不知火に落ち度はない その28

yamoto @yamoto

そうして妙高は妹に連絡してくるとの旨を残して、司令室からゴーアウト。店の連絡は後でしてくれる模様。 さて、残ったのはと言うとやっちまった感満点の俺と、 「それで、不知火に何かお話があったのでは？」 冷めた珈琲をすすりながら俺の隣に座る不知火である。 #不知火に落ち度はない

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「いや、見合いする気特になかったんだが」 「それがお話ししたかった内容ですか？」 当たりが厳しいです。 「ところで今度暇があったら……」 「暇ができる予定があるのでしょうか」 当たりがめっちゃ厳しいです。 #不知火に落ち度はない

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「えっとな……」 「何か言い淀むことがあるのですか？」 なんかこうささくれだってしまっておられる。 いや、わかるにはわかるのだ。 言い出されて何かあるのか？ って思ったらすっぽかされてしまった感。 だいたい俺がこういう時は飯誘いしてるしな。 #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

それだけではない。 こないだの失態の挽回、俺してないしな。 そういう意味でも失望いただいてたのだろう。 なら、だ。 この御機嫌斜めな秘書艦どのご機嫌を、少なくとも平面ぐらいにする必要はある。 常に円滑な関係であることが望ましいのだ。 #不知火に落ち度はない

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では、このご機嫌斜めな秘書艦どのをどうすればいいだろうか。しばし考え、俺は口に言葉を載せる。 「かぼちゃプリン」 「は？」 不知火が聞き返してくる。 うっし、捕まえた。 #不知火に落ち度はない

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「かぼちゃプリン。渋栗のマロンペーストモンブラン。秋限定パンプキンシュークリームのクッキー生地と通常生地との取り合わせ。マスカットたっぷりのパイに、栗ペーストのミルフィーユケーキ。濃厚抹茶のケーキとマロングラッセ。苺ショートも外せない」 「し…司令？」 #不知火に落ち度はない

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「もうじきハロウィンだし、キャラメルポップコーンに冬季限定の生チョコもあるからそいつらも全種類。そいやきのこと筍のアレも限定品あったかな」 「……」 「まとめてプレゼントするから、それで今回騙されてくれねえ？」 ウインクなどしてみたり。 片目だけどな。 #不知火に落ち度はない

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「アイスみたいな、あのチョコレート。あれも限定出てました」 「カプリコな？」 「それを3つ追加で許してあげます」 「寛容な応対ありがとうございます」 こうして俺は、秘書官殿のご機嫌を取り直すことができたのだった。 カプリコ好きなのな、不知火。 #不知火に落ち度はない

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でもって夜。 衣装ケースでグースカ寝こけてたカジュアルスーツとしましまシャツを引き摺り出してのご出陣。気軽な店とは言われたが、そこは油断できない。 フォーマルなやつは、ヤクザの葬式に見えるらしいのでなしにした。モグリの野郎のせいである。 #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

でもって指定の店に来たわけだ。 『筆文字看板の入りやすい居酒屋ですよー⭐︎ 到着したらお電話ください』 とのメッセージを鵜呑みにしたんだが。 目の前にあるのは、筆文字で書かれた看板と、権威ありますよ散れ雑魚どもと言わんばかりの門構え。 これ料亭じゃん。 #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

いや、待てよ。 あれじゃないかなこれ。 門構えは立派だけど、中身はイタリアンで気さくな感じとか最近あるじゃん。そういうのって女子人気が高いって話聞いてるし。 とりあえず店の名前で検索してみよう。 『創業から百年──』 はい、スマホの電源きろっか。 #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

妙高さんー！ 妙高さんー！ ここ全然入りやすい居酒屋じゃないですよー！！ むしろ庶民立ち入り禁止区域ですよー！ 海軍名将、とか書かれてますよー！ 俺みたいな小僧は、鼻で笑われる感じの店ですよー！！ ヤクザの葬式でもいいからフォーマルにすべきだったわ。 #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

ちなみにヤクザ感を出すなら金ネックレスと、ロレックスの無駄にギラギラした時計持ってるぞ。ダイヤはまってる奴。 もらいもんで、いつか質入れしようと計画中。 それはさておきどうしたもんか。 ここで、たのもーなんつっても、入れてくれないぜこの手の店。 #不知火に落ち度はない

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と、言うわけでこのドッキリの犯人、妙高さんに即お電話。 2コールもしないうちに応答あり。さすがそつがない。 「提督ですか？ 今どちらに？」 「店の前。ドッキリ食らっていつカメラが出るか待ってるトコ」 「そうでしたか。今出迎えますね」 #不知火に落ち度はない

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それからしばらくして、門が開く。 そこには和服の妙高と、店の人と思しき方々がずらり並んでお出迎え。 ちょっと待って何これ。 まばゆくて踏み入れないんですけども。 ドッキリはまだ継続中なのか。 #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

「兵頭様、よくお越しくださいました」 はい、どうも。その服イカスね。どこのブランド？ うっすら化粧をして、うなじがセクシーな和服妙高に迎えられるとか。 ここの女将だと言っても俺信用するよ、その雰囲気。 なんか狐狸の類に化かされてる気分だ。 #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

そうして案内され、長いながーい廊下を歩いてるなう。 床はつやっつやでほとんど鏡である。 「妙高。ここ、本当に気軽な居酒屋？」 前を歩く妙高に質問タイム。さてお答えは？ 「はい、私にとってはこれ以上ない気軽な居酒屋です」 聞きたくない答え帰ってきたー！ #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

こういう言い方をするってことは、あれだ。 いわゆるオーナー様のご血縁の可能性があらせられるわけで。 入隊時の身分証明書の記載まではないからな。艦娘。 老舗料亭の娘が入隊とかあっても不思議はない。 たまにあるんだ。宣伝行為で、自分の娘を艦娘にってやつ。 #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

そうすると頭は冷えて来た。 ま、老舗旅館だろうが老舗料亭だろうが本人が気軽と言ってるんだ。我が家のように振舞わせてもらおう。 「入隊してんのって、軍籍があれば、ってやつなのかい？」 「ええ。ご名答です。ですが、踏み込んでお聞きになっていいんですか？」 #不知火に落ち度はない

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ほう、そういうブラフを張られますか。 今更だな。 「義弟になるかもしれんのにか？」 「あら。そうでしたね」 てへぺろしやがった。 てへぺろしやがった。 くっそあざといなあ妙高！！！ でも可愛いから許せる気がする。 大人のお茶目ってたまにはいいね。 #不知火に落ち度はない

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「お察しの通りで軍籍を置いているのは、父の仕事をやりやすくするためです」 「料亭も大変だな。なかなか経営ってのは難しいらしい」 「あ、いえいえ。誤解がありますね」 ん？ どゆこと？ #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

「こちらは親戚の所有してる物件です。でも昔から遊び場にしていたので、馴染みが深くて居やすい所なんですよ？」 「なんだ。ここの娘かと思ったぜ」 「お生憎様でした。こちらにはちゃんと女将が居ますし、私お料理は得意じゃありませんので」 意外な話を聞いたな。 #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

ん？ 今もっと大事な情報が出てた気がするぞ？ その、すごく聞いちゃいけない系の単語だった気がするんだが。 と、考える間もなく妙高が足を止めて、すーっと襖を開ける。 目の前に広がる和室空間。 テーブルには料理が並べられ、徳利が置いてある。 #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

「失礼します」 頭を下げながらお部屋にイン。 早速奥の席に回される。 いい畳だなこれ。武道場の畳とダンチだぜ。 踏みしめながら思うのがそれなあたり、割と自己嫌悪しそうである。 もっと高そうな花瓶とか、料理の器とかあんだろうに、なあ。 #不知火に落ち度はない

yamoto @yamoto

席に着くとまあ、料理の高そうなこと。 うまそう、じゃなくて高そうな、が頭にきちまった。 うまそうなのは一目みりゃわかるが、刺身にしろ、煮物にしろ、金箔とか散ってないのにザ・高額！ というオーラがむんむんしてる。 箸も立派な漆塗り。割り箸が懐かしいぜ。 #不知火に落ち度はない