熱弁を述べてから 「じゃあ、最高のパンケーキと、コンポート!いただきまぁぁすッ!」 小学生もかくやというはしゃぎ方でしかし丁寧に皿の中身を口に移していく。 「甘いのは好い」
2014-12-16 23:10:49「……ごちそうさまでした」 甘い匂いと後味。手触りのある味に、心を馳せて 「美味しかったぁ……」 妾(つま)にも食わしてやりたかったな、と心では呟き。 「……さて、と。夜もあと少し 行こうか。応急処置だけでも覚えて、クォーツとロックで切り盛りしてけるよーにしないとな!」
2014-12-16 23:11:04熱弁に若干、気圧された様に軽く身を引いた。 「あー、まァ、あんたが分かんないんじゃ、あたしは余計わかんないわな。ま、美味いンならイイのよ」 喜びように反し、綺麗な所作で空にされて行く皿。それを眺めて、しばらく、小刻みに肩を揺らしていた。
2014-12-16 23:34:29ともあれ食欲が満たされた様なら何よりだとばかり、満足そうな笑みを向けていた。内心に呟かれた言が、音と拾われる事は無かろうが。 「あいよ。早足で行くよ。夜が明けたら、すぐに本番が始まるからね」 彼が食べて居る間に、工具を並べ差すベルトを二つ、準備していた。
2014-12-16 23:35:18「この大きさで入ると思うけど、通んなかったら穴空けるから言っとくれね。 作業する時は必ずコイツが必要になる。忘れないように、つける癖をつけとくんだ」 一つを、目の前で装着の仕方を見せるように腰に巻き、もう一つを男へ渡す。装備が終わり次第、部屋を出、歩き出すだろう。
2014-12-16 23:39:37「ン、よしよし。腰の骨ンとこで、キツめに締めとくのがオススメだ」 アテにしてんよ、と。戸の音に被せて囁いた。扉を開き、また段差を昇り行く。
2014-12-17 16:12:49そこから階段を昇る距離は、小部屋へ至るよりも長かった。次第に無機質な音が、壁を伝い届くようになる。きしむような音、回る音。そして規則的な音。 「ここだ」 高みの窓から差し込む月星の細い明かり。広い壁面に一つの扉。
2014-12-17 16:12:59その扉を開くと、辺りに響く音は、ひときわ大きさを増した。 「入口閉じてね。あと、動いてるヤツは触らんように気ィ付けて」 中はそれほど広くない。四角い骨組みの中央から、緻密に繋ぎ合わせた歯車が各所へと延びている。それに歩み寄り、手招いた。腰から、工具の一つを引き抜きながら。
2014-12-17 16:13:06クォーツに近寄り、ロックのベルトの同じ工具に、手を添えるだけ添えておくがまだ抜かない。 「ああ、心の準備ならできてる、やっぱり二分、いや30秒、あー5秒でいい 気持ちの昂ぶりと心細さを抑える時間をよしもう大丈夫だ!」 長々と喋ってる間に落ち着いたようで。 「教えてくれ」
2014-12-17 21:13:57「初めて見る奴は大体そう言うなァ」 感嘆の声に、からからと笑いを立てた。 「あはは、あわてなくてイイから急いで落ち着けー……ロックあんた動き出した方が落ち着くタイプか」 喋りながら平常心に向かった男を『記録』後、ぽつり。
2014-12-17 22:10:24「ホントは時計の動きを止めてから来るんだけど、今は飛ばす。これの真ん中にある箱を開ける。そいつ握んな」 顎で、男がベルトに下がる道具へ添えた手を示す。 「コイツの開け方自体は簡単だよ。四つの角にある金具を外せばイイ」 話す最中緩やかに、周囲の金具の速度が落ちる。
2014-12-17 22:10:33響く音が鈍くなる。音と音の間隔が広がる。壁越しの響きが、やわらいで。 「この面の角っこに、バッテンついたマルあるよな。これに今持ったヤツの頭を差し込んで、回すンだ。時計回りに」 女声が告げる頃には、全ての機構が完全に止まっていた。男の膝ほども無い金属の箱の傍に、屈み込む。
2014-12-17 22:11:00「先に気をもみ続けるが、実際に相対してみれば、腰を据えられる。そういう感じかなぁ ……開けるぞ。こうで、こうだな……」 面の留め具を外した。
2014-12-17 23:31:26「あー……まあ、トチらず進められりゃね。焦って巻き込みとかは充分気ィ付けて」 らしからぬ慎重さを零しつつ。そうそ、と作業の様子を見つめながら、様子を伺いかける声。 「したら、その板を外すンだ」 告げる侭に開くなら、中に透明な棒が一本。手の幅程の長さに、指の輪程の太さの、
2014-12-18 07:52:02石英。確かに、これはーー希望だ。 宝飾品を好んだことは、ない。だが、ここに息遣いを、息吹を感じるのだから。 きっとこれは美しいものだと、思える。 「……ああ。クォーツだ」
2014-12-18 08:06:34「あァ、あたしってこんななンだなァ」 其処に有る自身を見て、気恥ずかしげに眼を細めた。 自然に育まれた鉱物としては不自然な程の透明度。虹色を帯びて横切るヒビだけが、浮くほどに。 「そいつが砕けたら、無傷の物に交換して貰うよ。モノの保管場所は、工具がある部屋の金庫の中だ」
2014-12-18 09:50:40「他の事は、向こうへ行けば幾らだって教えられる」 ヒビが刻まれる毎に、息吹は薄れ、いずれ規則的な音が外れて、終わるのだろう。 「でも、心臓が止まったら動けない。誰だっておんなじだ。だからロック、あたしの心臓が止まったら、頼んだよ」 ────『私の命は確かに預けた』。
2014-12-18 09:55:50「これが砕けたら、新しいものと交換」 繰り返す。 「工具置き場の金庫にある」 繰り返す。 「悪魔王や、フィーアのような御力は俺には、ない」 ゆっくり、触れる。
2014-12-18 16:30:38「……物が魂を宿すことがあると云う それはまあ、大事にすれば……福をなすとか、なんとか」 傷(ひび)に、赤色の血が流れていく。 「……俺はお前の傷を繕う虚だ」
2014-12-18 16:30:58石英が、赤みを帯びた石英となって 「仮に石英としての性質を、命たる血を通わして満たしたならば 心臓は動き続ける。それが、医療だ」 そうだろう、ブラウン。 「……完全にクォーツが止まったら、新しいのに交換するぜ」
2014-12-18 16:31:11繰り返される言の葉に、ひとつひとつ頷く。 「ロック? ……────」 透明な石を取った手を不思議そうに見つめていたが、それが色を仄かに帯びたことに目を見開いた。
2014-12-18 17:00:44そこに有るのは、正確無比の記憶が再現しただけの唯の『石』だ。しかし、『血』を受けたそれは有機物の様に、仄かに脈打つかのようだった。 「……参ったね、こりゃあ。ブラウンにも礼を言わないといけねェじゃないの」 肩を軽く上下した。
2014-12-18 17:05:32「予定変更だ。帰ったら、まずはあんたに徹底的に叩き込むよ。修理や調整よりも、時計を止めて、そっからもっかい動かし直すための操作を覚えるのが先だ」 険しい顔をして、黒い瞳を榛色が睨み上げた。 「今のをやるなら時計を止めるだろ。その間、あたしは多分、動けないからね」
2014-12-18 17:09:24