『赤毛のアン』で学ぶ翻訳の心構え

自分の方法論を再確認するために語ってみます。
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It happens sometimes @ElementaryGard

翻訳という作業は、脳内にもうひとり自分と違う翻訳家と、それから原文をぜんぜん知らない読者を飼っておいて、その二人と激論しながら前進していくのです。

2014-11-02 19:05:40
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たとえば >for not even a brook could run past Mrs. Rachel Lynde's door without due regard for decency and decorum を

2014-11-02 19:06:19
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くみ訳 なにしろあのレイチェル・リンド夫人の住みかを通りすぎるとなると、小川といえども慎ましさやお行儀をわきまえるのであった。

2014-11-02 19:06:35
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私はこう訳しました。すると脳内の同業者が「『あのレイチェル・リンド』って何だよ。原文に『あの』にあたる単語はないぞ。おかしなアレンジしてるなこいつ」とつっこんでくるわけです。

2014-11-02 19:08:14
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ブログでそういうツッコミをされたとき、コメント欄に訳者の私がじきじきにお出ましになって、「それはですね」と反駁する感じで、脳内でこう言い返します。

2014-11-02 19:09:26
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「日本の小説で人名が題になってるのってあまりないでしょ。織田信長とか武田信玄とか、歴史上の超有名人は例外。ところが洋もの小説だと架空の人物の氏名を堂々と題にすることがよくあるじゃない。つまり氏名の重みが日本語では比較的軽いわけよ。(続く)

2014-11-02 19:11:39
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『アン』のなかでも、学校の先生がときどき「ねえアン・シャーリー」とかフルネームで呼びかけるじゃない。日本でいちいち「ねえくみかおる」とはいわないじゃない。氏名の重みが違うわけよ。(続く)

2014-11-02 19:14:15
It happens sometimes @ElementaryGard

実際Mrs. Rachel Lyndeを「レイチェル・リンド夫人」と日本語表記にすると、もう軽くなっちゃうわけ。それで「あの」を付け加えて重量感を出すの。こうすると読む側は「リンド夫人って村ではそのくらい存在感あるのか」と感じ取ってくれるのね。わかるかな」と。

2014-11-02 19:16:05
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こうやって脳内同業者と一文一文激論しながら進んでいくのが翻訳。

2014-11-02 19:17:31
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普段からこうだから、ひとの訳文を眺めるときは、ツッコミ・モードになります。例えば村岡花子の訳を引いてツッコミをしてみましょう。

2014-11-02 19:19:08
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村岡訳 >森の奥の上流のほうには、思いがけないふちや、滝などがあって、かなり流れがはげしいそうですが、リンド家のくぼ地に出るころには、しずかな小川になっていました。

2014-11-02 19:19:15
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これが原文。 >it was reputed to be an intricate, headlong brook in its earlier course through those woods, with dark secrets of pool and cascade;

2014-11-02 19:19:58
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さあ私はどう村岡先輩にツッコむか。「花子先輩、『はげしいそうですが』なんて訳しておいでですけど、これ変ですよ。it was reputed to be を『そうですが』と馬鹿正直に日本語に置きかえてる。(続く)

2014-11-02 19:21:45
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これは『~と世に認められる』と解さなきゃ。獰猛な小川として知られるこの水流も、あのリンド夫人の屋敷のそばを通るときはこそこそと流れる、と擬人化してるんだから。つまりユーモア表現ですよモンゴメリ特有の」とツッコむわけです。

2014-11-02 19:24:18
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『赤毛のアン』の邦訳にはろくなのがないの法則 togetter.com/li/738234 先日こんなのをtogetter化したら「てめー何様」とか「過激だねえ」とか言われてしまいましたが、これが私の脳内なんですよ。こうやって翻訳やってるの。

2014-11-02 19:28:52
It happens sometimes @ElementaryGard

アニメの『赤毛のアン』を分析していくと、高畑勲監督も私と同じ思考方法で組み立てておいでなのがわかる。脳内で弁証法的に自己スパークしてる。それで親近感を覚えるわけです。

2014-11-02 19:31:45
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>For pity's sake, if the child isn't actually trembling!"

2014-11-02 19:33:12
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アンをダイアナに引き合わせるためにマリラがアンを連れていくところ。マリラの台詞です。

2014-11-02 19:39:51
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村岡訳 >おやまあ、この子はふるえているじゃないの。

2014-11-02 19:41:34
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これ×。私なら「お願いだからぶるぶる震ったりしないでほしいわ!」にする。

2014-11-02 19:42:49
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このほうが続く文 >Anne WAS trembling. Her face was pale and tense. (すでにぶるぶる震っているアンであった。顔は青ざめ、引きつっていた) にキレよくつながるでしょ。漫才のビート感。

2014-11-02 19:45:30
It happens sometimes @ElementaryGard

実はね、アニメの『アン』でもこのやり取りは原文と少し違うんですよ。小説ではこの回(というか章)はアンとマリラの会話文が延々と続いて、そのなかで「今日はこれからダイアナに会わせてあげるからね」とマリラが唐突に切り出し、アンが「えーどうしよう!」と気を高ぶらせる。

2014-11-02 19:53:00
It happens sometimes @ElementaryGard

どういうシチュエーションで二人がやり取りしてるかはほとんど描かれない。ところがアニメは映像で見せるわけだから、シチュエーションをはっきりさせないといけない。家のなかでのやり取りなのか、時刻はいつぐらいか、マリラとアンは座って会話しているのか、何か家事をしながらなのか、等。

2014-11-02 19:55:00