不知火に落ち度はない その28

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yamoto @yamoto

それでは妹を呼んできますのでしばらく暇つぶしておいてください、と言われたので早速だらけてみる。 流石にこんな料理食ったことねえから、ぱしゃりとこっそり一枚写メ。 『俺のカルパッチョの方が美味い』 流石だなモグリ。趣味の料理人はみんなそう言う。 #不知火に落ち度はない

2014-10-27 18:45:34
yamoto @yamoto

そして待つこと十数分。 すすーっと、静かに襖が空いて出てきたのは華やかな和服に身を包んだ長身美女。 長い黒髪を後ろで縛っており、きり、とした眼差しと意思の強そうな眉が特徴的だった。 「妹の那智です」 「兵頭です」 那智。重巡の名だった。 #不知火に落ち度はない

2014-10-27 18:51:08
yamoto @yamoto

「那智です。どうぞよろしくお願い申し上げます」 お、礼儀作法もしっかりしてる。 妙高んちの子は躾厳しいのかね。 見るからに厳しそうな家だとは思うけどな。 この料亭の佇まいを見る限りは。 「では私からこの子の紹介をさせていただきますね」 よろしく。 #不知火に落ち度はない

2014-10-27 21:13:09
yamoto @yamoto

そこからはスペック比べの世界である。 高校はどこだとか大学はどこだとか、剣道の選手権出たとか。 趣味は花道だとか。 こっちも一応話の種程度に、経歴をさらりと。 出た高校と防衛大と、インターハイの成績とかぐらいだけどな。 年収はツッコミこなかった。 #不知火に落ち度はない

2014-10-27 21:20:13
yamoto @yamoto

あとはお決まりのテンプレート。 若い二人に任せてとかいうあれだ。 と、さて。二人っきりになっても特に言うことがないんだよなこれが。那智についての興味は現状ほとんどない。 綺麗な花を見て綺麗だ、って思ったぐらいで、そこから先は食べられませんマークだ。 #不知火に落ち度はない

2014-10-27 21:22:58
yamoto @yamoto

「あの、お伺いしてもよろしいでしょうか?」 低めの声で問われる。 はいどうぞ、と言いかけて俺の動きは停止した。 『そのまま会話を続けて』 懐からだしたとおぼしき紙を見せて居た。 どういうこった? 「どうぞ。自分の話でよければなんなりと」 #不知火に落ち度はない

2014-10-27 21:26:39
yamoto @yamoto

『この部屋は盗聴されている』 「趣味はなんでしょうか?」 マジで。なにそれ。 「ええと、まあ読書。無趣味って言ってもいいかもしれません。ノルマンディー上陸作戦とか最近読みましたよ」 『待った。お宅の目的は?』 「まあ、同じですね」 『破談』 #不知火に落ち度はない

2014-10-27 21:37:28
yamoto @yamoto

「なるほど、お互い無趣味ですか。ははは」 『じゃ、ちょいまち。俺にいい考えがある』 「そのようで。おほほほほ?」 『まだ信用おけない』 うっわ急に大根になりやがった。 おい意識演技に向けろよ。なあ。 じゃ、証明してやっか。 #不知火に落ち度はない

2014-10-27 21:42:45
yamoto @yamoto

手始めに大元一個見つけるか。 会話を続けながら慎重に花瓶に近づき、裏をチェック。 ほい発見。 型番を覚えて元に戻す。 お手軽設置タイプで、パワーもアマチュア無線くらいの奴。これなら簡単にジャミングできるな。 #不知火に落ち度はない

2014-10-27 21:50:15
yamoto @yamoto

ではスマホから、アプリ起動。 パスコードを入力すると、あら不思議。 ちょっとした電波ならジャミングできるお手軽システムが立ち上がります。バッテリー食うからあんま長時間は無理だけどな。 「なにを?」 おい、演技。 「いえ、部下へメールです」 #不知火に落ち度はない

2014-10-27 22:01:16
yamoto @yamoto

さて、これですんげえノイズが乗る。 ボリュームを適正にしてると、耳がちょっとやられる奴になるはずだ。 「3分ぐらいこれでいける。同周波数帯のやつがいっぺんにノイズが吐くからな」 「貴様は、一体?」 「ただの提督だよ」 ときどき、いけない遊びをするけど。 #不知火に落ち度はない

2014-10-27 22:06:08
yamoto @yamoto

その喋り方がお前の素なのな。 いや安心した。あんなキリッとした美人と二人きりでなまぬーるく会話とか我慢できねっつの。 早速ネクタイを緩めて、スマホタイマーを3分にセット。 「破談つってたけどなに、お前俺のこと嫌い?」 「いや?どうでもいい」 #不知火に落ち度はない

2014-10-27 22:12:11
yamoto @yamoto

「なるほど。お前、結婚する気ハナっからないんだな」 「勿論だ。特に無精髭の男となら余計な」 言ってくれる。いや、気持ちいいもんだねこの姉ちゃん。 さっきの数倍は魅力的だ。 「じゃ、話は早い。とっとと、破談にして終わろうぜ」 「事情は聞かないのか?」 #不知火に落ち度はない

2014-10-27 22:17:15
yamoto @yamoto

「料亭裏事情なら興味ねえよ。板前ンなる気ねーし」 「はあ? 結婚して板前? 意味がわからんぞ。姉から聞いてないのか?」 「ぜんぜん。今日決まって、今日連れて来られた」 「……担かれたな。強い希望で乗り気だと聞いたぞ」 「俺もだよ」 絵図が見え始めてきた。 #不知火に落ち度はない

2014-10-27 22:23:10
yamoto @yamoto

ま、見合いなんてそんなもんだろうが。 「では何も聞いてないんだな?」 「おう。全然」 「じゃ、単刀直入に言う。厠の窓から外に出て逃げた方がいい」 OK把握。なんかきな臭いお家事情があると見た。 だがそこはあえてNoを取らせてもらう。 #不知火に落ち度はない

2014-10-27 22:27:16
yamoto @yamoto

「お断りだ」 きっぱりはっきり言い切って見せる。 「いいのか、面倒なことになるぞ?」 「この皿の上のがもったいねえよ」 お魚さん達に罪はありません。 お酒にも罪はありません。 「担がれたんだ。飯ぐらい馳走になっても問題あるめえ」 「肝の太いやつだな」 #不知火に落ち度はない

2014-10-27 22:30:25
yamoto @yamoto

さて、3分経過。 アプリを別周波数へチェンジ。 異常に気付いて、そろそろ別の盗聴器を使い出す頃だ。 こっからは読み合いである。妨害してる間に話すっか。 「ハナっから決めた相手でもいるわけ?」 「いない。そも、必要ないと何度も姉には具申してる」 #不知火に落ち度はない

2014-10-27 22:39:10
yamoto @yamoto

なる。妙高が言ってたことは嘘じゃなさそうだな。 ただ、単純な心配とも言えなさそうだった。 「お宅んとこ、軍人が欲しいわけ?」 「より正確には海軍将校が欲しい。大佐以上なら言うことなしだ」 今の軍需産業の花形だもんな。 「パイプ役がいるか。わっかりやす」 #不知火に落ち度はない

2014-10-27 22:44:47
yamoto @yamoto

「ンなんでよけりゃ、紹介してやんぞ。立派な海軍将校で潜水艦乗りでエースだ。ちと寝つきが悪いが」 「私はいらんと言ってるだろ」 「そりゃ失礼」 スマホいじるついでに、刺身を一口。 あ、これあかん。 真鯛の刺身だけど、麻薬入ってる級にうまい。 #不知火に落ち度はない

2014-10-27 22:50:19
yamoto @yamoto

「確か妙高、妹まだいなかったっけ。羽黒とか」 「あの子には酷な話だからな。黙ってれば美人の私が選ばれたんだろ」 それ以外に姉心ってのがあるぞたぶん。 自分をためらいなく美人と言い切れるかっこいい女は、男寄り付かないからな。 ソースは団長。 #不知火に落ち度はない

2014-10-27 22:54:15
yamoto @yamoto

「妙高はどうなんだ?」 「さあ。ほかに男がいるのかもな。海軍将校ではない奴」 なんとびっくり、姉の男女関係にはまるで興味ないそうです。 「聞いとけば見合い回避できるだろ」 「面倒だし、遊びに来たのは本当だからな。逃げられたといえば面子は立つ」 #不知火に落ち度はない

2014-10-27 22:58:59
yamoto @yamoto

姉貴の事は好きなんだなこいつ。 ふーむ。 対処の切り方が難しいな。 多分妙高は、那智のこと半分、家のこと半分。 那智は、妙高のこと8割、家のこと知ったこっちゃねえ。 この状況をいい方にもってける方法。 いや、100%俺には関係ない話なんだけどね。 #不知火に落ち度はない

2014-10-27 23:05:57
yamoto @yamoto

「うし。つまりお前は姉にあれこれ言われずに、しかし姉の苦労を減らしたい。そうだな?」 「まあそうだな。貴様何か策でもあるのか」 「一応な」 さて、と。読み合い続行中だからな。 俺は立ち上がり、出入り口に移動。 襖に開けて廊下を見ると、奥に妙高の姿あり。 #不知火に落ち度はない

2014-10-27 23:14:33
yamoto @yamoto

ぱっぱと手を振って見せると、ごくごく自然な笑顔で盛り上がってますか、と言われる。 盛り上がってますよ、と答えて襖を閉めた。 案の定おかしいと思って様子見に来てたな。 「なにやってるんだ?」 「化かし合い」 現在俺が圧倒的にリード中だけどな。 #不知火に落ち度はない

2014-10-27 23:18:05
yamoto @yamoto

「それより話に戻ろうぜ。あと、酒飲む?」 「話を聞いたらな」 お、行ける口か。面構えからしてそうだとは思ったが嬉しいね。こんだけ豪華なつまみがあるんだしな。 元の席に座り直して、早速提案する。 「つきあっちまわねえ?」 「嫌だと言ったが?」 #不知火に落ち度はない

2014-10-27 23:23:12