君が望む全て

綺羅さん(@kiraboshi219)による薄桜鬼の創作小説第19弾。 最終回、更新しました。 第1弾「黒と白~斎藤一~」http://togetter.com/li/587101 続きを読む
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🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

左之助の指示に千鶴は力強く頷くと、家の中から左之助の着物と、湯呑に水を入れて持って来た。 その気遣いに左之助は誇らしささえ感じる。

2014-11-01 18:48:04
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

「まずはこれを着ろ。それから話を聞かせてもらおうか」 左之助が差し出した着物を睨みつけていた少年も、素直に従いたくはないようだったが、千鶴の存在に気づき、裸同然の自身を恥じたのか、渋々着物を身に付けた。

2014-11-01 18:48:25
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

ひったくるように受け取った湯呑の水を飲み干して、再び左之助を睨み上げる少年を、左之助は心中複雑な思いで見下ろしていた。

2014-11-01 18:48:37
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

上がり框に座らせて、泥だらけの足を千鶴が濯いでやった。 左之助は自分でやらせればいいと思ったが、少年がそっぽを向きながらも嬉しそうにしているのを見て、欲しているものに何となく気付いてもいた。 千鶴に触れられることで、恐らく心も解れるだろうと。

2014-11-01 18:49:01
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

千鶴に丁寧に足を拭かれている間に、左之助は名を訪ねた。 「おまえ、名前は?」 「おうすけ」 唇をとがらせ、ふてぶてしく名乗る。左之助は彼の隣に腰かけると、次は年齢を聞いた。

2014-11-01 18:49:49
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

「九歳」 左之助が千鶴を見遣ってみると、手拭いを彼の足指の間に入れながらも、ひっそり笑っている。 左之助の視線に気付きさらにその笑みに華やかさが増す。

2014-11-01 18:50:17
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

「おうすけって、どんな字を書くの?」 「人に名前を尋ねておいて、自分は名乗らないのかよ」 言い方に可愛げは全くないが、そこには照れが含まれているように感じられた。

2014-11-01 18:50:34
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

千鶴は嫌な顔一つ見せず、 「私は、千鶴っていうの。千の鶴で、ちづる」 「ふうん。千羽鶴か。おれは、桜の、すけ。すけは……助けるじゃないほう」 千鶴は小首を傾げたが、すぐに理解してこう言った。

2014-11-01 18:50:50
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

「助ける人、の意味がある字だね」 こうでしょ、と彼のてのひらを取って、指で「介」と書いてみる。 桜介は頷きながら、千鶴の言葉に関心を示した。

2014-11-01 18:51:27
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

「助ける人、っていう意味があるの」 「うん、そうだよ。私の旦那さまは、助けるの字を使う、左之助さん」 桜介は腕が触れ合いそうなほど近くにいる左之助を横目で盗み見た。左之助とばっちり視線が合ってしまい、慌てて逸らす。

2014-11-01 18:51:53
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

「で、桜介。おまえなんでうちの裏で泣いてたんだ? ここら辺の子じゃねえよな」 体をこわばらせ、桜介が貝のように口を閉じたところで、左之助は桜介を板の間に上がるよう顎をしゃくって促した。

2014-11-01 18:52:22
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「そんな痣だらけなのを見ちまって、訳も知れずに帰せるかよ」 おまえに拒否権はないとばかりに、左之助は有無を言わせず桜介を上げて、草鞋を脱いでその足を手で軽く払った。 そのまま上がろうとしたら、

2014-11-01 18:52:45
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「左之助さん」 と、千鶴に諫められてしまった。

2014-11-01 18:53:03
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

「あー……」 桜介を前にして少し恥ずかしさを覚え、左之助は断ろうとしたが、千鶴の顔を見るとそれは許されないとわかる。

2014-11-01 18:53:23
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「濯がせてください。私、こうするのが好きなんです」 左之助が照れながらも座り直して、足を濯いでもらっている背中を、桜介はじっと見ていた。

2014-11-01 18:53:43
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

桜介の心に浮かんだ自分の両親は、まるで左之助や千鶴とは違っていて、惨めさに似た憧れから、喉がつかえてきた。借り物の着物をぎゅっと握り締めて、頭を振って両親のことを追い払おうと試みる。

2014-11-01 18:54:02
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

微笑ましい雰囲気の二人は、桜介が求める両親の姿そのものだった。 貧しい暮らしの中にこそ、優しい母と逞しい父であって欲しいと思っていた。無い物ねだりは十分承知で。

2014-11-01 18:54:16

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🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

左之助は胡座で、千鶴は正座して、桜介の前に座る。桜介の警戒心を、左之助はまるで気にしていない。

2014-11-02 22:38:01
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

「その体の痣は、どうした」 問われて桜介は自身の体を抱くように腕を回した。隠しきれない頬の痣はできたばかりのもののようで、切れた唇の端に血が固まっている。

2014-11-02 22:38:16
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

「喧嘩で泣くようじゃあ男が廃るぜ」 「喧嘩じゃない!」

2014-11-02 22:38:40
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

左之助に鼻で笑われたのがしゃくにさわった桜介は目を吊り上げ、身を乗り出して反論した。 千鶴は内心はらはらするのと同時に、左之助を信用し、今は何も言わずに見守ることに徹している。

2014-11-02 22:38:52
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

「親の折檻か」 左之助の声には優しさが込められていたがそれは同情ではない。

2014-11-02 22:39:09
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

息巻いていた桜介も、左之助の言葉にびくりと身を固め、きりりと結んだ唇はそのままに、無言で涙をこぼした。 千鶴が寄り添い、背中をそっと撫でてやると、桜介は嗚咽と共にまたぽろぽろと涙を落とす。

2014-11-02 22:39:23
🐿 綺 羅 🦭 @thrianta_satin

「う……っ」 「おまえが悪い事をしたのか?」 「少し調子に乗っただけだ」 桜介は精一杯、強がって見せた。素直さの欠如と豪胆さから、親にこっぴどく叱られたというところか。

2014-11-02 22:39:37
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