ストレイトロード:ルート140(8周目)
- Rista_Bakeya
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私が新聞を開いていると、横から藍が割り込んできた。目当ては近隣で起きた失踪事件の続報ではなく、人気女優と恋人の破局を報じる細長い記事だった。「なんでこんな話わざわざ書くの?」個人的過ぎるとの指摘はもっともだ。しかし新聞にも役割はある。「皆に話せば本当に知るべき人にも届きますから」
2014-10-01 19:13:59140文字で描く練習、376。破局。 他にも理由はあるけど文字数…じゃなくて、事件や事故の話題にしても同じ側面はある。もちろんそれが全てじゃない。
2014-10-01 19:14:08藍は街の片隅に佇む銅像の前で不意に立ち止まった。しばらく見上げてから、ありふれた題名と共に台座に刻まれた長い文章を黙読し始める。その地に生まれたある娘の、邸宅から一歩も出なかったという生涯。素晴らしい詩作を遺した人物の逸話だったが、自由を手放せない彼女にとっては悲劇かもしれない。
2014-10-02 19:21:39「はい、これに入るだけ詰めるのよ」藍は私の手に空の袋を押しつけた。そして一人向かう先に、野菜が入った籠が一列に並ぶ長机がある。袋に納めた分だけ買える、一人一袋限りという売り方は何が狙いなのか。首を傾げる私を藍が見ていた。「あなたはいらないのね?」自分の取り分しか買わないつもりか。
2014-10-03 19:38:36140文字で描く練習、378。袋。 入れ過ぎて口を閉じられなければ認めない。たとえばそういう小さなルールの有無で様相は変わる。
2014-10-03 19:38:44怪物が魔女に誘導され、閉鎖された商業施設の屋上に着地した。広い土地は一見相手に有利だが、風を遮るものも気を遣う対象もないこの場所で、藍は全力で暴れるつもりだろう。巨大な身体の足踏み一つが建物を砕く。飛び散った破片を強風が巻き上げる。ロープの内側は命を懸けた戦いのリングに変わった。
2014-10-04 20:28:25魔女の指揮で踊る乱気流は巨大な翼を終始翻弄していた。降り注ぐ焔を呑み込み色づいた暴風から逃れるように、怪物は再び屋上に舞い降りた。老朽化した建物が足踏み一つで大きく揺れ、それから轟音の波と共に崩落する。私は昔盛んだった爆破による解体を思い出した。きっと藍には伝わらない喩えだろう。
2014-10-05 20:38:50「真面目な話をしてるんだからちゃんと聞いて」藍はお怒りだが、私は終始耳を傾けていたつもりだ。視線は彼女の説明に従って地図を追っていたし、他の何かに気を取られた覚えは全くない。では何が足りなかったのか。「地図ばっかり見て。ちょっとくらいこっち向いてよ」聞くというのもなかなか難しい。
2014-10-06 19:07:17藍は実家に送る箱の包み方に悩んでいた。中身は既に入れたので覆さないが、もしやそれ以上に外装の見栄えが大事なのか。「あなたも自分の親に贈り物ぐらいしたことあるでしょ?さっきみたいな地味なの送りつけたの?」当初私が包んだ箱にけちをつけた手前、自分は手抜きができなくなっただけのようだ。
2014-10-07 19:06:56小さな村が秋祭りの活気に沸く。広場の中心で高らかに鐘が鳴り、無作為に選ばれた番号が読み上げられた。藍は自分の手元にある紙切れを穴が開く程見つめたが、私がその内容を見ようとしたら突然握り潰された。「抽選なんて絶対嘘よ。仕掛けがあるに決まってるわ」景品の人形が真顔でこちらを見ている。
2014-10-08 20:20:46藍は鏡の前に座り、隣に立つ男に昨日までの旅路を話した。私は後ろ姿を壁際から見ている。「キツいルート通ったにしては毛先傷んでないね。ちゃんとお手入れしてる証拠だ」下ろした髪をしばらく愛でていた手が細い鋏を取った。「髪型変えないんだよね?なら揃えるだけにしよう」藍が嬉しそうに頷いた。
2014-10-09 19:40:36「誰かいる!」藍が窓を開け、直接庭へ出ようとして私が止める間に、窓枠の下に潜んでいた人物は逃げ出した。回り道をして庭に出るも人影は見当たらない。「まさかもう屋敷の外かしら」「あの塀を越えて?」「相当足が速いのね」藍は何でもない顔で言いながら、庭の隅にある物置の扉を迷いなく引いた。
2014-10-10 19:46:07140文字で描く練習、385。物置。 たとえば居た部屋が2階で相手が木の上でも、藍は迷わず窓枠から飛ぼうとするかもしれない。
2014-10-10 19:46:15市役所前に報道陣が詰めかけていた。私達の車が通過すると一斉に動いたので私は驚いたが、彼らが追い始めたのは玄関から出てきた人物だった。「あの人見たことある」藍が呟いた。運転中の私に顔まで見る余裕はない。窓を少し開けると辛辣な野次が車内にも流れ込んで来た。「失言で話題になってる人よ」
2014-10-11 20:20:07「有名になりたくてこんな行動を起こしたわけではないですよね?」警察の目の前で派手に暴れて戻ってきた藍に、ふと思ったことを聞いてみた。「それならもっと可愛いことして目指すわ」シートベルトが固定される音がした。「初対面の人からいきなり石投げられる人に誰がなりたいと思う?早く車出して」
2014-10-12 19:13:38怒号と銃声が止むと、ビルの屋上の扉は穴だらけになっていた。「全然話聞いてくれない!」地上階に戻った私達は広がる宵闇から逃げるように車を走らせた。暗くなりきらない時間こそ夜より危険と言ったのは誰だったか。「何の巣かも分からない所に人が住むなんて」「怪物が出たら嫌でも立ち退きますよ」
2014-10-13 20:07:19