ほしおさなえさん(@hoshio_s)の140字小説38

ほしおさなえさん(@hoshio_s)の140字小説38 その380~その389です。 (まとめ36)http://togetter.com/li/731273 (まとめ37)http://togetter.com/li/741903 続きを読む
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ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その385。

2014-11-04 21:54:20
ほしおさなえ @hoshio_s

雲のなかには羊たちが住んでいる。人々は、雲が形を変えるのを風やら気圧やらのせいと思っているみたいだが、実際は羊たちの気まぐれのせいなのだ。たくさん集まったり、列になったり、筋のようにのびたり。今日は月が明るく、夜になっても白い雲が見える。羊たちがもくもくと夜空を渡っていっている。

2014-11-04 21:56:41
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その386。

2014-11-05 17:26:45
ほしおさなえ @hoshio_s

老いた母と歩いている。この身体のなかにわたしが最初にいた部屋がある。小さくしぼんでしまった部屋が。やがて母は死に、部屋は消える。いつかわたしも死に、母もわたしもどこにもいなかったころに戻る。強く愛し、愛されたことも幻のように消える。一足ずつ、ここじゃない場所に向かって歩いている。

2014-11-05 17:27:10
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その387。

2014-11-12 11:17:08
ほしおさなえ @hoshio_s

こんな薄暗い日は、むかし飼っていた犬を思い出す。年老いて、弱っていた。黒いビー玉のような瞳を見たとき、もう死ぬんだと思った。怖くて目を閉じた。その夜、犬は死んだ。今でも思い出す。あの黒い玉のなかになにがあったのか。目を閉じないで、もっと見ればよかった。ちゃんと見てやればよかった。

2014-11-12 11:18:03
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その388。

2014-11-13 10:59:31
ほしおさなえ @hoshio_s

みんないろいろ言うけれど、若いころは苦しいし、働き盛りは辛いし、老いていくのは悲しいものだ。それでもときにしあわせなことがあって、なんとかようやく生きている。いつかそれもみな消えてしまうのだけれども。心なんてものを持ちながら人はなぜ生きていけるのか。ときどきふいにわからなくなる。

2014-11-13 11:01:10
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その389。

2014-11-14 17:57:28
ほしおさなえ @hoshio_s

小さいころ林の道が怖かった。生きてる草、枯れてる草。あれが怖かったのは、生きるのが怖かったからだろうか。生きて死んでいくことがからみついてくるようで。世界はいつだって森。美しくて怖くて理解できない森。そのなかでもがくように物語を紡いでいる。わたしたちはみなそうやって生きている。

2014-11-14 17:59:32