不知火に落ち度はない その22

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yamoto @yamoto

神通と共にそこに向かうと置いてあったのは──剣。 「……これは──艤装、ですか?」 「頼んでる『技術再現』の一品でな」 「技術再現……?」 「この艤装は、艦娘の唯一品を汎用化できないかと試みてるものです」 おやっさん、神通だと丁寧なのな。 #不知火に落ち度はない

2014-10-21 09:59:25
yamoto @yamoto

この鎮守府には居ないが、例えば龍田。 あいつの持ってる艤装の近接戦闘用武器、長刀などがそれに該当する。 何故かあれは他の艦娘だと装備できない代物だったりする。 さらに艤装開発の際に、色々あったらしく今では量産もできない一品物なのである。 #不知火に落ち度はない

2014-10-21 10:01:46
yamoto @yamoto

これは──とある艦娘の持っていた武器をベースに作られている。 海の藻屑と消えた艦娘、天龍の装備していたものだ。 昔は天龍ブレードとか言って揶揄したもんである。 その原理などを親しかったおやっさんが聞いており、今もこうして技術再現に苦心しているのだ。 #不知火に落ち度はない

2014-10-21 10:08:17
yamoto @yamoto

「進捗としてはどうよ?」 「試作二十号がそれだ」 ほう、これが。 長さと形状としては日本刀に近いな。 「神通向けだな、これ」 手を伸ばして見たが、おやっさんからぱしーんとはたかれる。 おうち。 #不知火に落ち度はない

2014-10-21 10:15:23
yamoto @yamoto

「すぐ触ろうとすんじゃねえ。手垢がつくだろ」 「はいはい」 艤装がないと使えないことぐらい知ってるって。 こいつ見た目より数段重いんだし。 「で、だ神通」 「はい……?」 さて、ここで連れてきた理由がある。 #不知火に落ち度はない

2014-10-21 10:16:57
yamoto @yamoto

「ちょいとテストで使ってみねえ? これ」 「……え」 ぱちくりと。 神通が驚いた顔をしてるわけで。 「今すぐじゃなくていいから。そうな、訓練時にでも振って見て欲しいんだわ」 「お願いできませんか、神通さん」 #不知火に落ち度はない

2014-10-21 10:19:37
yamoto @yamoto

「それは……構いませんが……」 困ったように眉根を寄せてる。 まあ、わからんでもない。得体のしれん試作品だしな。 実際、以前にナイフ型も開発したのだが。 不知火が使ってみて、やっぱこれ駄目だ、ってなったのである。 #不知火に落ち度はない

2014-10-21 10:21:25
yamoto @yamoto

高速振動と熱で深海棲艦の皮膚を切り裂く、と、いうところまではよかったのだが。 砲撃一発の方が、簡単に大穴開けられるという結論に至ったのである。 ただ、それを使いこなしていた天龍の場合、砲撃一発よりあのブレードの方がより多く仕留めていたのだから笑えない。 #不知火に落ち度はない

2014-10-21 10:25:53
yamoto @yamoto

艦娘個体による、戦闘能力と言ってしまえばそれまでだが。 うちの基地、接近戦で強いタイプが多かったりするのだ。 ならば使ってみない手はないと考えたのである。 ただし、メスゴリラは除く。 あいつは砲撃以外すんな。 #不知火に落ち度はない

2014-10-21 10:27:57
yamoto @yamoto

上手く量産化できれば、携行装備にできる。 弾切れになっても、戦える手があるのは強い。 「頼むわ。ポテンシャルとしちゃお前がこの基地で一番だと思うし」 「は……はい……っ こ、光栄です……」 もじもじもじもじ。 あれ。肩に手を置くのあかんかったですか。 #不知火に落ち度はない

2014-10-21 10:32:07
yamoto @yamoto

じゃあ手を離そうかと思ったらですね。 逃げた手をぎゅっと掴まれてですね。 「期待に……応えて見せます…っ!」 なんて真っ赤な顔で言われるわけですよ。 ぷるぷるしながら言われるわけですよ。 そのですね。 なんか凄い罪悪感とかきませんかこれ? #不知火に落ち度はない

2014-10-21 10:41:29
yamoto @yamoto

いや、なんとゆーかあれですね。 神通手ぇ以外とちっちゃいんだなーとか。 剣道してるとごつごつしてる事が多いんだけど、神通のは柔らかいんだなーとか。 そう見上げられると視線が反らせないんだよなー、谷間からとか。 そういう気まずさタイム来てますよ今。 #不知火に落ち度はない

2014-10-21 10:49:12
yamoto @yamoto

『そこで気の利いた言葉を言ってみよう!』 おかしいな。川内の幻聴が聞こえるぞ。 ええい悪霊退散。妹を売るな邪悪な姉。 『オススメはご褒美なにがいい? だよ!』 去れ悪魔。 #不知火に落ち度はない

2014-10-21 11:01:38
yamoto @yamoto

と、いうわけで俺は清い生き物ですということを示すため、表情を緩め。 取られた手はそのままに、もう片方の手でぽん、と頭に手を置く。 「期待してる」 きゅっと、手に力込められた。 あらあらちょっと奥さん? ここで手を離して貰えるはずでは? #不知火に落ち度はない

2014-10-21 11:13:16
yamoto @yamoto

「おめえ、いつまでいちゃついてんだ」 ごす、と尻に蹴り入りました。 マジ痛いんですけどおやっさん。 それで正気に戻ったのか、神通は手を離し、2mほど素早いもじもじ後退という荒技を披露。 何か凄いの見た。 「…しし…しつれい……しました…」 #不知火に落ち度はない

2014-10-21 11:22:03
yamoto @yamoto

「ったく、お前もう三十路だろうが。娘っこ相手に鼻の下伸ばしてンじゃねえ」 「身を固めろと申しますかこのクソおやじ」 「いねえだろそんな相手」 「涙の数だけ強くなりたい」 おやっさん容赦ねえ。 部下の前でそういうこと言うのやめて。 #不知火に落ち度はない

2014-10-21 11:30:04
yamoto @yamoto

「……。あ、あの……」 くいくい、と袖を引っ張られる。 おっと悪い神通。ンなくだんねー話してたんじゃなかったわな。 「おやっさん、早速パッケージング頼むわ。神通の艤装に試作二十号とのリンク接続。時間は──」 「……あ、いえ……その」 #不知火に落ち度はない

2014-10-21 11:33:36
yamoto @yamoto

うん、知ってる。緊急時でない限り、お前急かさず待ってくれるんだよな。 でも、それじゃあかんのです。 「最低でも明朝06:00までに」 「はいはい。それまでに承認書類用意しろよ」 うん。知ってる。 「ほい、書類。おやっさんのハンコ1個で終わるぞ」 #不知火に落ち度はない

2014-10-21 11:38:07
yamoto @yamoto

「抜け目ねえ奴だな。いつ用意してたんだ」 「内緒」 ハナっから、神通に装備させる気まんまんだっただけだけどな。 ここまで試作できてたんなら即時承認でいいでしょう。 あの異次元じみた接近戦の戦闘能力、活かさない手はないのだから。 #不知火に落ち度はない

2014-10-21 11:40:05
yamoto @yamoto

「じゃ、よろしく」 「おう。秘書艦のちびっこいのもまた連れてこい」 「また文句つけられっぞ、おやっさん」 「あれぐらいなら可愛いだろ」 孫扱いだな、ほとんど。 不知火は、連れてきたとき文句と注文山ほどつけてった。 歯に衣着せぬとはあのことである。 #不知火に落ち度はない

2014-10-21 11:50:01
yamoto @yamoto

ただ、おやっさんはそれが気に入ったらしい。 どんなのがいいか図面書いて見せろ、ってペンを投げつけられて一歩も引かなかったからか。 なお、図面に関してはなんというか。うん。 不知火は絵が描けない。いいな? #不知火に落ち度はない

2014-10-21 11:51:36
yamoto @yamoto

「じゃ、おやっさん。また近いうち酒でも持ってくるから」 「勤務中だろがばかたれ」 そう言うなって。 「じゃ、神通。行こうぜ」 「あ……は、はい」 ぺこりとおやっさんに頭を下げる神通。 そうして俺達は兵器開発局のドアから外に出た。 #不知火に落ち度はない

2014-10-21 11:54:16
yamoto @yamoto

さて、ここで問題発生です。 ここまでくるのに俺達、一応傘持ってたんですよ。 神通は神通の分。俺は俺の分で。 工 廠 課 の 入 口 に お い と い た 俺 の 傘 が ね え。 犯人どいつだ。小学生か。 #不知火に落ち度はない

2014-10-21 11:56:55
yamoto @yamoto

しかもおあつらえ向きといいますか。 天候は一気に下り坂。土砂降りの有様なんですよ。 絶対この中走ったら、パンツまでぐっしょり確定なんですよ。 スマホで調べたところ、この雨の勢い、一時間は止まりそうにないわけで。 すんげー、水煙あがってんぞ。 #不知火に落ち度はない

2014-10-21 12:00:29
yamoto @yamoto

「神通、先帰ってろ」 「……傘……ですか?」 「おう。どうも良い傘なんで持ってかれたらしい」 ざあざあと音を立てる雨。 とりあえず喫煙所で一服済ませて、テキトーに工廠課の連中から借りりゃいい。 穴の開いたビニール傘不可で。 #不知火に落ち度はない

2014-10-21 12:03:56