不知火に落ち度はない その28

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yamoto @yamoto

「早合点すんなって。別に俺もお前と結婚したいとか思ってねえよ」 「結婚しないのに付き合うとはどういうことだ?」 あ、はい。 わかりましたよ。 妙高さんの苦労とか、こいつの提督の苦労とかわかりましたよ。 「この世には便利な言葉があってな」 #不知火に落ち度はない

2014-10-27 23:26:48
yamoto @yamoto

「便利な言葉とはなんだ?」 「お友達から始めましょう、だよ」 そう。便利な言葉である。 双方その気がなかろうが、外向けには前向きに検討してますよと捉えられる言葉だ。 あまり実感がないのか、那智は首を傾げている。 うむ、その反応も予想通り。 #不知火に落ち度はない

2014-10-27 23:30:09
yamoto @yamoto

「お友達から始めましょうってことは、別にお友達のまま終わっても問題ないんだぜ?」 「……いや待て。見合いの後でそれは通るのか?」 「俺は那智のことを全然知らないんだぜ、冗談抜きに」 「それをわかりあうのが見合いの席ということには?」 「ならないね」 #不知火に落ち度はない

2014-10-27 23:32:40
yamoto @yamoto

「俺とお前が取り交わした情報は、紙きれに直すとA4一枚以下の内容だぜ? それでさあ結婚を前提にとか言えねえだろ」 「なるほど、言われてみればそうかもしれない」 「互いをよく知ってから。もう少し付き合って見てから。どんな相手か理解してから。便利な言葉だな」 #不知火に落ち度はない

2014-10-27 23:36:13
yamoto @yamoto

指折り数えながら並べ立てる。 「この手の言葉は、断りづらいラブレターをやんわり断る常套句として使われるが、見合いの場合は『前向きに保留』ってものに化けるんだ」 「なるほど。前向きに保留ということは、姉が新しい相手を探さなくていいと」 理解は早いな。 #不知火に落ち度はない

2014-10-27 23:40:12
yamoto @yamoto

「おう。あくまでお友達の付き合いだからな。そっちのお家には誤魔化せて、俺らは別に踏み込み合わなくていい」 「なるほどな、いい案を思いついたものだ」 ただ、一言言わせてもらっていいか? 那智が言い、俺は頷く。 #不知火に落ち度はない

2014-10-27 23:44:34
yamoto @yamoto

「貴様──ろくでもない悪党だな」 「まあな。その方が付き合いやすいだろ?」 それもそうだな、と那智が頷いた。 「私の性格と真逆だしな。進展がないとつつかれたら、貴様の性格を問題とすればいいわけか」 「インスタントでいいだろ?」 #不知火に落ち度はない

2014-10-27 23:48:21
yamoto @yamoto

「本当に禄でもない奴だな。結婚をなんだと思ってる」 「したことねえから、何とも言えないねえ」 それもそうか。カラカラと那智が笑う。 「いや、安心した。こんな奴なら惚れることもないな」 「失礼な。ちょっとぐらい惚れていいぞ?」 「ぬかせ碌でなし」 #不知火に落ち度はない

2014-10-27 23:53:58
yamoto @yamoto

「進展はどうかと聞かれたらどうする?」 「仕事で忙しくてそれどころじゃねえ。だろ?」 手酌で猪口に酒を注ぎ、くいっと一口頂いた。 おいおいこれ、大吟醸じゃん。 「酒は気に入ったか碌でなし」 「この酒全部飲んでいいよな?」 「自慢の酒だ、鱈腹飲め」 #不知火に落ち度はない

2014-10-27 23:58:47
yamoto @yamoto

「しかしな。私には好条件だが、貴様に得がなにもないぞ?」 俺を見てか、那智も酒を手にしだしてる。 手つきが明らかに酒飲みのそれだ。 かっこいいな、こいつ。 「あるぜ? かっこいい女の婚約者になりましたって武勇伝ができるだろ? 」 #不知火に落ち度はない

2014-10-28 00:02:31
yamoto @yamoto

「その後、その美人に振られましたと笑い話ができる。飲み屋で話せば一生使える酒一杯無料券だ」 「なるほど。それは大きな報酬だな」 真似すんなよ? 「ではその方策で行くとするか。ああ、助かった」 ふう、と那智は息を吐くと、その場で足を崩して胡座座り。 #不知火に落ち度はない

2014-10-28 00:08:09
yamoto @yamoto

おいおい和服でそれかこの男前。 「気楽にやらせてもらうぞ。なにせ、お友達なんだからな?」 「かまわねえよ。俺もお友達だから適当にくつろがせてもらうぜ」 同じく足を崩して胡座座り。 酒は美味いし、目の前には極上のつまみが目白押し。 来てよかったなコレ。 #不知火に落ち度はない

2014-10-28 00:12:49
yamoto @yamoto

「おい、なっちー。これなに?」 「木の実和えだ。日本酒に合うだろう?」 気安すぎると言われるかと思ったが、上機嫌だった。 酒が美味いなら、ある程度の無礼も許すクチか。 「ウイスキーにも合うな」 「ああ、達磨にぴったりだ」 なっちーサントリー派かよ。 #不知火に落ち度はない

2014-10-28 00:17:28
yamoto @yamoto

ここまでくればもう、盗聴を警戒する必要はない。 スマホのバッテリー切れになる前に、アプリを切っておこう。 っと、おや。不知火からメール来てた。 なんだなんだ一体? 『そちらの様子はいかがですか?』 心配どうもな。 『問題なし。仕事上がってろ』 #不知火に落ち度はない

2014-10-28 00:24:57
yamoto @yamoto

「おい、碌でなし。何をしてる?」 「秘書艦にメール」 「変な所でマメだな。どんな秘書だ?」 俺はすっとスマホをいじって写真を見せる。 「こんなの」 「なんだ。随分可愛いんだな。噂じゃ狂犬を飼ってると聞いたが」 なっちー。実はこいつがその狂犬。 #不知火に落ち度はない

2014-10-28 00:29:49
yamoto @yamoto

「かわいいぜ。戦闘になりゃ大暴れだけどな」 「そんなツラには見えないな。まだ子供だ」 「かもな。ま、いいだろ。酒もっと飲もうぜ」 「よし。今夜は鱈腹飲ませてもらおうか!」 そうしてなっちーと俺は並んだ料理をつまみに大いに飲んだわけだが。 罠があった。 #不知火に落ち度はない

2014-10-28 00:33:14
yamoto @yamoto

酒は飲めば体にたまるものがある。 いわゆる水分という奴だ。 一升瓶をあけりゃ当然、1.8リットルが溜まる。 酔いは兎も角、それは避けられない。 ほろ酔い気分で俺は立ち上がる。 「なんだ、お帰りか?」 「厠。戻ったらもう一杯ぐらいやるさ」 #不知火に落ち度はない

2014-10-28 00:40:37
yamoto @yamoto

襖を開けながら、そう答えて廊下に目をやると。 やけにガタイのいい黒服がシーバー片手に立ってたわけで。 どう見てもこいつ、堅気じゃねえ。 顔にはしまった、と書いてある。 「なんだ若頭の。姉に言われてたのか、ご苦労だな」 今、若頭って言ったなっちー? #不知火に落ち度はない

2014-10-28 00:45:10
yamoto @yamoto

「へえ。失礼します」 おい黒服。ちょっと待って黒服。 そのまま何事もなく去ってかないで。 今すんげえ不穏な単語聞こえたんだけどさ。 一発で酔いが覚めちまう話、聞こえたんだけどさ。 「あのさ、なっちー」 「なんだ、碌でなし?」 「ご実家のお仕事何?」 #不知火に落ち度はない

2014-10-28 00:48:17
yamoto @yamoto

「まあ、土建屋みたいなものだな」 へえ。そうなんだー。 「もしかして今時組とか呼ぶ系?」 「ああ。言ってなかったか」 全然聞いてねえ。全然聞いてねえ。 そりゃまずできねえわけだよ男なんざ!? 手ェ出したら即沈(チン)だろこれ。 #不知火に落ち度はない

2014-10-28 00:51:33
yamoto @yamoto

なにこれ。 なにこれ。 お友達は別にかまわんさ。 老舗の料亭抑えてるってことは、まあ政治的な方の派閥だろうし。ジャパニーズマフィアじゃない方だし。 じゃないと、こんな男前の娘できんしな。 それは、いいがな。 そういうトコ超しきたりに厳しいだろ? #不知火に落ち度はない

2014-10-28 00:57:20
yamoto @yamoto

こういうの相手に空手形切った上に、反故にしてみ? ど う な る か わ か る よ な ? あかん。 あかん。 今までの人生で一番どでかい地雷踏み抜いた感ある。 どうしよこれ。 どうしたらいいんだろこれ? #不知火に落ち度はない

2014-10-28 00:59:51
yamoto @yamoto

「おい、碌でなし。行かないのか、厠」 「お、おう。行ってくる」 妙高さんちのお家事情を深く知ったことで、理解してしまった。 妙高がなんであんな言い回しをしたのか。 見合いという方式で無いと、ならなかったのかを。 #不知火に落ち度はない

2014-10-28 01:06:55
yamoto @yamoto

厠で出すものを出してる間も、わかってた。 外に気配が複数あるし、こっち見てる。 ここは完全に連中の檻の中になっちまってた。 のうのう酒かっくらってる間に、呼びつけておいたのかもしれない。 完全に王手の状態である。 #不知火に落ち度はない

2014-10-28 01:09:05
yamoto @yamoto

厠から出たところ、そこには微笑む妙高が立っていた。 一升瓶を抱えてる所を見ると、どうやらお酒の追加をしてくれるらしい。 わあ、気が効くねえ。 ちょうど思いっきり酔いたい気分なんだ俺。 なお、酒瓶にはラベルが貼られてない。 一般流通ではない酒みたいだ。 #不知火に落ち度はない

2014-10-28 01:16:30
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