を指し示し、帽子を外して一礼。 「よき時間が過ごせました。貴方様が魔の王と為られることを願っております」 眠たげな金の瞳で《蛇》を見つめてニンマリと笑う。 「どうぞ行ってらっしゃいませ」

2014-10-14 18:46:43
《蛇》 @SatanaDio

パチリと指を鳴らせば《蛇》の周囲に転がっていたであろう瓶は影も形無く失せているだろう。 「《欲の宴》の為に!」 一礼。中身を飲み干したワイングラスを掲げ、薄い唇の端をつり上げる。続く階段を見上げ、深緑を眇めたかと思えば、嗤う。 カツリ、カツリと踵を鳴らし、白衣を揺ら揺らす。

2014-10-14 19:29:21
《蛇》 @SatanaDio

「レディ、フェジニド嬢。全く、ああ全くもって良き時間であった。私はこの出逢いを忘れるコトは無いだろう」 振り返ることは無く、カツリカツリと歩みは進む。浮かぶ笑みは嬉しげで、愉しげであった。

2014-10-14 19:29:25