横山部長のお話

横山部長の初恋の話
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クラゲ @04kurage

#63 from裕 [裕side]① 天気予報が週末の雨を伝える 8月の第一週が雨 それを聞いてふと思い出した 15年も前の事 あの日も雨やったな 何て昔の思い出を蘇らせる そして同時に思うのは あの日見れなかった花火の事 今年もやるんかな 何て思いつつ家を出た

2014-08-04 23:34:14
クラゲ @04kurage

#63 [裕side]② 「横山部長おはようございます」 部下の安田と会社のエレベーターの前で会った 「おはようさん」 「あ、今日ですよね?支社からの異動で来る人」 「あ、忘れてた」 「すっごい美人さんって噂ですよ!」 「お前会社に何しに来とんねん」 「すみませんー」

2014-08-04 23:42:15
クラゲ @04kurage

#63 [裕side]③ 席に着いて異動してくる人の確認をする 忙しくて全然情報とか見とらんかった 「えっと名前…え…」 まさかな あいつと同姓同名やったから驚いたけど そもそも田中何て苗字多過ぎやしちゃうやろ そう思ってたら 『あの…営業二課はこちらですか?』

2014-08-04 23:46:01
クラゲ @04kurage

#63 [裕side]④ そう言って入って来た女の人を見て 俺は持ってたもんを落とした 『あの…今日から配属された田中です』 「あ!支社からの?」 『はい』 「部長ならあの人やで」 1番入り口の近くに座る錦戸が俺を指指す 彼女は一瞬驚いた顔をしたけど 『よろしくお願いします』

2014-08-04 23:50:02
クラゲ @04kurage

#63 [裕side]⑤ そう言って笑った あの頃とちっとも変わってない笑顔 でも俺の知らない大人の女性になっていた 15年振りの再会は 思わぬ形で実現する ずっと会いたくて ずっと俺の記憶から抜けることの無かった彼女が 部下として配属されてきた何て 「よろしくな」

2014-08-04 23:53:16
クラゲ @04kurage

#63 [裕side]⑥ 聞きたい事はいっぱいあんねん そんな事を思いながら 先日異動して来た村上の嫁に指示を出して とりあえず会社を案内してくる様に言った 「部長!やっぱ噂通りの美人さんですね」 と安田 「俺めっちゃタイプ」 と錦戸 「ええから仕事せえ」

2014-08-04 23:56:35
クラゲ @04kurage

#63 [裕side]⑦ 二人に動揺を悟られないように 必死で仕事に集中する なぁ 今どんな気持ち? 俺は素直に 会えて嬉しいで

2014-08-04 23:58:41
クラゲ @04kurage

#63 [裕side]⑧ それから仕事も忙しいし 昼休みはすっかり仲良くなったみたいな村上の嫁とばかり過ごしとるし 『部長、このクライアントですが』 何て仕事中にしか話しかけられないから 俺の事もしかしたら忘れたんとちゃうやろかって思えてくる 彼女が来て始めての週末

2014-08-05 18:02:22
クラゲ @04kurage

#63 [裕side]⑨ 「部長、今日田中さんの歓迎会しようと思うんで来てくださいね」 と錦戸が言う 「あー、わかった」 そう言って書類の山を見る 定時で上がって行った皆 「部長絶対来て下さいね」 そう言う安田の後ろで俺を見る彼女 やっぱり絶対俺の事わかってるやん

2014-08-05 18:12:40
クラゲ @04kurage

#63 [裕side]①⓪ そっから早く終わらせようと仕事に集中したいけど全然出来ひん 「あーもうええわ」 俺は必要な書類を鞄に詰め込んで会社を飛び出した

2014-08-05 18:20:41
クラゲ @04kurage

#63 [彼女side]①① 異動するってなってすごく不安だった初日 「あれが部長」 って指された先に居たのは侯君だった あの頃と変わらない真っ白な肌 15年も経つのに変わらない侯君 でもすっかり大人の男の人になっていて 仕事も出来る上司だった ずっと侯君に会いたかった

2014-08-05 18:30:34
クラゲ @04kurage

#63 [彼女side]①② 伝えたい事はたくさんあるけど 話すのが怖くて中々話しかけられない 結局週末まで仕事中しか話をしなかった 「歓迎会しようと思うねん」 と錦戸さんに言われた けれど侯君は残業するみたいだった ねぇ侯君覚えてる? あの日からもうすぐ15年だよ

2014-08-05 18:35:17
クラゲ @04kurage

#63 [裕side]①③ 俺は錦戸が指定した店に急いだ あれ? 入り口にふさぎ込む影が見える 近づくと彼女だってわかった 「何してんねん」 声を掛けるとそっと顔を挙げた彼女 『侯君だー』 相当酔ってる感じの彼女 「何してんねん」 もう一回問う 『侯君遅いんだもん。待ってた』

2014-08-05 21:37:52
クラゲ @04kurage

#63 [裕side]①④ 「お前な…」 『あの時みたいに来てくれないかと思った』 「え?」 俺は彼女の言葉に驚いた 『ずっと待ってたのに』 「俺も待っとったで」 『え?』 二人の目線が合って それぞれ目が点になっている どう言うことや? 「おい、行くぞ」

2014-08-05 21:40:10
クラゲ @04kurage

#63 [裕side]①⑤ 幼なじみやった彼女と俺 事情はようわからんけど小5のときに彼女は俺んちに住むようになった 『侯君それ違うよ』 「数学なんて出来んでもええわ」 何ていいながら一緒に勉強したり 「高校生やしバイトするねん」 『なら私もしたい』 一緒のバイトもした

2014-08-05 21:47:18
クラゲ @04kurage

#63 [裕side]①⑥ でもどんどん可愛くなって成長していく彼女 中学生の頃までは一緒におれたんやけど 高校生になると恥ずかしいしだんだん避けるようになってん バイトもわざとシフトズラしたり 勉強するからって早く学校に行ったり でも心配でバイトの迎えに行ったりする俺

2014-08-05 21:53:30
クラゲ @04kurage

#63 [裕side]①⑦ 『侯君優しいね』 何ていいながら無言で歩く道 好き何て言えないまま過ごす高校2年の夏 『侯君、花火大会一緒に行こう?』 そう言った彼女 「ええけど」 『やったー!』 わざわざ神社で待ち合わせすることになって 俺は先に家を出た

2014-08-05 22:01:28
クラゲ @04kurage

#63 [裕side]①⑧ 途中の露店で彼女に似合いそうなアクセサリーを見つける 「これください」 俺は神社の境内で彼女を待った でも彼女は来んかった 花火が始まる10分前に急に降り出した雨で花火も中止 それでも1時間待ったけど彼女は現れんし家に帰った

2014-08-05 22:58:09
クラゲ @04kurage

#63 [裕side]①⑨ 家に帰るとら彼女はすでに部屋に居て姿を見れなかった 翌日 起きたら昼過ぎとった 家には誰もおらんかった ふと部屋の机に置かれた手紙に気づく 彼女からやった 俺はそれを持って急いで駅まで走った けどそこにはもう彼女はおらんかった

2014-08-06 00:35:47
クラゲ @04kurage

#63 [裕side]②⓪ 彼女はお父さんと暮らすために引っ越した “最後に思い出欲しかったな…” そう手紙に書いてあった それからちょうど15年 「おい、行くぞ」 『え?どこに?』 そう言う彼女を無視して店の中に入って彼女の荷物を取りに行く

2014-08-06 00:58:59
クラゲ @04kurage

#63 [裕side]②① 散々文句言ってる錦戸や安田を無視して店を出る 『侯君どこ行くの?』 彼女の手を引いて歩く 小さな神社でお祭りをやっていた 「俺あの時神社の境内におってん」 『私は鳥居の下にいた…』 「じゃあ俺ら…」 『会えなかっただけなんだね』

2014-08-06 01:06:52
クラゲ @04kurage

#63 [裕side]②② お祭りを回りながら色んな話をした 俺がとったヨーヨーを嬉しそうに持つ彼女 『あの花火大会ってまだあるの?』 「多分な。もう何年も帰ってないけど」 『そっかー』 あの時果たせんかった約束 あの時渡せへんかった物 あの時伝えられんかった思い

2014-08-06 01:33:46
クラゲ @04kurage

#63 [裕side]②③ もう一度実現させてほしい 「なあ、来週の土曜日空いてる?」 『会いてるよ』 「ほな花火大会行かへん?」 今度はちゃんと見つけるから…

2014-08-06 01:40:07
クラゲ @04kurage

#63 [彼女side]②④ 飲み会を抜け出して 小さな神社のお祭りを回りながら侯君とたくさん話した 「花火大会行かへん?」 って侯君が言った 家まで送ってもらった後 時間と場所の指定がLINEで来た 何年かぶりに浴衣を買った 週明け何も無かった様に仕事をする侯君

2014-08-06 18:12:04
クラゲ @04kurage

#63 [彼女side]②⑤ 土曜日の約束何て嘘なんじゃないかってくらい 何の連絡もなくて 外回りの多い侯君とは全然会わないまま迎えた土曜日 早く侯君に会いたくて 約束より随分早く着いてしまった “着いたよ” ってLINEをしたいけど出来なくて ずっと携帯を見つめて過ごす

2014-08-06 18:12:11