とある社会科学者による、人文科学と自然科学のクロスカップリング反応

クロスカップリング反応は医薬合成、天然物合成、ポリマー合成、有機半導体合成に用いられ、またそのスケールは実験室から工業ラインと幅が広い。 ところが、人文科学の分野ではクロスカップリングの報告は少なく、1994年のアラン・ソーカル氏の報告を起点として減少傾向である。 しかしながらここ数年、日本ではこの分野の研究が活発であり、大澤真幸氏が哲学と量子力学のカップリングを、井庭崇氏、奥出直人氏が総括的に人文科学と自然科学のカップリングを報告している。 ここでは、奥出直人氏及び、井庭崇氏の研究概要を参照し、クロスカップリングの有効性を検討する。 続きを読む
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Naohito Okude @NaohitoOkude

ここの裂け目を見るとは、量子力学における観測問題、つまり波動関数を壊すことになる。つまり「観測は政治的決断主義の物理的な表現である」(174P)というわけだ。議論は大分めんどうなところまで大澤氏によって展開されてきた。だが20世紀の隘路は全体主義だけではなく、共産主義も挑戦した。

2010-11-22 15:42:08
Naohito Okude @NaohitoOkude

このあたり、なかなか難しい。ある現象が二つの異なった推論で正しいと証明されているとき、パラドックスだと考えるか、別の考え方があると考えるか、ということである。ニュートン的アインシュタイン的な合理性の枠組みに従って量子力学的現象を説明しようとすると唯物論と観念論との反転が起こる。

2010-12-01 18:03:53
Naohito Okude @NaohitoOkude

どちらも正しいという現象を理解するために「二つの孔の実験」を紹介した。光子や電子が二つの孔があるスクリーンを通過すると波のような干渉縞ができる。1個の電子でも同じだ。ところが孔を通過する光子を観察すると粒子のままで干渉縞は出来ない。光子を観察してしまうと粒子で観察しないと波だ。

2010-12-01 18:08:02
Naohito Okude @NaohitoOkude

さて、そこで最初は観察しないで、孔を通過した後(観察されていないのだから波の状態だ)いきなり観察すると波なのではないか?と考えた人がいる。ジョン・ホイラーという。彼の実験は「遅延選択実験」と呼ばれた。1970年代には思考実験として登場したがその後実際に実験が行われた。

2010-12-01 18:17:18
Naohito Okude @NaohitoOkude

大澤氏は議論を続けるが、ちょっとここで復習。光子が二つの孔をとおって目標のスクリーンに到達すると干渉縞になる現象は、光子がスクリーンに着弾するまで過程に注目すると説明が出来る。2つのスリットを通った粒子が着弾点で波に変わって干渉を起こしたのではない。着弾点を決定する過程が大切。

2010-12-01 18:35:31
Naohito Okude @NaohitoOkude

着弾点はニュートン力学で決定論に決まるのではなく、確率過程としてしか存在しない。これはサイバネティックスの基礎なのであらためて説明する必要があるが、この問題はさておき、干渉縞が出来る現象は光子がどちらのスリットを通ったかは関係ないのだ。

2010-12-01 18:36:23
Naohito Okude @NaohitoOkude

干渉縞形成に必要なことは、粒子が干渉縞をつくるように着弾することである。当たり前のようだが、ここが胆である。粒子は確率規則つまり干渉縞のような散らばり方をしている。じゃあどうして確率なのか、はよく分からない。二重スリット実験では説明できない。遅延選択実験はここを説明しようとする。

2010-12-01 18:48:38
Naohito Okude @NaohitoOkude

二重孔実験においては、粒子として観測しても、確率的に波としての性質がスクリーン側(着弾側で)観測される。観測すると波動関数が収縮する。粒子が「あ観察されている、波に変身!」と思っているわけではない。波であり粒子であるとはどのような状態なのか、ここが問題なのである。

2010-12-01 18:53:52
Naohito Okude @NaohitoOkude

John Archibald Wheelerが提唱した遅延選択実験は粒子として観測しようとしても波の性質が失われないことを説明しようとした。さてここからの説明は非常に難しいところだ。しばらく大澤氏の説明をパラフレーズしてみよう。(191頁)

2010-12-01 18:58:23
Naohito Okude @NaohitoOkude

光子が孔を通過する瞬間を観測すると粒子である。ではその直ぐ後を観察すると波になっているのではないか?しかしその時も粒子のままであった。つまりスクリーンには干渉縞は出来ない。孔を通過した後「観測された」と意識すると、孔を通った瞬間にさかのぼって「粒子」になってしまう。

2010-12-01 19:01:38
Naohito Okude @NaohitoOkude

「後に起こったことが、因果的に、それ以前の出来事を規定する」(191頁)現象が起こっている。光子が孔を通った後に観察しようと我々は決めているので、あらかじめ光子は観察されると知らないはずなのだ。つまり「認識が出来事に対して、絶対に還元できない後れを取る」。

2010-12-01 19:03:49
Naohito Okude @NaohitoOkude

これが量子力学の革新的な特徴である。そうであったことという形式でしか出来事は観察されない。古典力学では認識と出来事の間のズレを幾らでも小さくすることが出来る。出来事が起きたとたんに観察できる。だが量子力学では起こったことしか観察できない。

2010-12-01 19:05:43
Naohito Okude @NaohitoOkude

この実験は物理学者の中ではまだ議論が続いているが、世界観としては画期的だ。なぜなら物理現象の外部の超越的な存在を前提としていた古典力学に対して、量子力学では「観察されるべき出来事を構成している個々の対象が、すでに、それ自体で、何かを認識しているかのように振る舞う。」(192頁)

2010-12-01 19:13:34
Naohito Okude @NaohitoOkude

量子力学が分かった感じがするためにはこの「遅れ」の感じが非常に大切になる。光子が波であり粒子であるという二重性は直接に観察していないときだけである。従って、量子力学の「不確定性原理」は次のように説明される。

2010-12-02 01:34:50
Naohito Okude @NaohitoOkude

ある事象が生起している時間について厳密に知ろうとすると、その事象のなかに登場する粒子の不確定性が高まってくる。つまり極端に短い時間を設定するとエネルギー保存則が破られて生まれるはずのない粒子が生み出される。つまり無から粒子が飛び出す。ここが量子力学のポイントだ。

2010-12-02 01:36:39
Naohito Okude @NaohitoOkude

さらに、エネルギー保存則が破られている瞬間は観測されない。これが「真空の揺らぎ」である。これは社会科学を勉強している人間にとっては衝撃的な話だ。物理学者は存在するとは知覚することであり、ニュートンに反対したバークリー司教はこのことを知っていた、と説明するだろう。

2010-12-02 01:40:06
Naohito Okude @NaohitoOkude

だが、社会学者あるいは人文科学者からするとこの話は強烈だ。ニュートン物理学の真似っこをしてリカードなど英国系の経済学者は等価交換における価値の問題を論じてきたが、資本主義の現場では剰余価値がどんどん生まれていく。借金さえ出来れば元手がなくても余剰価値を算出できる。(194頁)

2010-12-02 01:56:11
Naohito Okude @NaohitoOkude

これはいったい何なのだ?社会科学人文科学にとっての量子力学的世界観はこの問題にどう答えるかにつきると言っていい。資本主義はその成立時から自分の外部を内部に組み込み消費するシステムであった。生産した商品を売却して剰余利益を得る。そのためには商品を流通させる地域が必要になる。

2010-12-02 01:59:51
Naohito Okude @NaohitoOkude

市場資源労働に限界があることから資本主義は拡張しなくなる。ニュートン的に考えると合理的なシステムが均衡状態になると永遠にシステムが継続するはずだが、実際には経済活動は頭打ちになっていく。植民地による拡大が終了した19世紀末の社会的な雰囲気だ。

2010-12-02 07:19:16
Naohito Okude @NaohitoOkude

ここからは僕の意見だが、この厭世的な世界観がフロイトやウィリアム・ジェームスの考え方に反映していた。そしてこの時代は熱力学が発達した時代でもある。エントロピーの考え方が普及して、外部からエネルギーを取り込むことが出来なくなったシステムは熱を放射することが出来ず冷えていく。

2010-12-02 07:22:08
Naohito Okude @NaohitoOkude

西洋文明は終わってしまうのではないかと熱力学の理論を知っておもった知識人は多い。大澤氏は資本主義が飽和状態になって終焉を迎えつつあるという意識はレーニンの思想に現れているという。(197頁)それを帝国主義と呼んだ。ルクセンブルクも帝国主義が資本主義にピリオドを打つ、と述べている。

2010-12-02 07:24:47
Naohito Okude @NaohitoOkude

資本主義の「死」は第一次世界大戦でありロシア革命であり、大恐慌だ。この時期が第二の科学革命である量子力学が誕生した時なのだ。ところで21世紀になった現在、資本主義はまだ死んでいない。一つにはシステムの外部に時間を取り入れている信用取引による金融資本主義が生きのびたからだ。

2010-12-02 07:28:17
Naohito Okude @NaohitoOkude

粒子はどこからともなくエネルギーを借りてくる。不確定性原理だ。これは「信用取引によって実際に売れる前から売上金を得てしまっている商人」のようだと大澤氏は説明する。(198頁)ここはキモだな。

2010-12-02 07:33:22
Naohito Okude @NaohitoOkude

量子力学的世界観を物理的世界だけで展開すると、原爆みたいなとんでもない成果もあるが、それだけではない。コンパクト・ディスクや液晶テレビなどもその成果だ。コンピュータとか携帯電話もそうである。理工学部であれば学部の初期に勉強する。

2010-12-02 07:39:06
Naohito Okude @NaohitoOkude

この世界観を社会科学や人文科学を勉強する学生に知ってもらう。これはSFC創立の時の大きな狙いだった。NHKの解説委員だった赤木昭夫先生に講義をお願いした。だがこの大切な授業が学生には理解できなかった。いまあらためてSFCで講義を行っているが、この世界観は非常に大切。

2010-12-02 07:41:02
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