古鷹青葉を見守る衣笠さんbot #37
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味方で傷ついていない艦はもはや一隻たりともいなかった。空が少しずつ暗くなってきた。進行方向の海域に夜が帳を下ろしているのが見える。このままでは、敵艦隊に碌に被害を与えないままに取り逃がすことになってしまう! 「雷撃戦用意、放てッ!」 魚雷を放てたのは加古、古鷹ねーさん、叢雲だけ。
2014-12-16 00:49:23敵艦隊と距離のあるまま放った雷撃など当たるはずもない。案の定、敵艦の全てが放射状に放った雷撃の間をかいくぐって回避した。こちらも軽巡へ級、そして潜水ヨ級が放った魚雷を必死に回避する。あたりがいよいよ暗くなってきた。完全に暗くなる前に夜戦に突入するか否かの判断をしなければならない。
2014-12-16 00:55:18青葉は夜戦を決行するか思い悩んでいるようだった。私は青葉に向かって叫んだ。 「まさか撤退するなんて言わないわよね!?やられっぱなしじゃ帰れないわよ!?」 私が残している火力は20.3㎝(3号)連装砲一基のみ、魚雷は皆無、機関はおかしな駆動音を立てている。それでも私はやる気だった。
2014-12-16 01:00:52敵艦隊は相変わらず輪形陣を保ち輸送ワ級はその中心で守られている。護衛の深海棲艦はせいぜい小破止まりで全艦健在。ワ級を仕留められる確率は限りなく低い。常識的に考えれば、撤退して体勢を立て直すべき状況だろう。けれど、私たちはもう10回以上も出撃しては被害を受けて撤退を繰り返していた。
2014-12-16 01:05:50現状はドツボにはまってしまっている。今まで順調に攻略が進んでいた分、突然深海棲艦に圧倒されるようになって誰もが混乱している。流れが悪くなっているためか、出撃しても主力艦隊にたどり着けず道中で大破艦が出て撤退する確率も上がってきている。ならば少ないチャンスは逃すべきじゃない。
2014-12-16 01:10:16「青葉!」 私は繰り返し青葉に叫んだ。皆私と同程度か、それ以上には損傷している。けれど、ワ級を撃沈できる可能性はゼロじゃない。私はその考えだけに頭を支配されていた。そうして、青葉が口を開いた。 「……夜戦、突入します!全艦別命あるまで発砲禁止!夜陰に紛れて接近します!」
2014-12-16 01:20:09すぐ前を行く味方の姿もおぼつかないほどの暗闇の中、私たちは深海棲艦たちが放つ微かな光を目標に増速した。そして、私は味方に気取られないようにゆっくりと艦隊を離れ、敵艦隊のはるか後方につけた。目的は、奇襲。敵艦隊のすぐ背後まで接近し、青葉たちが砲火を開いたのと同時に痛撃を加えるのだ。
2014-12-16 01:27:13慎重かつ大胆に、敵輪形陣の背後に接近していく。連装砲一基しか残っておらず火力は貧弱。輪形陣最後尾のタ級を沈めるにはうんと近づく必要がある。出来ることなら、輪形陣内側のワ級を直接狙い打ちたい。その分危険にも近づく。冷や汗が流れる。まだ近づく。タ級の息遣いが聞こえそうなほどにまで。
2014-12-16 01:35:59金色に光る眼が私の姿を捉える。その眼を見た瞬間、私の全身が総毛立った。深海棲艦の感情は私たち艦娘にもわかりづらい。常に嗤っていたり怒っていたりと表情が一定なためだ。けれど、タ級の表情に意外そうな色はないことだけははっきりとわかった。その笑みは、私をあざ笑うかのようでもあった。
2014-12-16 01:43:48すべて、ばれていた。私が戦艦タ級flagshipは電探を搭載していることを思い出したのと、私が足に力を込めて横っ跳びに回避行動をとったのと、タ級の砲弾が海面を叩いたのは、ほぼ同時だった。轟音と熱風、そして至近弾の破片が私の全身を襲う。着水時にバランスが崩れる。
2014-12-16 01:47:49砲弾を吸い込んだ海面が激しく揺動する。一撃目を外したタ級の砲口が旋回する。私の体を恐怖が捕えそうになる。止まらず動こうとしたけれど一向に進まない。激しく揺れる海面に両脚のスクリューが空転する。焦りだけが私の心を支配する。 そして、タ級の砲口の空虚が、私をまっすぐに見据えた。
2014-12-16 01:54:57