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伊藤典夫訳の『2001年宇宙の旅』を再読。ああ、やっぱりあれれな箇所があります。ちなみに1993年発行の「決定版」です。
2014-12-15 12:36:58>今回、処理過程はすばやく揺るぎなく、やがて新しいデザインが織りあげられた。まえの出会いより過ぎ去った長い年月のあいだに、織り手は多くを学んでいた。また彼がわざをふるう生地も、いまでは格段に優れたものとなっていた。 (「彼」には傍点がルビで入っています)
2014-12-15 12:41:28>しかし果てしなく成長する彼のつづれ織りに、それが加わるに値するかどうかは、未来だけが決めることだった。 (「つづれ織り」には「タペストリー」とルビ)
2014-12-15 12:42:53終盤で主人公デイヴ・ボーマンが赤ん坊に転生した直後のところです。モノリスがティーチングマシン(検索せよ)となって赤ん坊の気を逸らせているあいだに「彼」(進化の果てにある異星人つまり「神」)がこの赤ん坊の残り部分を仕上げる、その過程の描写。映画ではツァラトゥストラが鳴りだす。
2014-12-15 12:47:08原文を引用します。 >This time, the processing was swift and certain, as the new design was woven. For in the eons since their last meeting, (counts)
2014-12-15 12:50:38> much had been learned by the weaver; and the material on which he practiced his art was now of an infinitely finer texture.
2014-12-15 12:51:43their last meeting(前回の対面)とは、映画でいうとここです。 pic.twitter.com/eSoAMXzhvK
2014-12-15 12:58:38でThis time(今回)とはこれ。 pic.twitter.com/Xr4alW4jwE
2014-12-15 12:59:08the new design とあるのは転生したデイヴ・ボーマンつまりこの光り輝く赤ん坊「星の子」(スターチャイルド)のことです。ボーマンが、血肉からもっと高次元のthe material(生地)に移しかえられ、それを「彼」が「星の子」という図案として針と糸で織りこんでいる、と。
2014-12-15 13:21:57> and the material on which he practiced his art was now of an infinitely finer texture.
2014-12-15 13:23:09伊藤訳 >また彼がわざをふるう生地も、いまでは格段に優れたものとなっていた。 ここが少々あれに感じる。
2014-12-15 13:23:59くみ訳 >それに、彼が今腕をふるってこの図像を織りこんでいる生地からして、もはや前回よりも果てしなくきめ細やかなものとなっていた。
2014-12-15 13:33:37伊藤訳を再引用 >今回、処理過程はすばやく揺るぎなく、やがて新しいデザインが織りあげられた。まえの出会いより過ぎ去った長い年月のあいだに、織り手は多くを学んでいた。また彼がわざをふるう生地も、いまでは格段に優れたものとなっていた。
2014-12-15 13:36:15くみ訳 >二度目となる今回は、処理過程は迅速で確かなものとなり、喩えるならば布地に図案を織りこむ手練れのタペストリー職人というところだった。前回からは長い年月が経っていて、そのあいだにさらにいろいろこの織り手は学び取っていた。[続く]
2014-12-15 14:02:49伊藤先生の「決定版」を読んだとき印象的だったのがここでした。旧訳を子どものときに読んでいて、そのときは何が何だかわからなかったぶん、新訳でのこの箇所は新鮮でした。
2014-12-15 14:08:48それでも今読むと、クラークならではの比喩、いえ詩情というべきでしょうか、そこをうまく日本語に移しかえ損なっているように思えるのです。
2014-12-15 14:12:23>But whether it should be permitted to form part of his still-growing tapestry, only the future could tell.
2014-12-15 18:46:48くみ訳
>もっとも、今なお完成することなく広がっていくこの織り絵の一員として、この子が迎えるにふさわしい存在になるのかどうか、その見極めは未来に委ねられることではあったが。
伊藤訳 >しかし果てしなく成長する彼のつづれ織りに、それが加わるに値するかどうかは、未来だけが決めることだった。 (「つづれ織り」には「タペストリー」とルビ) ここにある「彼」とは「神」のことです。私は「織り手」で統一しました。そのほうが日本語として自然に感じるから。
2014-12-15 18:59:22クラークが描いているのは、血肉の制約から解き放たれて霊体に進化を果たした異星人たちの精神ネットワークのことです。個と全の違いを超越した存在。原文ではHeと呼ばれています。ここは「彼」と直訳せず「織り手」と比喩表現で通したほうが、曖昧さが強みの日本語という言語によくなじむ。
2014-12-15 19:04:03何か高次の場があって、それがthe material(布地)。霊体に至った生命がそこに織り込まれてa design(織り絵)を形作る。それらが果てしなく広がる一大タペストリーがあって、デイヴもいずれその絵の一部となるのでは…そういうことです。「星の子」はその手前の存在?
2014-12-15 19:09:33